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姫神オーバードライブ  作者: 月夜野桜
第三章 解析(アナライズ)
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第二話

「手掛かりー、手掛かりー」


 アーシェは暗闇の中、半ば手探りに近い状態で探索をしていた。ランタンが足りないのでフローラに譲り、アーシェは他の二人の灯りで僅かに見えるだけの闇の中を探っている。


『そこに扉があるようだ、アーシェ』


「おお、レティスさん、見えるんですか。……取っ手とかないですよ?」


『ふむ……何か扉の横に仕掛けがついているようだが……我にもよくわからぬ』


「ここですか? なんか凸凹してますけど……。これは解析アナライズしてもらわないとわからなそうですね……」


 奥まった一角をそのままぺたぺたと触って探り周るも、他には特に何もないように思える。


「ねえフローラ、ここに文字が書いてあるけど、これは読んだ? 外のとは違うわよね?」


 入り口の方だろうか、クリスの声が聞こえてきた。アーシェは視線が通る位置に移動して、棚の間の通路越しに見守る。フローラが寄ってきて、壁を眺め始めた。


「これ気付かなかったよ。入り口のすぐ横とか……」


「あなたも後ろは振り返らない性格みたいだからね、アーシェと一緒で……」


「むむむ、前向きと言ってよ、もー。とりあえず、これは外のとは違うみたい。読んでみるね」


 フローラが解析アナライズを発動したのか、金色の光が壁を照らす。アーシェはそれを目指して、足元に気を付けつつ近寄っていった。


「神による最後の審判後の過酷な世界を無事生き残り、再び文明を取り戻した我が娘たちへ」


「我が娘たち……? これアーシェさんたちのご先祖様が残したってことですか?」


 アーシェは強く興味を惹かれて急いで戻り、壁を眺めた。


「これを見ている君たちは、きっと瘴気への抵抗力を持ち、魔法のような不思議な力を使えるようになった新しい人類だろう。心して読んで欲しい。ここに入れたということは、君たちはこの先、我々と同じ道を歩む可能性がある。それを避けるために、私はこれを書き残す」


「新しい……人類?」


「黙って聞いてなさい」


「我々人類は、ついに神による最後の審判を受けることになった。我々は自らの欲望のままに、汚染を顧みず、自然を破壊し、他の生物たちを次々と絶滅に追いやってきた。人類は地球を侵す病原菌のような害悪であると神々は判断し、星を守るために神話の世界から舞い戻った」


 フローラはそのまま読み上げ続ける。古代人が乗り移ったかのようにアーシェは錯覚した。


「単なる迷信と思われていた神々は、全てが実在した。様々な宗教や伝承で語られる神々が各地で降臨し、都市を攻撃して破壊した。僻地に逃れた人々を絶滅へと追い込むため、何らかの霊的な毒素を地上に撒いたようだ。人間だけに害をなし、次々と死に至らしめている。私で最後だ。もう生き残る術はない。君たちは同じ道を歩まぬよう祈る。自然を愛し、人を愛し、動物と植物を愛し、謙虚に生きるのだ。この地球は一個の生命であることを努々忘れぬように」


 そこでフローラの言葉は終わる。解析アナライズを解き、アーシェとクリスの方を向いた。


「全部は理解出来なかったけど、この世界を滅ぼしたのって、悪魔じゃなくて……」


「神だったのね……。やはりあれは天使像。悪魔じゃないのね……」


『我がかつて召喚されたとき体験したのと同様のことが、他にもあったようだ。人は同じ過ちを繰り返し続けるのだな……』


 その眼からぽろぽろと涙を零しながら、アーシェは震える声を出す。


「アーシェさんたち、神様に滅ぼされちゃうんですか……?」


『大丈夫だ、アーシェ。神の怒りを買ったわけではない。自らの欲望のために力を振りかざす、驕り高ぶった人々だけが天罰を食らう。お前たちはそのようなことをしていない。これを書き残した人物は、そうなる前に踏み留まれるよう、警告してくれたのであろう』


 レティスの声が心の中で響いた。クリスもアーシェの頭に手を載せ、そっと撫でながら言う。


「アーシェ、大丈夫よ。あなたのことは私が守る。この姫神村の人たちも」


「そうだよ、あたしたちが守るんだよ、ここでいっぱい勉強して。ここはきっと、そのために古代人が残してくれた記録なんだよ。……見て、ここ」


 フローラは今読み上げた古代文字の下に書かれた、何かの図面のようなものを指差す。


「これ、この中の説明みたい。棚の配置が書いてある。読んでみるね」


 解析アナライズを発動し、左手の人差し指で図面を示しながらフローラは読み上げる。


「ここが歴史。ここが農業。それから科学、医学、数学。五つあるみたいだね。奥は準備中って書いてある。棚は右上から順に読むことを想定してあるって」


「歴史と農業はわかりますけど……科学って何ですか?」


「さあ? 医学とか数学もよくわかんないね」


 三人で顔を見合わせる。フローラがカンテラを振り上げ、歩き出した。


「よし、じゃあその科学とやらが何なのか、さっそく調べてみよう!」


「おー! 疑問に思ったら、調べるのですー!」


「わかるように書いてくれてればいいんだけどね……」


 せっかく取り直した気分に水を差すようなことを言ったクリスに、アーシェとフローラの視線が刺さる。クリスは目を泳がせつつ、歩みを速めて先に立って進んだ。


「この位置よね。右上から順にって言ってたわね。……随分と高いところまであるのね……」


 三人の中で一番背の高いクリスでも届かない位置まで棚がある。村で一番大きい人でやっとと思える高さで、クリスは飛び跳ねて最上段の右端からガラス板を取り出した。


「読んでみましょう。フローラ、あなたしか読めないのだから、しっかりと働くのよ」


「モチのロン! 早速あの機械……顕微鏡だっけ? あれのところへ!」


 急いで舞い戻り、ガラス板を台の上に嵌め込む。ランタンの位置を調整して照らしつつ、フローラが顕微鏡を覗き込んだ。一度目を離してから、解析アナライズを発動して読み上げ始める。


「原始的だが、核戦争後にどれくらいの機材や知識が残されているか予測するのは難しい。念のため、実生活に役立つ単純機械を、その仕組みと理論付きで一通りここに記録する」


「どういう意味ですか?」


「んー、よくわかんないこともたくさん書いてあるけど、つまりは一番簡単なことから始めてくれてるみたい。……お、実際これ簡単じゃない? 見てみて。ほらこれ」


 フローラは解析アナライズを解くと、顕微鏡を覗くようアーシェを促す。


「ふぇっ!? アーシェさん、古代文字読めないですよ?」


 しり込みして嫌がるアーシェに、フローラが笑いかける。


「大丈夫、わかりやすく絵も描いてあるんだよ。それ見れば、何だかわかるはず」


 アーシェは半信半疑で筒を覗いてみた。煌々きらきらと輝く線が示しているものは、確かに知っているものに見えた。人が棒で大岩を動かそうとしている絵。棒の下に小さな岩を置き、そこを支点に動かす様が描かれている。隣にはそれを単純化した図式に、何やら色々と書き込んである。


「これ……梃子ですか?」


 アーシェは首を傾げつつフローラを見上げた。首を縦に振っている。


「ちょっと私にも見せて」


 アーシェが譲ると、クリスも筒を覗き込みながら口を開く。


「確かに梃子のようね。こんな簡単なものが古代の技術なの……?」


「念のため簡単なものからって最初に書いてあったし、あたしたちに合わせて当たり前のものから始めてるんじゃないかな? そこ、詳しい仕組み書いてあるんだけど、意味がよくわかんないんだ。何か計算してるみたいに見えるから、古代の人は詳しく理解してたみたいだよ?」


「言われてみれば、経験的に知っているだけね。これで岩を動かせるのが何故なのかって、深く考えたことないわ。どれくらいの長さなら動くかとか、なんとなくだもの」


 古代人はなんとなくではなく、深く研究して使っていたことを知り、三人で顔を見合わせる。


「とりあえず、次見てみましょ。アーシェさん持ってきます」


 アーシェは気を逸らせ、時間暴走オーバードライブを発動して棚に戻った。そのまま高く跳んでガラス板を引き出す。時間暴走オーバードライブ中は身体が軽くなるからか、通常よりかなり高く跳べて、アーシェでも余裕で手が届いた。欲張って四枚も腕に抱えて顕微鏡のところへと戻る。


「はい。アーシェさんの特急便ですよー」


 順番を間違えないように、右端二番目のものからフローラに手渡す。再び顕微鏡に設置すると、フローラが解析アナライズを発動した。次々と見ていくが、三人の表情は徐々に暗くなっていく。


「車輪に天秤、それから滑車。原始的とはいえ、簡単過ぎないかな? あたしたちにとっても当たり前すぎるよ」


「まだたった四枚しか見てないわ。次は知らないものかもしれない。私はむしろ、まだ知らないものを見つけても、理解出来なくて役に立てられないことの方を恐れてる」


「そう言われるとそうかも……。仕組みを説明しているところは理解出来ないから、絵を見てすぐわかるようなのじゃないと、何なのか知ることすら出来ないかも……」


 急に自信を無くしたように下を向くフローラ。ガラス板を取り換えながらアーシェは言った。


「がっかりするのは、全部見てからにしましょう。まだあんなにたくさんあるんですから」


 その言葉に気を取り直したのか、フローラは再び解析アナライズを使いつつ筒を覗く。


「ん……これは……?」


「お、お? 新しいの見つけたんですかー?」


「えっと……新しいのかな? 滑車なんだけど……使い方が新しい? ちょっと見てみて」


 アーシェが覗き込むと、確かに滑車のようなのだが、二つ描いてある。滑車に滑車がぶら下がっているように見えた。


「これ、なんなんですか? 意味あるんですか、二つ使うことに?」


「えっとね、動滑車って書いてあった。二つ使うと、半分の力で動くって」


「初耳ね……私にも見せて」


 クリスも覗き込み、しばらくそのままガラス板を動かしつつ観察していた。


「この仕組みが書いてあるような部分は、理解出来ないのよね? 何か矢のようなものが書いてあるけれども……何なのかしら、これ?」


「ごめんね、解析アナライズはね、こっちの知識に合わせた説明までは、してくれないんだよ……」


「でもこれ、実際に試してみること出来ますよね? アーシェさんでも作れそうですもん」


 クリスが顕微鏡から目を離し、アーシェを見ながら言う。


「そうね、実際やってみるのが早いわ。問題は、そもそもこれが何の役に立つのかということだけども……」


 三人とも思案顔になり、用途を考え始める。


「やっぱり井戸ですかねー? お外の井戸、滑車付いてますし。半分の力って言ってましたよね? これに取り替えると、もしかして楽々上がるようになるんじゃ……?」


「あ、そうだよ! 井戸で水汲み上げるの、結構大変だもん」


「行ってみましょう。特別な加工をしなくても、滑車を取り外して組み合わせるだけで出来そうに思えるわ」


 顔を見合わせると、我先にと三人とも駆け始める。古代の本が多数収められた、古代図書館ともいうべき遺跡の外へと、元気に走り出していった。


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