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012

「おかわりっ!」


空になった皿を突き出した。勢いの良さは、空腹の表れだ。


「あーもう、口の周りベタベタになってるよ」


「ん、んんん」


ミカがテーブルナプキンを口元に持ってくるが、抵抗せずに口の周りについて肉汁を拭われる。他人に口を拭われるなんて嫌だが、今は羞恥心よりも空の皿を渡すことが重要だった。


「さっきと同じ味付けでいいか?」


「うん!」


「お腹が膨れたら、機嫌が良くなるって子供かよ」


「別に、機嫌よくなってないから」


皿を受け取ったアルフレッドは苦情交じりに、的外れなことを言っている。別に機嫌はよくなっていないし、「愛想悪くしてあっちから離れさせる作戦」も継続中だ。

だから、機嫌よく見えるのは彼の勘違いだ。


「はい、はい」


「ねえ、あなたたちは二人だけで旅しているの?」


問いかけたに深い意図はなかった。ただ単純に、手持ち無沙汰になったから、聞いたに過ぎない。


「そうだよー」


「こんなに大きい船なのに二人だけなの?」


「本当は、あと50人ぐらい乗るはずだったんだけどね。いろいろあって、二人だけで旅を始めたんだよ」


「ふうん」


「ラプラスの方こそ、一人で旅してたの?」


「そう。ソムドって街から来た」


「ソムドって言うと、ここから馬で1週間ぐらいだよね。ボクらがラプラスを見つけたとき、近くに馬はいなかったけど、もしかして歩いてきたの?」


「馬は、連れてたけど……」


自分でも、声のトーンが下がったのが分かった。あの出来事は、自分で思っている以上に傷ついているのかもしれない。


「道中で魔獣にでもやられたか」


アルフレッドが山盛りの肉を盛った皿をテーブルに置きながら、言いづらいことを平気で聞いてくる。

残念ながらこの大きな体には、微塵もデリカシーが詰まっていないのだろう。


「……違う」


魔獣に襲われたのならこの胸には、悔しさや魔獣に対する怒りが湧いてくるだろう。だがしかし、今もこの胸を占める感情は深い悲しみだ。

それは、事態がもっと深刻な話だったからに他ならない。


「逃げちゃった」


「は?」


「だから、寝ているときに、逃げちゃったの」


「それは…………、ツいて無いな。(つな)が緩んでたとか?」


「?いつも、(つな)なんて繋いでなかったけど?」


「普通、繋がないか?」


ミカも疑問を呈していた。


「あの子のことを、信頼してたから」


「ああ、うん。そっか」


なぜか、諦めにも似た表情でアルフレッドは、肉を頬張っていた。

隣を見ると、ミカもアルフレッドと同じ諦観を顔に浮かべていた。


「そういえば、ソムドからどこに向かうつもりだったんだ?」


「……行先なんて、ないわよ。とりあえず、どこかに行きたくて」


「今時、自分の探しの旅なんて流行らないぞ」


「あなたたちこそ、なんでこんな大きな船で旅しているの?」


「んー、ヨルムンガンドを倒すためって言ったら?」


「馬鹿みたい。だって、できるわけないでしょ」


我ながら、気遣いのかけらもない言葉だったと思う。


「そうかもね」


「どうやって、できるつもりでいるの?」


「英雄を集めるんだ。古今東西あらゆるところから英雄と呼ばれるような、強者を集めてぶつける」


「魔法書を集めるのもいいな」


「魔法書?」


ミカが疑問符を浮かべている。


「知らないのか」


アルフレッドは、ミカが知らないのが意外なようだ。


「魔法書。正式には、ヨハンの魔法書と言ってな。簡単に言うと、読むと魔法を習得できる代物なんだ」


「魔法を習得か。それって、普通に練習して習得しちゃダメなの?」


「魔法書で習得できる魔法は、一般的な魔法と違ってかなり特殊なんだ。死者を蘇らせるとか、他とは一線画す性能だよ」


「それを読めばボクでも最強の魔法使いになれるってこと?」


「無理だな。習得にはいくつか条件があるらしいが、一番厳しい条件が魔力量だ。魔力量が多くないと習得できるどころか、下手したら死ぬらしい。だから、お前も俺も無理だろうな」


「それ、本当に集める必要ある?」


「俺たちが無理でも、習得できる人材をどこかで見つければいいだけだからな。ヨルムンガンドを倒す手段を増やすという意味で、集める価値は大いにある」


黙々と食べていたおかげで、自分の皿は再び空になった。満腹感に満たされた胃袋は、もうおかわりは不要だと言っている。そのうえ、満腹感は眠気に変換されつつあり、二人の会話が子守唄に聞こえている。


「まあ、魔法書にはデメリットもあるから、一概に習得すべきとも言えないんだがな」


「デメリット?」


「ああ、習得した魔法以外の魔法が使えなくなるんだ、一般魔法含めてな」


「それは魔法使いにとっては致命的じゃないの?」


「ああ。だから、魔法書の収集はついでだな」


「まう、でめっと……じゃない」


魔法書のデメリットはそれだけじゃないよ、と言ったつもりだったが、眠気が口をフニャフニャにしてしまっている。


「アルフレッド、ラプラスをベッドまで連れて行っていってあげなよ」


「えー、やっと食べ始めた俺にそんなひどいこと言う?お前が連れけよ」


アルフレッドは、フォークで肉を口に運びながら、心底嫌そうだ。


「無理だよ。ラプラス、ボクより大きいんだもん。君がおんぶして連れて行ってあげてよ」


「おんぶ、してよ」


「……まじかよ、お前。最初と態度が違い過ぎて、お前がこちらを警戒してんのかどうか、分からなくなってきたよ」


「まだ、けいかい、してる、から」


「はい、はい」



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