第7話 過去の影、未来への光
二人は、そのまま宿へと戻った。
「さて、無道。部屋は別々になるけれど、構わないかしら?」
宿の受付を済ませた後、セレネが少し申し訳なさそうに言った。
「え、部屋別々なんですか?ちょっと残念…」
無道は、思わず呟いた。
「ふふ、何を期待していたのかしら?」
セレネは、くすくすと笑いながら無道をからかった。
「べ、別に何も…」
無道は、顔を赤らめて目を逸らした。
「あら、顔が赤いですよ?」
セレネは、さらにからかうように無道の顔を覗き込んだ。
「うっ…」
無道は、言葉に詰まり、ますます顔を赤くした。
「冗談よ。異世界の宿では、男女は部屋を別にするのが一般的なの。変な誤解をされたら困るでしょう?」
セレネは、そう言って微笑んだ。
「そ、そうですよね…」
無道は、ほっと胸を撫で下ろした。
「それでは、また明日。ゆっくり休んでくださいね。」
セレネは、そう言って自分の部屋へと向かった。
無道は、一人部屋に取り残された。
「…疲れた。」
無道は、ベッドに倒れ込み、天井を見上げた。
今日一日の出来事が、走馬灯のように頭の中を駆け巡る。セレネとの出会い、異世界の街並み、図書館での勉強、そして税金の話……。
「本当に、色々なことがあったな…。」
無道は、目を閉じ、深い眠りに落ちていった。
無道は、夢を見ていた。
そこは、見慣れた日本の街並みだった。しかし、どこか薄暗く、陰鬱な雰囲気が漂っていた。
無道は、ボロボロの服を着て、うつむきながらトボトボと歩いていた。(金がない…)
「また、税金の差押えか…。」
無道は、手にした通知書を握りしめた。そこには、見慣れない税金の文字と、容赦のない金額が書かれていた。
「どうして、こんなことに…。」
無道は、過去の自分の愚かさを呪った。
ギャンブルにハマり、借金まみれになったこと。
(俺みたいな人間は、ギャンブルで一発当てるしかないじゃないか…)
仕事を転々とし、職場に馴染めず無職になったこと。
(…人間関係が、俺にはうまくできなかったな…)
そして、税金のことを何も知らず、差押えを受けるまで放置していたこと。
(政治?経済?その日暮らしの俺には考える余裕もなかった。)
「俺は、本当にダメな人間だ…。」
無道は、膝から崩れ落ち、地面に突っ伏した。
「もう、何もかも嫌だ…。」
無道は、生きる気力すら失いかけていた。
その時、一冊の本が、無道の目の前に現れた。
それは、古びた魔法書だった。
無道が本を手に取ると、中から光が溢れ出し、文字が浮かび上がった。
『税金とは、国家を維持するための血液である。』
『しかし、その血が腐れば、国は滅びる。』
『汝、異世界の住人よ。その知識と勇気で、腐敗した血を浄化せよ。』
無道は、夢の中でセレネと一緒に図書館で勉強していた時のことを思い出した。
「税金は、国家を維持するための血液…。」
無道は、夢の中で呟いた。
「そうだ、セレネ様が言っていた。税金は、国民の生活を支える大切なものだって…。」
無道は、夢の中で立ち上がろうとしたが、過去の失敗が脳裏をよぎり、足がすくんだ。
「でも、俺は…何もできなかった…。」
無道は、夢の中で呟いた。
その時、セレネが夢の中に現れた。
「無道、あなたはまだ終わってないわ。」
セレネは、優しく微笑みながら、無道に手を差し伸べた。
「セレネ…様…。」
無道は、夢の中で呟いた。
「あなたは、まだやり直せる。過去の失敗を乗り越え、新しい自分になることができる。」
セレネは、力強く言った。
「でも、俺は…。」
無道は、まだ過去のトラウマから抜け出せずにいた。
「大丈夫。私がついてるわ。一緒に、この世界を変えましょう。」
セレネは、無道の目を見つめ、そう言った。
無道は、セレネの言葉に勇気づけられ、再び立ち上がった。
「ああ、ありがとう、セレネ…。」
無道は、セレネの手を握りしめた。
その瞬間、無道はまばゆい光に包まれ、意識が浮上していくのを感じた。