第3話 市場と政治の交差点
「さあ、無道。早速街へ出て、この世界のことを教えてあげるわ!」
セレネは、無道の腕を取り、部屋を飛び出す。
「え、ちょ、ちょっと待ってください、セレネ様!」
無道は、セレネに引っ張られながら、慌てて後を追う。
二人がやってきたのは、賑やかな市場だった。色とりどりの屋台が並び、人々が行き交っている。
「すごい…!まるで、中世のヨーロッパみたいだ。」
無道は、目の前の光景に目を奪われる。
「ここは、この国で一番大きな市場なの。色々なものが売られているから、見て回るだけでも楽しいわよ。」
セレネは、目を輝かせながら、無道を連れて市場を歩き始める。
「見て、無道!あそこの屋台では、美味しそうな果物が売ってるわ!」
セレネは、ある屋台の前で足を止める。
「本当だ。食べたことのない果物がいっぱいある。」
無道は、興味津々で果物を見つめる。
「ねえ、無道。何か買って食べましょうよ!」
セレネは、無道にそう提案する。
「そうですね。せっかくですから、何か買ってみましょう。」
無道は、セレネの提案に賛成する。
二人は、屋台でいくつか果物を買い、ベンチに座って食べ始めた。
「ん~!この果物、すごく美味しい!無道も食べてみて!」
セレネは、美味しそうに果物を頬張る。その姿は、普段の女神の姿とは違い、普通の少女のように見える。
「(普段は女神様なのに、こうして一緒にいると普通の女の子みたいだな。…それにしても、黒いポニーテールがよく似合う。白いブラウスに青いスカート姿も、清楚で可愛いし。)」
「本当だ。甘くて、今まで食べたことのない味がする。」
無道も、果物の美味しさに感動する。
「この世界には、まだまだ美味しいものがたくさんあるのよ。これから色々教えてあげる。」
セレネは、笑顔でそう言う。
無道は、ふと自分の体を見下ろした。以前よりも若返っている。
「そういえば、俺…体が若返ってる?」
無道は、セレネに尋ねる。
「あら、気が付いたの?そうよ、無道は異世界に転生する時に、肉体が20歳くらいに若返ったのよ。」
セレネは、いたずらっぽく笑う。
「マジか。異世界ご都合主義ってやつですね。」
無道は、苦笑いを浮かべる。
「ふふっ、まあ、そうね。でも、無道は若返っても三枚目よね。」
セレネは、可愛らしく笑う。
「…ひどい。」
無道は、肩を落とす。
市場を歩いていると、セレネは色々な人に話しかけたり、商品の説明を受けたりしている。その姿を見て、無道はセレネがこの世界の住人と親しい関係を築いていることに気づく。
「セレネ様は、ここの人たちと仲が良いんですね。」
無道は、セレネに話しかける。
「ええ、私は普段は人間の姿でこの街で生活しているの。だから、みんな私のことを普通の女の子だと思っているわ。」
セレネは、そう説明する。
「人間の姿で…?それは、どうしてですか?」
無道は、疑問に思う。
「それは、色々あるのよ。でも、今はまだ秘密。」
セレネは、いたずらっぽく笑う。
「そうですか…。」
無道は、それ以上は聞かなかった。
二人は、市場を歩きながら、色々な屋台を見て回った。セレネは、無道に色々な商品の説明をしたり、この世界の文化や歴史について教えてくれた。
「ねえ、無道。あそこの広場に行ってみましょう。」
セレネは、市場の一角にある広場を指差す。
「はい。」
無道は、セレネと一緒に広場へと向かった。
広場には、大勢の人が集まり、演説を聞いていた。演説をしているのは、いかにも偉そうな格好をした男だった。
「あれは、この街の市長よ。」
セレネは、無道に説明する。
「市長?この人も、国民が選んだ代表者ですか?」
無道は、セレネに尋ねる。
「そうよ。この国は、地方自治も行われているの。市長は、この街の住民の代表として、街の政治を行っているわ。」
セレネは、そう説明する。
「地方自治…?自治体って聞いたことあるけど、自治って何ですか?」
無道は、首を傾げる。
「自治っていうのはね、自分たちのことは自分たちで決めるってことよ。この街のことは、この街に住む人たちが自分たちで決めるの。それが地方自治よ。」
セレネは、そう説明する。
「自分たちで決める…?例えば、どんなことを決めるんですか?」
無道は、セレネに尋ねる。
「例えば、道路を作ったり、公園を作ったり、学校を作ったり、ゴミの処理をしたり、そういうことを決めるの。自分たちの街を、自分たちの手で良くしていくってことね。」
セレネは、そう説明する。
「なるほど。なんとなくわかった気がする。」
無道は、少し理解した様子を見せる。
「でも、あの市長の演説、何か怪しいな。」
無道は、市長の演説を聞きながら、そう呟く。
「あら、そう思う?どこが怪しいの?」
セレネは、無道に尋ねる。
「だって、やたらと自分のことを持ち上げているし、他の候補者のことを悪く言っているじゃないですか。それに、具体的な政策の話が全然ない。」
無道は、そう答える。
「ふふっ、よく見ているわね。無道は、政治のセンスがあるかもしれないわね。」
セレネは、感心したように笑う。
「そうですか?でも、何か引っかかるんですよね。それに、あんなに人が集まってるけど、本当にみんなが市長の演説を信じているのかな?」
無道は、周囲を見渡しながら呟く。
「あら、何か気になることでも?」
セレネが尋ねる。
「だって、あの中に、市長の支持者じゃない人も混ざってる気がするんだ。なんか、無理やり連れてこられたみたいな人もいるし…」
無道は、そう呟く。
「…まあ、選挙っていうのは、色々なことがあるのよ。」
セレネは、少し困ったように答える。
「色々なこと…?例えば?」
無道は、セレネに尋ねる。
「例えば、組織票とか、お金の力とか…」
セレネは、言葉を濁す。
「組織票?お金の力?それって…」
無道は、セレネの言葉の意味を理解しようとする。
「…まあ、選挙は国民の代表を選ぶ大切な機会だけど、時には、残念ながら真っ当ではないことが行われることもあるの。でも、多くの人達は、より良い街にするために真剣に考えて投票しているわ。」
セレネは、そう言って話を少し軌道修正する。
「そうか…。」
無道は、少し考え込む。
「大切なのは、有権者である私たちが、候補者の言葉を鵜呑みにせず、自分で考えて判断することよ。そして、選挙に参加すること。私たちの代表を自分たちで選ぶって、とても重要なことなの。」
セレネは、そう続ける。
「自分で考えて判断する…か。難しいな。でも、選挙に参加するのは大事なんですね。」
無道は、少し納得したように頷く。
「そうよ。無道も、これから色々なことを学んで、自分の頭で考えられるようになってね。」
セレネは、優しく微笑む。
無道は、生前の自分を思い出していた。
「…そういえば、俺、生前は一度も選挙に行ったことがなかったな。」
無道は、呟く。
「あら、そうだったの?どうして行かなかったの?」
セレネが尋ねる。
「だって、面倒くさいじゃないですか。誰がなっても同じだと思ってたし、自分の一票で何かが変わるとも思えなかったし…」
無道は、正直に答える。
「…そう。でも、無道がそう思っていたように、多くの人が同じように考えていたら、どうなると思う?」
セレネは、少し真面目な表情で尋ねる。
「…誰も選挙に行かなくなって、一部の人たちが勝手に政治を決めるようになる…とか?」
無道は、答える。
「そう。そうなったら、私たちの意見は政治に反映されなくなる。自分たちの代表を自分たちで選ぶことができなくなってしまう。それって、とても恐ろしいことだと思わない?」
セレネは、そう言う。
「…そうですね。今、セレネ様の話を聞いて、初めて政治の大切さに気づきました。俺、本当に何も考えてなかったな…」
無道は、後悔の念を滲ませる。
「気づけてよかったわ。無道は、これからもっと色々なことを学んで、自分の頭で考えられるようになるわ。」
セレネは、無道を励ます。
「はい。ありがとうございます、セレネ様。」
無道は、セレネに感謝する。
「さあ、無道。そろそろ王城へ行きましょう。今日は、王城の図書館で、この国の歴史について勉強する予定よ。」
セレネは、そう言って無道を促す。
「はい。よろしくお願いします。」
無道は、セレネと一緒に王城へと向かった。