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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

親父はスゴいなぁ

作者: ヒロモト

「あぁぁぁっ!おどうざぁぁん!」


妹のひろこが親父の墓前で泣いている。

こいつは母さんが死んだ時もこうだった。

四十越えてよくここまで感情を剥き出しに出来るな。

お前の子供も引いてるじゃないか。


「……タカヤス兄さんは悲しくないの?」


「時間が癒してくれたよ」


親父は俺にだけ余命の話をしてくれた。


(お前にしか話せねぇよ)


俺だってショックだったし悲しかったけど長男だしな。

親父が生きてる間に親父が心配している事は全部解決してやった。

新しいネット検索エンジン『ワイルズエッジ』の開発で俺には金があったから全て金で解決出来た。

遺産も家も妹にくれてやった。

高いスーツも買ってやって遺影まで撮影したんだ。

親父も未練はないだろう。


「……すごいお父さんだったよねぇ」


「そうか?」とは言わなかった。

妹がキレるのが目に見えている。

答えは沈黙。


……親父か。

頑固で寡黙な男だったな。



「お前だけの部屋だ」


八歳。兄妹で俺だけ自宅の物置を改造したプレハブ小屋生活を強要された。

冷暖房完備。外に簡易トイレ。

風呂と飯の時だけ家に帰った。


中学生になると親父に紹介された新聞配達のアルバイトをした。

小遣い+バイト代でリッチな少年だった俺はプレハブ小屋に女を連れ込んで酒とタバコを覚えた。

親父はそれに気がついていたと思うが何も言わなかった。


高校。なんとなく住んでいる町に飽きたので『本気で野球をしたいから』とか適当な事を行って県外の寮付きの野球の名門高校に通った。

嘘だとバレていたと思う。

高校3年間はアルバイトとセックスと喧嘩とギャンブルで大忙しだった。


大学。

「学費はお前が働いて出せ」と言われると思ったが三流大学の入学費も学費も全部親父が出してくれ、なんと仕送りもくれた。


《俺は高卒で働いてたからお前は大学に行け。学費を出すのは親の使命だ。気にするな》


だとさ。


息子に夢を託すタイプだとは思わなかったな。


大学卒業後、俺は趣味で作ってたゲームプログラムを企業に買ってもらって小さな会社を作った。

後の『ワイルズエッジ』だ。

この辺から……と言うか高校ぐらいから親父との思い出がない。

『たまには帰ってこい』とも言われなかったし、俺も帰る気がなかった。

母さんは割りと話が通じる方でたまに電話で話はしたな。

結婚する時と離婚する時と子供が生まれた時は流石に会いに行った。

会話は一言二言。

会いに行く度に老けて小さくなっていた。



「お父さんの遺言読んだ?」


「うん」


『タカヤスに全て任せる。タカヤス。お前は甘やかしすぎてしまった。初めての子供が可愛すぎてな。すまないなひろこ。可愛がってしまって。今。辛いだろう?私が悪い。すまないなぁ。ここで一句。悲しみは。時に死よりも。苦しみに。二人とも子供を苦しませるなよ。親なんだから』


だもんな。

謝るなら俺にだと思うが。

甘やかされた覚えもない。

なんだこの句は?季語もないし。どれだけ悲しくても死ぬよりはマシだろうよ。


「すごいお父さんだったねぇ。別々の愛し方だったけど私たちは凄く愛されてたねぇ」


「……」


どちらも同意しかねるが言葉にはしない。





「おい。ヒカル。俺が死んだら悲しいか?」


息子でありワイルズエッジの二代目社長のヒカルにそう訊ねた。

ヒカルはスマホから目を離してチラリとこちらを見た。


「……なにそれ?」


「マジな話で」


「そりゃあ。ね」


「泣くか?」


「泣くよ。まぁ」


「どれぐらい悲しむ?」


「立ち直ったフリして時々思い出して悲しくなってを死ぬまで繰り返すよ。父さんもじいちゃんが死んだ時にそーじゃなかった?つーか何の話?」


「おっ?何でもないよ。なんとなくだよ。なんとなく」







俺は屋上でタバコを吸いながらもう一度『あの紙』を見た。

何度見ても結果結果は変わらないよな。

参ったなぁ。ヒカルはもっとドライだと思っていたが、意外と俺は『厳しくしすぎた』のかも知れない。

元嫁と別れた後も毎月会ってたし、欲しいものは車だろうがパソコンだろうと全部買い与えた。今も高卒でフラフラしていたコイツを俺の権力で社長にしてしまっている訳だし……


「別々の愛し方かぁ」


俺が親父の事を久しぶりに思いだし、親父の凄さを知ったのは健康診断の再々検査の後。

つまり今日だった。


「癌かぁ」


早くて半年。もって一年らしい。

別に死ぬのは怖くないが苦しい。


「……ヒカル」


どうしたもんか。俺が死んだらあいつもひろこぐらい悲しむのかな?

それは俺も辛い。

今から自立させる?……手遅れだろ。


「悲しみは時に死よりも苦しみに。だな」


親父は早くから俺に自立を促し、多少の悪さと嘘を見逃し俺のやりたい事に金は惜しまず

俺に『死よりも辛い苦しみ』を味あわせないようにしてくれた。

おかげで俺は『親の死』という人生最大級の精神的ダメージを最小限に抑えられた。

なるほど。甘やかされたのは俺の方だな。

それなのに俺は親父が嫌いじゃなかった。いや、好きだった。同じ親として尊敬するよ。

俺はヒカルに厳しすぎた。

俺の死後、あいつが上手く会社を回せるビジョンが浮かばない。

俺の死があいつの人生の重荷になるのは嫌だ。


「親父はスゴいなぁ」


いやいや本当にスゴい。


「くそっ!金なら野球チームを余裕で買えるぐらいある。俺はワイルズエッジの堀江タカヤスだぞ。ブログもSNSもオンラインサロンも動画配信も止めないぞ!生きてやる!」


にしても。


「親父はスゴいなぁ」


『親父はスゴいなぁ』は治療が始まって約3年半、俺の口癖になった。























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