014
次の更新も再来週の3/30になります。
早朝のひと悶着が事なきを得て、仲良く朝食を済ませた三人は甲板にいた。毎朝恒例――当然ラプラスは初参加だ、の征界船の点検のためだ。
作業をするのはミカだけだが、「魔獣」の存在がミカの一人作業を良しとはさせない。
「魔獣」とは古来、魔力を有する獣のことを指す言葉だった。それがいつしか、魔力を有していなくても人に害成す生物のことをひとまとめにそう呼ぶようになった。
アルゴナウタイの上空を飛ぶ三つの影も、そういった魔力を有していない「魔獣」の一種だ。
ククリ鳥。
魔力を一切持たないが、足の後ろの指あたり、人だと踵に当たる位置に一枚の肉厚の鋭い爪を持っている。刃物のように頑丈で研ぎ澄まされた爪は、切り裂くことを目的に発達したのは明白だ。
その爪で獲物を切り裂くのが彼らの狩りの方法だ。
ミカたち三人が甲板に姿を現してからずっと円を描くように飛んでいたが、唐突に一羽がミカに狙いを定めて急降下を始める。
ククリ鳥には、前を飛ぶ仲間に付いていく習性があった。獲物に飛び掛かる時も同様に、我慢できなくなった一羽に後続が続く。
戦略性のない狩りだが、上空で鋭い刃物を付けて飛んでくることだけで十分人類の脅威となる。
降下するククリ鳥とミカの距離が近づくことで、風切り音がミカの耳に届いた。
「ぴゃっ」
己の危機を理解したミカは、かわいらしい悲鳴を上げた。
ミカの隣にいたラプラスも釣られるように、ジュ空の存在に気が付いた。
アルフレッドは風切り音を聞くまでもなく、頭上を飛翔する存在に気が付いていた。甲板に出たときには、すでにククリ鳥の姿を確認していた。
気が付いていながら放っておいたのは、一つに手が届かないからという至極真っ当な理由。もう一つがここでラプラスの出方を見るためだ。今朝の様子を見るに彼女には、何かしら人を害するだけの力は持っているはずだ。彼女の実力が一体どれほどなのか、見ておきたかった。
アルフレッドの思惑通り、ラプラスの魔力が励起する。
種類にもよるが、鳥類が狩りをする際に行う急降下は時に時速300キロメートルを超えることがあるらしい。
ククリ鳥はその一種。刻一刻という言葉が相応しくないほど、急激に距離を縮めてくる。
ラプラスに何か手があったとしても、今から詠唱していたのでは魔法の発動は間に合わない。
仕方なく、アルフレッドは剣の柄を握り、腰を落とした。
だが、アルフレッドの動作は不要に済んだ。ラプラスが、詠唱をせず魔法を発動させたからだ。
「霜下の世界」
まるで世界そのものを撫でるような所作で腕を横へ振ると、合わせてラプラスの前方も凍り付いた。
凍てつく世界は肌を刺し、飛来するククリ鳥を氷の彫像へと変えた。
凍り付き柔軟性を失ったククリ鳥の彫像は、生前目標にしていたミカに届くことは叶わず、体を砕きながら甲板へと転がっていった。
「ラ、ラ゛プラ゛ズ~~~、あ゛り゛がど~~~」
自分が標的にされていたのを理解していたのだろう、ミカが比喩ではなく文字通りラプラスに泣きついた。
「ふふんっ」
ぐしょぐしょの顔を押し付けられたラプラスは嫌がるどころか、むしろ随分気分がよさそうだ。
「今のは、魔法か?」
訝し気に、
詠唱を必要としないつまりは、いつでも人を殺せる手段を持っているのと同義だ。それなりの修練が必要であり、発動に速度を求められる場面とは往々にして戦闘に関わることが多い。
無詠唱を会得しているのは、戦闘を生業にしている者が多い。アルフレッドが訝しむのも納得できる。
ただ、無詠唱に関して問うにしては、アルフレッドの聞き方は変だった。アルフレッドの警戒心はそれだけが理由ではなさそうだ。
「魔法以外の何に見えるのよ?」
「……いやなに、魔法が使えるとは思っていなかったからな」
この場で根掘り葉掘り聞くつもりはないらしい。
「ふっ、見直した?」
「いや、ただの行き倒れから、魔法が使えるのに行き倒れたマヌケに降格だな」
アルフレッドの皮肉に、睨みを利かせる。険しい表情は長く続かなかった。
「ん、ふああ」
大きいあくびが口から飛び出ている。
すぐに変わる表情がすぐに変わる所は、子供らしい印象を与えた。
「眠そうだな」
「うん」
「昼過ぎには、次の村に到着予定だ。それまで寝とけ」




