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仕方がなく死にたい

作者: 左間右郎

「平成の30年という長きに渡り、国民に支えられながら国民の為に祈るという務めを全うできたことはとても幸せなことでした。」


それは突然、街角のモニターに映し出された。

忙しなく街を行き交う人々が空を見上げるように足を止め、天皇陛下の一つ一つの言葉に耳を傾ける。


「一つの時代が終わるのか」


僕はその将来確実に教科書に掲載されるであろう歴史的な場面に学校を抜け出して街を彷徨っている無気力な状態で出会う。


正確には抜け出してはいない。

家を出てから学校に向かわなかっただけだ。


僕は「普通」にすらなれなかった。

僕の人生の歯車は中学生時代から狂い始めた。


中学生になってから皆が変わっていき、自分は何も変わらない。

なのに、変わったはずの皆が変わっていないとみなされ、何も変わっていないはずの僕の方が変わり者だ。

人生というのはベルトコンベアのようなもので、その上に僕達は存在していて、動かなければベルトコンベアに流され、その上で動き続ければその場に留まることができる。


「変わらないために変わり続けないといけない」


そんなこの世界の真理に気づいたときにはもう遅かった。


クラスメイトも時代も変わり続けて、僕を全然待ってくれない。

この焦燥感は青春時代には誰でも経験をするものなのか。

それにしても、上手くいっていないのは僕だけのような気がする。


もっと昔は、自分のことをヒーローだと思っていた。

それは、単なるヒーローアニメを自分自身に投影してだけだ。

僕には妹がいて、僕はいつだって妹の正義の味方だった。


妹がクラスメイトにいじめられていても、いつも助けて、妹の手をとるのはいつも僕だった。

そして、妹と手を繋いで帰る。


「お兄ちゃんは私のヒーローだね!」


いつか言われた気がするそんな言葉がとても嬉しかった。


街角のモニターを見上げ佇んでいた僕はやっと自転車を押しながら歩き出す。ここにいたって何も解決しない。

今、僕は2回目の家出をしている。

まさか自分がこんなにも問題児だったなんて、無駄に高いプライドと家出をしているという現実との間で僕の心にはぽっかりと穴が空いていた。


それまでの全ての不満をぶつけたのが一回目の家出だったが結果的に自分が悪いということで終わった。

夜遅く、家に帰って来た時に妹が泣いていた。


そして、2回目の家出。もう午後の3時を過ぎていて、家を出る時に持ってきたスマホには学校からも親からも電話がかかってきている。

もうスマホの画面には12件の無視した電話の履歴がある。


「何でこんなことになったんだろう。」


中学生から狂い始めた人生は、高校生になっても変わらなかった。

より一層、何かの辻褄が合わなくなるような感覚に陥っていた。

自分を一言で表すのならば「空っぽ」だった。


僕はみんなから笑われていた。


学校では、トイレの中にいることが多かった。

理由は簡単で、ここにしか居場所がないからだ。

二年生の冬休みには部活も退部した。あと少しで引退っていうところで辞めた。


全てが上手くいかなくなっていた。


自分は失敗作なんだと突きつけられた中学生時代にはもう完全に心が折れていた。

何に対してもやる気が出ない。

自分を失敗作だと認めたくない無駄に高いプライドが邪魔して、親にも誰にも相談ができない。


そんなマグマのような誰にも打ち明けられない思いが噴き出して再度どうしようもなくなったのが、今回の2回目の家出だ。


そして、傍に自転車を停め、波打ちの岩壁に座り、僕のぽっかりと空いた心を埋めてくれる最近ハマっているアイドルの最新曲を聴きながら、海を眺める。


ここで海を見ているとなぜか大きな地球という船に乗っているような不思議な感覚になる。


この地球号はどこに向かっているのか。

僕はこの船に乗って大海原という人生を彷徨う。誰も正解を教えてくれない。

誰か地図は持ってないのか。


今、僕が学校という社会が敷いたレールから抜け出して、こんなに焦っているのは、皆が普通に出来ていることができないのは、自分のせいなのか、他の誰かのせいなのか。


「...船に乗ってるのか、電車に乗ってるのか、忙しいな。」


本当は、その答えを知っている。

でも、その答えを見ないふりをしながら、もがいているこの状況はそんなにもおかしなことなのか。


「ここの岩壁から飛び降りよう」


自殺なんていけないことだって分かっている。

こんな自分勝手なことが許されるはずもないことは分かっている。

でも、どうしようもないのだ。


僕は今、幸せじゃないんだ。

もし遠い場所に幸せがあるのなら、僕にはもう探す気力がない。

もう僕は疲れた。


なのに、こんなに死にたいのに、あとは飛び降りるだけなのに、死ぬことすら面倒になってきた。


僕は客観的すぎる。


衝動の炎が湧き上がるのと同時にその炎に水をかけ、消し始める自分がいる。


帯にも襷にもなれない中途半端な自分。

生きる気力もなければ、死ぬ勇気すらない。


そして今、岩壁の上で嘆いている。


「なんで、これでそこまで不幸じゃないんだ。」


なんの不自由もなく暮らし、五体も満足で、家族もいる。

何がそんなに不満なんだ。

悲劇の主人公の自分に酔っているみたいだ。


「仕方がなく死にたい」


家族に「仕方がない」と思われるように。

不慮の事故とかに巻き込まれて、自分に自殺願望があったなんて知られないまま死んでいきたい。

事故や災害で仕方なく死にたい。

死にたい、というよりは、消えたい。


そんな言葉を思いつきで発した瞬間、自分の気持ちの説明ができてしまって、これまでの不満への熱が完全に無くなってしまった。


「え、ちょっと待って。」

全てが馬鹿馬鹿しくなった。


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