006 ゲリラ蒲焼きでござる
「自慢の剣を売ってきた。旨くなかったら勘弁しねえぞ」と言って、男は金貨をテーブルに置いた。
「さあ、蒲焼きだ」
男は一口食べてみた。
食べながら旨さの衝撃で蒲焼きを凝視した。そして十兵衛を驚いた眼をして固まった。
「め、滅茶苦茶旨い……!こんな食べ物があるのか!」
十兵衛はニタリとして、酒を出した。
「蒲焼きにはこいつだ。さらにうまいぞぉ」
言われるままに酒を呑んだ。
「ん~~~~!夢心地だなあ」
男は幸せな気持ちで食べていき、蒲焼きが半分ほどになった所でたくあんを出した。
「これも旨いぞ。たくあんといって酒にも合う。噛めば噛むほど旨味を味わえる上等物だ」
十兵衛はさらに肝吸いを出した。
「これは蒲焼きの相棒みたいなもんだ。あっさりとした口当たりの中に繊細な味わいがある」
男は、蒲焼き、たくあん、酒、肝吸いと取り憑かれたように平らげる!
「ふうぅ」と、肝吸いを飲み干して満足気に立ち上がり、十兵衛と熱い握手を交わした。
「すげえ!すげえよ、あんたあ!間違いなくこの世で一番旨いものを食わせてもらったよ!金貨1枚でも大満足だぜ!」
オオオオお!と、野次馬が叫ぶ!
「オレにも食わせてくれ!金貨ならある!」
「オレも蒲焼きをくれ!」
と、瞬く間に10人前は売り切れてしまった。
「お、おい、ホントにもう蒲焼きはないのかい?オレも食べたかったよ……」
嘆く野次馬達に聞こえるように十兵衛は「ああ、今日はこれで店仕舞いでござる!またどこかで屋台を出すので、金貨1枚用意しといてくれ!」
と、片付け始めた。
やがて野次馬が散開していき、屋台をリヤカーに収めると十兵衛はまた人気のない路地に入り、変装を解いた。
そして、城門を出ると川へ向かい、ウナギを釣りに出掛けた。
屋台は場所を変えながら出店した。また、蒲焼きは通常10人前だが、時には7人前だったり5人前だったりして、レア感を演出した。
このゲリラ蒲焼きは瞬く間に国で評判になり、食べた者は高いとは思いつつ、むしろ肯定的に宣伝しだした。
そして、運良く食べられた者は一つのステータス的な扱いを受けるようになり、益々人気商品となっていった。
こうして、十兵衛はわずか半月で金貨150枚を荒稼ぎしたのだった。