037 ファンゼルの忠誠
「おや、お目覚めでございますね」と、執事の男が言った。
ファンゼルは近くの町に部屋を借りてそこで手当てを受けたようだ。
「ワタクシ、オンブラと申します。丸二日ほど眠っておられました。食事はとれますかな」
「オレは、ファンゼル。たしか、女性がいたような」
「はい。ワタクシの主人シャンティ様ですな。もうすぐいらっしゃるはずでございます」
国を失った。
恐らく家族も生きてはいまい。
父も母もハーフリングという負い目があり、ナイトを目指すオレに申し訳ない、と日頃言っていた。小柄な体格はナイトには不向きだからだ。
しかし、オレがナイトになれた時は泣いて喜んでくれた。
妹は、両親がネガティブな分、明るく励ましてくれた。不条理な命が下り、落ち込んだ時は、そんなのに負けるな!と叱ってくれた。踏ん張ってこれたのは妹のおかげだろう。
友は、ずっといなかったが、それでも、こんなオレを気にしてくれる近所のおじさんやおばさん、武器屋の主人、何故か、オレなんかを慕ってくれる子供たち。
みんな……いなくなっちまったんだろうな……
みんなが、こんなオレにとって大切な支えだったのに……
少ししてシャンティが部屋に入ってきた。
ファンゼルは二人を前に膝をつき、臣下の礼をした。「この度は、この身をお助けいただき感謝いたします!つきましては、シャンティ様にお仕えしたい所存!どうかその末席にお加え下さい!」
「うむ。構わぬぞ。今は戦力が欲しかったところでありんす」
「有り難き幸せ!このファンゼル、命を掛けてシャンティ様をお守り致します!」
全て失った!
死ぬはずだった命を助けてもらった!
オレはシャンティ様にナイトとして忠誠を貫く!
二日後、ファンゼルは体調を取り戻し、シャンティとオンブラと共にブランデル討伐の旅に出たのであった。
元々、斥候が得意のファンゼルは盗賊や魔物相手の露払いを積極的に行った。
初めはその役割だったオンブラは、シャンティの護衛に集中できる。
ファンゼルは、躍動する!
オレは、本当の居場所を得た!
シャンティ様のためなら!
オレは命を掛けられる!
ファンゼルは幾度の戦闘を繰り返し、自信と誇りを取り戻していった。




