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姫神オーバードライブ  作者: 月夜野桜
第一章 時間暴走(オーバードライブ)
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第一話

 少女は深く呼吸をしてから、決意の面持ちで扉を押し開く。その瞬間、粗末な隙間だらけの板壁の表面に張り付いていた、悍ましく黒光りする多数の何かが反応した。六つ脚を高速に動かし、節の多い甲殻で武装されたその身で、敏捷に這い回り始める。


 まだ翅は生えておらず、幼生であることを示していた。しかしてその大きさは、人間の赤子の頭ほどもある。数の多さも影響して、人にとって充分な脅威となる敵であった。


 生理的嫌悪感が、少女の背筋を戦慄となって這い上がる。必死にそれに抗いつつ、手のひらを下に向けて右腕を伸ばすと、左から右へと水平に動かしながら力強く叫んだ。


雷霆クラウソラス!」


 手の通った軌跡に沿って、眩く輝く小さな光の剣が次々と生成されていく。ほんの数センチしかないそれは、剣というよりは刀子と呼んだ方がよい大きさだったが、確かに剣の形状をしていた。


 黒光りと同じ数だけ生み出された光の剣は、様々な軌道で飛翔していく。強固な殻をいとも容易く突き破って、その急所を正確に射貫いていった。力を失った黒光りは壁から剥がれ落ちていくが、その脚はまだ動いており、しぶとくも生き残っていることを示している。


「このー、しつこいんですよー! 雷霆クラウソラス、集中連射ー!」


 少女が再び大声を張り上げて手を振り回すと、無数の光の剣が次々と飛んでいき、黒光りたちを幾度も貫く。十数秒もすると、その体躯を分断された黒光りたちは、流石に動きを止めた。


「ふー、やーっとなんとかなりました」


 かいてもいない汗を拭う仕草をすると、鎖骨のあたりまで伸びた艶やかな黒髪が揺れる。牡丹色の円らな瞳が満足げに輝いていた。


『神殺しの剣でこんな下らない魔獣を倒すとは……。少しは使いどころを弁えよ』


 少女の心の中で、威厳に満ちた感じのやや低い女性の声が流れる。


うぬの固有魔法で倒せば良かったであろう。あの大きさの幼生ならば、鉄の短剣でも充分に刃が通る。その腰の後ろのものは飾りか?』


 挑発的な言動に対して、少女は唇を尖らせて口答えをした。


「だってあれ素早いですしー。たくさんいましたしー」


『あの程度の動き、時間暴走オーバードライブを使えば止まっているようなものではないか。無闇に我の力を引き出すでない』


 やや不機嫌な様子で、心の中の声がそう告げる。少女は僅かに顔を曇らせ、反省した様子で下を向きながら、ぼそぼそと小さな声で謝った。


「ごめんなさい、レティスさん……」


 しかしすぐに顔を上げると、黒光りの残骸を指差しつつ、半眼になってまた言い訳をする。


「でもでもですね、あれには使います。近づくだけでも気持ち悪いから、あれだけは絶対嫌です。触らないで済むよう、遠隔攻撃で倒してるのです。だから報酬半減を我慢して、後片付けなしにしてもらったんですからー」


『全く、うぬという奴は致し方のない……』


 心底呆れた様子の声が心の中で響いた。溜息まで聞こえたような気がする。しかし少女はにっこりとすると、明るい声で笑いながら振り向いた。


「まあまあ、レティスさん、そう言わずに」


 少女がレティスと呼ぶ声の持ち主の溜息が、また響く。それには気付かなかったかのように勢いよく扉を開けつつ、少女は元気に宣言した。


「これで本日の依頼は全部達成。村の平和は今日もアーシェさんによって守られましたー!」


 外に出ると、亜麻色の短髪の女性が、やや大柄な体躯を崖際の樹の幹の裏に隠すようにして、こちらを見ていた。少女は手を振りながら駆け寄って、満面の笑みで語りかける。


「ネリーさん、終わりましたよー。このアーシェさんの手にかかれば、あっという間です!」


「おや、あの数相手にもう終わったのかい。相変わらず速さだけは一丁前だねえ。助かるよ、アーシェ」


「えへへー」


 アーシェと呼ばれた少女は、照れもせず屈託のない笑顔でそれに応じた。そして真顔に戻ると、山の斜面にへばりつくようにして並ぶ家々を見上げながら、独り言のように口を開く。


「それにしても、お家の中にまで入り込むなんて、山の方まで瘴気が上がってきてるんですかねー? 最近増えてきた気がするんですよね、村の中での魔獣退治」


 短髪の女性ネリーは、腕組みをしながらアーシェとは逆、坂の下の方を見る。そちらには僅かにだけ家が建っていて、その先にある木製の柵と門が、村の終わりを示していた。溜息ともとれる大きな息を吐きながら、ネリーも独り言のように呟く。


「もう少し上の方に引っ越したいねえ。だがもう建てる土地がない。上の方はクロカミたちに譲ってやらないとならないからなあ」


「あの人たち、このあたりだと瘴気に中てられて生きてけないですもんね……。最近なんか数増えてるし」


 アーシェは哀し気な瞳になって俯く。その小さな背中をネリーが優しく押しながら言った。


「ほれ、組合へ行って報告してこい。これ、確認証な。あたしは……後片付けか、あれの……」


 ネリーは中の惨状を想像したのか、身震いをしながら引き攣った笑いをアーシェに向ける。


「それじゃ、ネリーさんがんばってー」


 誰のせいで頑張らなければならないのかは深く考えず、アーシェはにっこりと笑うと坂を登って走り出した。


うぬは相変わらず……』


「え、なんですか、レティスさん?」


『いや、何でもない』


 何か言いたげなレティスの様子に首を傾げつつ、檜皮葺の木造家屋が建ち並ぶ山道をアーシェは駆け上がっていく。陽が低くなってきて、涼しい風が吹き始めていた。


 家の前で何かの作業をしている女性、窓から顔を出して眺める童女、椅子に腰かけ涼んでいる老婆。赤・青・緑に金や銀。様々な色の髪や瞳をした村人たちが、元気よく駆けていくアーシェに向かって、にこやかに手を振る。


「相変わらず走ってるねー」


「またこけんなよー、ポンコツー」


「砂糖が手に入ったから、今度お菓子作ってやるよ。遊びにおいで」


 十人十色に呼びかけてくる村人たちに、アーシェは手を振り回しながら笑顔で答えた。


「ありがとー、ありがとー! アーシェさんは、幸せいっぱいですー」


 百メートルほども進むと、一際大きな建物が山側に建っていた。『姫神村互助組合』と古代の聖刻文字で彫り込んだ看板を掲げてある軒を潜り、中に入る。アーシェは右手を挙げて元気よく声を張り上げた。


「組合長ー、お仕事終わっ――」


 右手を前に、左手を後ろにして、アーシェは地べたに俯せに叩きつけられた。その勢いのまま前に滑っていく。止まったのは、丁度受付台の足元に右手が付いたところだった。


「わはははは、そんな身体を張ってまで笑わせてくれなくていいよ、アーシェ」


 上から笑い声が降ってきたあとに、やや野太い女性の声がかかる。


「うぐぐぐ、痛いです……。せっかく無傷で終わると思ったのに……」


 擦りむいた鼻と腕を摩りながら、アーシェは涙目で立ち上がった。


「そんな何もないところで転ぶポンコツで、よく魔獣と戦えるよな、お前。そのうちアタシのように傷だらけになるぞ?」


 組合長は全身を揺らして豪快に笑いつつ、自身の身体に多数残る古傷を指してそう言った。


「下の方では大丈夫ですからー。山の上は空気が薄いからなんですー!」


 アーシェが頬を染めながら言い訳をすると、心の中でレティスの声が響く。


『空気ではなく瘴気が薄いからの間違いであろう』


「それは内緒ですー!」


『別にいいではないか、それくらいは』


「だってだって、それって――」


 アーシェが気付いたときには、レティスの声が聞こえていない組合長は、目をぱちくりさせつつ呆然としていた。


「あ……えっと……」


 俯くアーシェに向かって、再び組合長は豪快に笑う。


「独り言癖、まだ直ってないのか。……アタシも小さいときはよく祝女様ごっこをして、姫神様と会話する遊びをしていたよ。まあ、そう気落ちすんな。誰も気にしちゃいない」


『姫神と会話しているというところは、共通しているな。我の場合、うぬが勝手にそう名付けただけだが』


 レティスの声が再び心の中で響いたが、アーシェは流石にそれを無視した。本日の依頼を達成して受け取ってきた確認証を懐から取り出し、受付台の上に並べる。


「はい、全部終えてきましたー。これでいくらですかねー?」


 組合長は四枚の確認証にさらりと目を通すと、すぐに報酬額を計算して告げた。


「全部で六十三円だな」


「えっと、じゃあ十円だけもらってきます。三円は貯めといてもらって、残りはいつも通りに!」


「あいよ。いつも感心だねえ。……ほれ、十円玉」


 組合長が差し出した、緑色の錆の付いた茶色い円形の貨幣を受け取る。アーシェはそれを窓から差し込む明かりにかざしつつ眺めた。摩耗して読みにくくなっているが、確かに古代文字で10と書いてある。


「ありがとー! ノルマも達成したし、今日はいい日ですねー!」


 笑顔でぶんぶんと手を振ってから、外へ飛び出し左に曲がる。すると背後の坂の上から、温かな感じの透き通った声がかかった。


「あら、今帰り?」


 アーシェが振り返ると、金色に輝く長い髪を風に靡かせて、優しげな微笑を浮かべた歳若い女性が立っていた。


「祝女様!」


 アーシェはその顔に明らかな喜色を浮かべて、女性の元へと駆け寄った。


「そんな余所余所しい呼び方はせず、昔のようにセシリアと呼んでくださいまし」


 寂し気にそう言う彼女に向かって、アーシェはやや俯きながら、不満そうに言い訳をする。


「だって、村長に向かって馴れ馴れしいと怒る人もいますから。セシリア様は祝女様で、村長様で、どう呼んでもやっぱり同じお方なので、一番怒られない呼び方をするのが賢いのです」


 最後は腰に手を当てて、自慢気に言い切るアーシェ。セシリアは諦めたように微笑んだ。


「祝女様も今帰りですか? 下行ってたんですか?」


 好奇心丸出しの瞳で見上げつつ問いかけるアーシェ。年齢に似合わぬ、母のような包容力のある微笑を浮かべながら、セシリアは答える。


「帰りでございますが、行きでもございます。今日は朝早くに、瘴気に侵されて弱った方をクリスが連れ帰って参りましたので、御神体への祈祷が済んでいないのでございます。暗くなる前に、山頂まで行かなくてはなりません」


「え、くーちゃん帰ってきてるんですか? どこ? どこにいるんですか?」


 思わぬタイミングで親友の名前が出たことで、アーシェは飛び跳ねて喜びつつ辺りを見回した。セシリアはそれを見ながら苦笑すると、頭を撫でて落ち着かせつつ残念そうに言う。


「それが、浄化を見守るとそのままどこかへ行ってしまいまして。もしかしたら、オーメに戻ってしまったのかもしれませんね。あなたとは違った意味で、落ち着きのない子ですから」


「そうなんですね……アーシェさん、がっくし……」


 アーシェは大げさに肩を落として下を向いた。が、すぐに顔を上げると、笑顔に戻って言う。


「祝女様、引き留めてごめんなさい。お気をつけて登ってきてください」


「ありがとうございます。あなたこそお気をつけて。この鼻の傷、薬草くらいつけておいた方が良いですよ」


 先程擦りむいたところをセシリアに軽く押されて、痛みに顔をしかめるアーシェ。


「大丈夫です、すぐ治りますんでー」


「それから、洞穴の奥には行かないように。危険でございますからね」


「わかってますって。自分のお家ですし。それじゃ、またー」


 アーシェは大きく手を振ると、セシリアに別れを告げて坂を駆け下り始めた。


『毎度思うが……』


「毎回毎回念押ししすぎですよね、祝女様」


 心の中で聞こえた声にアーシェが答えると、レティスは苦笑ととれる小さな笑いを響かせてから訂正をした。


『そのことではなく、村で一番上の立場の人間なのに、一番腰が低いことに感心しているのだ』


「んー、性格なんですねー、きっと。あとあれじゃないですか、鬼婆がいるから!」


『本人の前で言ったら殺されるぞ。ほれ、そこに……』


「ひぇっ!?」


 アーシェは慌てて立ち止まり、周囲を見回すも、話題の人物の姿はどこにもなかった。


「いないじゃないですかー! 脅かさないでくださいよー!」


 そんなアーシェの様子を見て笑い声を上げる村人たちにまた手を振りながら、どんどんと下って村の入り口の門も開け、外に出る。そのまま山肌に沿って坂を駆け下りていくと、いくらも行かないうちに、その先の開けた光景が目の前に広がった。


 山間の小さな盆地に、青々とした畑が広がっている。所々黒く見えるのは、陸稲ではなく野菜を植えている場所だろう。収穫後、土が剥き出しになった場所が目立つのだ。


 アーシェはそのまま盆地まで下りていく。道すがら何人かにすれ違って手を振りながら、下り切って平らなところまで出ると、畑を避けて左に曲がった。少し進むと、山肌に埋まるようにして、石造りの壁と大きな洞穴が見える。そこがアーシェの家だった。


「たっだいまー!」


 誰もいない洞穴に入ると、入り口横のテーブルに置いてあったカンテラを手に取った。火種の蓋を開けて火を移す。三つ並んでいる部屋の入り口は通り過ぎ、そのまま奥へ向かって走っていった。


『早速約束を破るのだな……』


「行かないとは言ってませんー」


 詭弁でレティスを黙らせると、セシリアに注意されたことは無視して、やや上り坂になっている洞穴をどんどんと進む。見事に平らな灰色の壁面と床は、ここが人工的な洞穴であることを示していた。奥の広い空間に出ると、そこにも誰もいないのに、アーシェは再び声を上げる。


「たっだいまー!」


 しかし今度は、その声に反応した相手が一人。いや一匹。左手の壁に開いた穴から、毛むくじゃらの姿が勢いよく飛び出してきた。


「ルーチェー!」


 跳び上がってきた身体を受け止めて、そのまま床に押し倒される。四つ脚にふさふさの尻尾、尖った耳に長い鼻面。開かれた口には、鋭い牙が並んでいる。狼の魔獣ウォーグと全く同じ特徴を持つ姿。しかしその表情は笑っているかのよう。嬉しそうにアーシェの顔を舐め回していた。


「あははは、あはははは、ルーチェ、くすぐったいってばー」


 アーシェは狼の魔獣ウォーグの子、ルーチェと名付けた自分の同居人の毛むくじゃらの身体を撫でまわしながら、一緒に地面を転げ回った。温かく、柔らかい肢体は、とても恐ろしい魔獣のものとは思えない。その心地良さに癒されながら、しばらくじゃれ合った。


 それに飽きたのか、アーシェの腕を逃れると、ルーチェは元の穴に入り込んでいく。アーシェはそれを追って狭い穴を潜り抜け、壁の向こう側の通路に出た。


「ルーチェー、こっち落盤してるから、あんまり奥は行っちゃダメですよー」


 人語は解さぬのか、それとも単に言うことを聞かないだけなのか。ルーチェは奥へと走っていってしまって、アーシェは仕方なくその後を追った。分かれ道を左に曲がると、いくらも進まずに行き止まり。そこにルーチェはいた。


「ここ好きですよねー、ルーチェは」


 行き止まりには金属で出来た机があり、ルーチェはその下に入り込んでいた。上には何やら複雑な形状の、不思議な金属製の物体。アーシェには具体的に何なのか判別はつかないが、現代の細工技術で作れるものではなく、古代遺物の一つであることは明らかだった。


 今となっては読み方も意味も失われた古代の線文字。それを縁に多数並べて刻んだ円盤が嵌め込まれている。似たようなものが左手の壁面にも埋め込んであって、そちらはもっと小さい。その横に、アーシェでも一部は読める、古代文字が刻み込まれた金属板が嵌め込まれていた。


「この……を……けることが出…るほどの文……を人……が……び……つた時、ここに……る古代の……と……まわしき……が……る」


『前回から全く解読が進展しておらぬ』


 アーシェが読める部分だけを読み上げると、レティスがそう突っ込みを入れてくる。


「うるさいですねー。別に調べてるわけじゃないんですから、進まなくて当然じゃないですか」


 各種の祭事のときなどに使う単純形状の祭祀文字は昔から変化していないようで、それはアーシェにも読める。他に刻まれているのは、複雑な形状の聖刻文字。姓や特別な地名などには今でも使われており、ごく一部だけは知っていて読むことが出来る。


「これ世界中の人の名前教えてもらえば、全部読めるようになるんですかね?」


『どうであろうな。残っていない文字が多いのではないかと我は思う。この村の人間も、全員姓に神という文字が含まれ、家によって違うのは一文字だけではないか』


「そっかー、アーシェさん神代かみしろだし、祝女様は神和かんなぎ。くーちゃんは神薙かんなぎ。レティスさんは姫神ひめがみ


『我が姫神レティスなのは、うぬが村の名前を勝手につけただけであろう』


「だって、姓ないって言うしー。……もしかしたら、無い村もあるのかな? 知ってる他の村の人は、やっぱり村の名前一文字使ってますね……。これは、聞いて回ってもダメそう……」


 アーシェは肩を落として失望を示すと、ルーチェを抱き上げて元の広間へと戻る。


『我の時代にはなかった文字か、遠い異国の文字だ。読めぬことを責めるなよ?』


「神殺しの咎人さんとやらも、意外と大したことないですねー」


『ふむ……では明日からは雷霆クラウソラスなしで依頼をこなすが良い。もう二度と貸さぬ』


「ふぁっ!? そ、それはちょっと困るんですけどー!? 生命力とか吸い取ってるんだから、ちょっとくらい貸してくれたっていいじゃないですかー!」


『もう少し用途を限定してくれぬと、こちらが困る』


「わ、わかりました……善処します……」


 レティスは意外と意地悪だ。その言葉は口にせず呑み込み、アーシェは再び穴を潜って広間に戻った。ルーチェの食料と水が器に充分残っているのを確認すると、頭を撫でくり回してから別れを告げ、入り口の方へと一人帰る。


 外に面した部屋を居間として使用していて、そこで夕食にすることにした。昼間焼いておいた草食魔獣の肉と、硬くならないよう濡れた布で包んでおいた蒸し米が今夜の食事。それを頬張りながら、藍色に染まりつつある東の空を窓の向こうに見た。


 クリスが遊びに来てくれないかと期待して、外を見ながら食事を続ける。もう出歩かないだろう時間であることを知りつつも、どうしてもそう思ってしまう。


『あんな無愛想な女、来んでよろしい』


「だって淋しいしー! たった一人の親友だしー!」


『我がいる。奥にはルーチェもいる。それで充分ではないか』


「そうですけども……」


 結局クリスが遊びに来ることはなく、アーシェは奥へ行ってルーチェを抱いて夜を過ごした。


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