044 柳生新陰流
十兵衛の剣は新陰流である。
祖は上泉信綱。
柳生石舟斎が、その技を受け継いだ。
後年、昭和時代に「柳生」の名を加え、「柳生新陰流」と呼ぶようになる。
新陰流の技は「後の先」である。
相手を動かし、その動きに最適なカウンターを同時に行うのだ。
魔法、超能力ではない。駆け引きの中で相手を誘い出す。
構えの中に隙を作り、そこへ誘う。
また、構えの中に次の動作のヒントがある。
相手の視線、筋肉の動き、足の運び、持ち手の変化。
それにより、突き、袈裟斬りなどが来るのを読むのだ。
新陰流は父の柳生宗矩が教える江戸柳生と、柳生兵庫助が教える尾張柳生に分かれる。
江戸柳生は精神と心を重きに置き、尾張柳生は技を重きに置いた。
十兵衛の剣は、その柳生の心と技が備わった柳生新陰流である。
「身体の働きを陽とするならば心は陰」
心は目に見えない。その、見えない心の働きにこそ奥義がある。
心を徹底的に鍛え上げることで、対峙した相手を支配できるのだ。
だが、人である以上、心が強くなければこの境地に辿り着けない。
少しでも恐い気持ちがあれば、身体は強張り、理想の動きは出来なくなる。
また、相手の攻撃を意識し過ぎると、防御ばかりの心となり、敵に支配される。
かといって、こちらが攻撃ばかりを狙えば、それをつけこまれて手痛い反撃を喰らう。
新陰流とは、心を知り、心で戦う兵法と言える。
ブランデルは、薙刀を上段に構える。
十兵衛は左半身を前に出し、三池典太を右側後方に構え、一刀両断を狙う。
ブランデルの目が一瞬十兵衛の足元を見る!
十兵衛の右目がギラついた!
薙刀の切先が後方にまわり、右から斬り上げてきた!
十兵衛は左に体をかわしながら、輪の太刀からの空いた背中へ袈裟斬りにした!
血が勢いよく噴き出す!
ついに深手を負わせた十兵衛だったが、額から冷や汗が止まらなくなった!
ここまで有利な十兵衛に何が起きたのか!




