009 サエ
三人はマスターの部屋に着くと、子供達とともに中に入った。クレイアは兄クライアンにオーク村での戦闘、そして子供達が恐怖に冒されている事を説明した。
「皆さん、この度は大変お疲れさまでした。さて、子供達よ。私の近くに」
うまくいけばいいのですが、とクライアンは詠唱する!
「我が精霊よ、この憐れな幼子達の心に潜む黒きベールを取り払いたまえ……アンチフィアー!」
4人の子供から薄暗い煙のようなものが出てきた!
だが、一番年少の女の子からはあまり出ていないようだ。
やがてクライアンは、限界です、と魔法を終えた。
上の子供達から怯えは消えたようだ。
クライアンは息を整えながら補足した。「魔法で植えつけた恐怖ではなく、実際に体験した恐怖なので、記憶がある限り完全に振り払う事は出来ないのです」
クライアンは続けて「さらにこの子は……」子供達に聞こえないように十兵衛に小声で「目の前で両親を殺されたのです」と伝えた。十兵衛は沈痛な表情で女の子を見た。
女の子は怯えた手で十兵衛の袴を掴んだ。十兵衛は、膝を曲げ女の子と目線を合わせる。「そなた、名をなんという」と聞くと、サエ、と応えた。
十兵衛はサエの頭を撫でながら「怖かったなあ。だが、よく生きていた!よくぞ生きていた!偉いぞ!」十兵衛は、安心して泣き出したサエを抱きしめて「安心するのだ!今日、今から拙者はそなたを守ってみせる!」
サエは「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」と、わんわん泣いて十兵衛に力一杯抱きつくのだった。
クレイアは、親のいる子供達を親元に返して、工房へ帰ろうとしているアステルと十兵衛とサエの元へ向かった。
「あれ、なにかあったのか?クレイア」と、アステルが聞くと、クレイアは「この子が心配だから私も一緒に住むの」と言った。
アステルは「いやあ、十兵衛さんがいるし。なんならオレもいるから大丈夫だぞ?」
クレイアは「女子のことは女子にしかわからないこともあるのよ」と強引に住む事を決めた。
「まあ、クレイアの言うことも一理あるでごさるな」と十兵衛が言うとアステルも、「ふむ、部屋はあるからまあ、よしとするか」と承諾した。