聖女に転生した私は、愛する悪役令嬢の為に馬鹿王子にグーパンチ!
今日はポポロニア国王立学院の卒業記念パーティーの日だ。王宮の大広間は煌びやかに飾り付けられ、多くの卒業生や貴族たちが集っている。
本来ならば和やかに宴が行われているはずなのだが、今、この場は緊張感で張りつめていた。
今年の卒業生でもあるモフリオ・デ・ポポ第一王子が、婚約者を壇上に呼びつけて、とんでもない宣言を始めたからである。
「公爵令嬢ヴィオレッタ・プンプン! 今、この場において、俺は貴様との婚約破棄を宣言する!!」
一方的に婚約破棄を言い渡されたヴィオレッタ嬢は、美しいブロンドの縦ロールを揺らしながら王子を睨みつけている。
そして私は王子の隣で、その様子を息を飲みながら見守っている。
「……んっ?」
私はハッとした。
あの馬鹿王子の宣言を聞いた瞬間、脳裏を駆け巡る怒涛の記憶。具体的には、転生前の前世での記憶。そう、私は全てを思い出した。
ここは乙女ゲーム『運命の聖女と輝く王冠』の世界だ。
「――っふ、」
私は湧き上がる激情を押さえることが出来なかった。ぐっと拳を握り締めると、隣でドヤ顔を披露している王子に向き直る。
「ふっざけんなぁああああっ!!!!」
右ストレートの打ち方は、右股関節に体重を乗せて、腰を回して、こう!
私はありったけの力を込めて、拳を振りぬいた。
グーパンチは、完全に油断していた王子の顔面にクリーンヒット。
彼は、宙を舞った。
◇ ◇ ◇
私は前世で、『運命の聖女と輝く王冠』の過激派オタクだった女だ。
このゲームは平民出身の少女が聖女に選ばれ、王立学園に通いながら沢山の攻略対象たちと交流を深め、最終的には人間世界を滅ぼそうとする魔王を打ち倒すという内容だ。
各攻略対象ごとにマルチエンドが用意されているが、その中でも公式とされているのがモフリオ王子と結ばれるルートである。
実は初回プレイはこのルートに固定されており、クリア後に他のエンドが解禁されるのだ。
そしてこのルートに登場するのが、愛すべき公爵令嬢ヴィオレッタ・プンプン。
――通称、プンプン令嬢!
もう、まず名前が可愛い。超可愛い。
そして金髪縦ロールにつり目で、ちょっと困り眉。ベリーキュート。
貴族は魔法が使えて当たり前のこの世界で、彼女は不幸にも魔力を持たずに生まれてきた。
それでもめげることなく努力して、学業では最優秀の成績を納める頑張り屋さん。
常に身だしなみも礼儀作法も完璧!
いつも完璧を目指して神経を尖らせているせいで、彼女は高飛車で傲慢だと周囲から思われがちだ。
でも、本当はどこまでもストイックなだけなのだ。
プンプン令嬢は幼い頃に、モフリオ王子の婚約者となった。
そして頼りない彼のことを思って、いつも厳しく接していたのだ。
それをあの甘ったれた馬鹿王子は、彼女が自分を嫌いだから冷たくしていると思い込み、散々そのことを周囲に愚痴り散らした。
それだけにとどまらず、彼は王立学院に入学後は自分を持ち上げてくれる人間を集めて派閥を作った。
プンプン令嬢を自分に近寄らせないようにして、学院内で彼女を孤立させていったのだ。
そして最終的には編入生である聖女の優しさに絆されて、彼女と結ばれるために婚約破棄宣言をおこなうのである。
私はプンプン令嬢の熱烈大ファンだった。
他人に厳しく、自分には更に厳しい。孤独になろうとも言い訳せず、自分の道を強く貫く。
その美しい生きざまは、私を虜にした。
更に、芯の強さを持ちながらも不器用で損をしがちなところは、私の心を掴んで離さなかった。
勿論、外見の美しさも言わずもがな彼女の魅力だ。だって、それは努力の証。
あと普通にめちゃくちゃ可愛い。
そんなプンプン令嬢を見ることが出来るのは、モフリオ王子ルートだけ!
だから私は血の涙を流しつつ、百回以上周回した。周回する度に王子の馬鹿具合に怒りをたぎらせ、プンプン令嬢の麗しさに浄化され、どんどん彼女を好きになった。
プンプン令嬢と幸せになる夢小説も大量に書いた。
◇ ◇ ◇
「思い出したら腹立ってきた! もう一回殴らせろ!!」
怒りに任せて私が詰め寄ると、床に這いつくばっていた王子は困惑しながら怯えた表情を見せた。
「ま、まってくれ、どうしたんだピカリナ! いつもの優しく可憐な君はどこに!?」
「ピカリナ?」
私は首を傾げて、自分の姿を確認する。
身に付けているのは、白いレースのついた清らかなドレス。指には紋章の刻まれた聖なる指輪。
「!!」
少し離れた場所にある鏡に映った私は、ストレートの長い黒髪に、白い花飾りを付けている。
更に目を引くのは、この国の聖女の証である特徴的な虹色の瞳。
「ピカリナ・フワリ!!」
そう、私はこのゲームの主人公であり、慈愛の聖女、ピカリナ・フワリに転生していたのだ。
「まさか、ピカリナ! ヴィオレッタに呪いでもかけられてしまったんじゃ――」
「聖女ビーム!!」
馬鹿王子のあまりに愚かな発言に耐え切れなかった。私は気づけば彼に、聖女ならではの光魔法を打ち込んでいた。それも、殺傷力のあるやつ。
「ぐふっ」
モフリオはチリチリに焦げて倒れた。周囲からどよめきと悲鳴が起こる。衛生兵が慌てて駆け寄ってきて、彼の治療に当たり始めた。
この国において、聖女とは魔王討伐の要であり、王家と言えども蔑ろにはできない立場である。とはいえ、流石に王子を半殺しにして見逃される訳はない。
近衛騎士たちが集まって来て、私を囲い込む。しかし、聖女である私があまりに突然豹変したために、兵士たちも動揺して対応に困っている様子だった。
そんな光景を見て、真っ先に前に進み出たのは、やはりプンプン令嬢だったのだ。
「ちょっと、ピカリナさん? 貴女、一体なんのつもりですの!? 仮にも一国の聖女が、王太子殿下に暴力を振るうなんて!!」
「はああいっ! 仰る通り! 私が全て悪うございますううっ!!」
こんな唐突な状況に、戸惑いながらも真っ先に毅然として対応する。ああ、なんて素晴らしい、100点満点の行動なんだろう。
私は愛する推しの凛々しさに感激し、胸の前で手を組みながら目をキラキラと輝かせた。
「ああ、なんと素晴らしく神々しい御姿……! ちょっと靴舐めても良いですか?」
「ひいっ」
私は完全なる本気で正気だったのだが、プンプン令嬢は怯えながら後ずさってしまった。
いけない、いけない。愛する推しを困らせるなんて、反省しなくては。
「くっ、近衛兵ども、何をしている!! ピカリナの様子が明らかにおかしいだろう! 今すぐ保護しろ! きっとヴィオレッタが元凶だ、そちらも捕まえろ!!」
そんなやりとりをしていると、王宮の大広間に怒鳴り声が響く。
衛生兵の治癒魔法で少し回復した馬鹿王子が、床に這いつくばりながら激昂したのだ。
「は、はいっ! かしこまりました!!」
我に返った近衛騎士団たちが、素早く隊列を組みつつ迫ってくる。
しかし私の心の中は、それどころではなかった。
「”ヴィオレッタが元凶”だ??」
馬鹿王子の浅はかな発言、それを了承する近衛騎士団、全てが私の逆鱗に触れた。
当の本人であるプンプン令嬢は、気丈を装いつつも悲し気に目を伏せている。
「許せないっ!!」
私の怒りは頂点に達し、そのことが私の聖女の力を限界まで引き上げたらしかった。
「――許せないっ!!!」
私はプンプン令嬢を横抱きに――お姫様だっこで抱え上げると、迫りくる兵士たちに真っ直ぐ対峙する。
「きゃあっ!? あ、あのっ、ピカリナさん!?」
ああ、推しの困惑する声が可愛い。
私は萌えと愛を力に変えて、彼女へ自信満々に微笑む。
「大丈夫です、ヴィオレッタ様。貴女様は私がお守りします、この世界の全てを敵に回したとしても!」
「……!?」
周囲に強風が巻き起こる。それと同時に、神々しい光りが満ちていく。
わたしは気合を入れて叫んだ。『運命の聖女と輝く王冠』における最高レベルの範囲攻撃技。
「セイント・エクストリーム!!」
巨大な十字架が無数に出現し、次々に降り注ぐ。
近衛騎士団たちはなすすべなく攻撃の餌食となり、あっと言う間に倒れ伏して全滅となる。
「ふふん、ざっとこんなもんよ! こちとら聖女レベルカンストランカー、舐めんなっての!!」
ドヤ顔で叫んだ後、私は腕の中のプンプン令嬢の様子に気づいた。
「……ぷるぷる」
あ、駄目だ、完全に怯えている。小さくなって硬直して、追い詰められたチワワみたいな顔になってる。可愛い。可愛いけれど、いつまでもこのままではいけない。
私は彼女を安心させるように、微笑んだ。
「大丈夫ですよ、ヴィオレッタ様! 私は誓って、ヴィオレッタ様を害する輩を殲滅することにしか力を使うことはありませんから!」
「それが恐ろしいんですけれど!?」
「えっ?」
「いえ、あの、ピカリナさん? 貴女、一体何があったのか分かりませんが、とにかく様子が変ですわ! 病院で診て頂いた方が――」
「ヴィオレッタ様」
「はい?」
「結婚しましょう!!」
「……!? 何がどうしてそうなるんですの!?」
「お優しい言葉に感動しました! 結婚してください!」
「いえ、その、私たちは女同士ですわ? それに、私は王太子殿下の婚約者で……」
「性別については、法律を変えさせるので大丈夫です! それに、婚約はさっき破棄されましたので無問題です! あの馬鹿王子が唯一役に立つことをしましたね!!」
「ば、馬鹿王子……!? 法律を変えさせる……!? ピカリナさん!?」
「陛下!!」
私は遠巻きにこの事態を見守っていた、ポポロニア国王にバシッと声をかける。彼は動揺した様子でビクリとした。
一国の王として、この混乱に対応しなくてはいけないものの、どうすれば良いのか分からず途方に暮れていたのだろう。その気持ちは分からなくもないが、これまでプンプン令嬢の不遇を放置していた輩を、慮ってやるつもりはない。
「私はこれから、サクッと魔王を倒してきます! その対価として、私とプンプン令嬢――じゃなかった、ヴィオレッタ様との結婚を認めてください!!」
「魔王を倒す……!? どういうことだ、聖女よ、お主一人でか?」
「余裕ですよ! どれだけ周回したと思ってるんですか!」
「周回……?」
「魔王がいる世界じゃ、ヴィオレッタ様も安心して過ごせませんからね! 倒しに行ってあげますよ!! その代わり、今後は私の言うことを聞いてください!」
「え、ええっ……」
「まず、見晴らしがよく気候も良い場所に、お屋敷を建ててください! 庭付きで! ヴィオレッタ様は薔薇がお好きなので、庭園もきちんと造ること!」
「どうしてご存じですの!?」
「それから、今後、私とヴィオレッタ様が生涯、幸せに暮らしていけるだけの環境を保証すること!」
「待ってください、まだ、私は結婚に了承していませんわよ!?」
「大丈夫です、認めさせて見せます! どれだけ想い続けたと思っているんですか! 貴女の心、射止めてみせますよ!!」
「……っ!」
「あとはその都度、要求を送りますので、3日以内にかなえてください。それが出来ない場合、私の全ての力を使って国を滅ぼします」
「魔王だ……、新たな魔王が生まれてしまった……」
頭を抱える王様を放置して、私は改めてプンプン令嬢を抱きしめ直す。
「さあ、行きますよ! 新たなる生活の始まりです!」
「……ああ、もう、ふふ」
ずっと困惑の表情を浮かべていたプンプン令嬢が、諦めたように柔らかく笑った。
「本当におかしな人」
「よく言われます!」
こうして私たちは、堂々と王宮を後にした。
さあ、魔王を倒しに行こう! 素晴らしい愛する人との生活が、私には待っている!
お読みくださり、ありがとうございました!
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今後も異世界恋愛ものに挑戦していきたいです!




