夜は明けている
掲載日:2025/12/02
夜は明けている。
だが僕は、起きるはずの身体をともなっていなかった。
意識だけがベッドの上に浮かんでいる。
どこか遠くで、サイレンの切れ切れの声が響いている。
高く低く波打ち、すぐに闇に呑まれる。
現実の音なのか、それとも夢の残響なのか。
身体は硬直して、手先の感覚はざらつくほど冷たい。
寝具の縫い目が、指先に刺さるようだ。
朝の光が顔を撫でる。
起きなければならない。
いや、起きられるはずだ。
しかしその「起きる」は、どの段階までを指すのだろう。
意識だけが覚醒している状態を、我々は目覚めと呼べるのか。
夢はすぐに、無味乾燥な記憶の奥へ沈む。
草原、街、海。
どれも実体を持たず、明晰であるほど脆い。
思考が鈍れば、たちまち霧散してしまう。
僕は何度もこの境界線を往復した。
数えるのをやめたのは、虚しさのせいかもしれない。
唇が震え、かろうじて声を絞り出す。
「たす、けて……」
声は布団の繊維に吸い込まれるように消えた。
──と、そのとき。
「おい、こっちだ! こっちから声が聞こえた! 瓦礫をどかせ!」
その声が微かに耳に届いた瞬間、頭の中のまどろみは吹き飛んだ。
そして全身に電気が走るように身体はドクンと鼓動した。




