003 冒険者ギルド
翌朝、十兵衛はアステルに案内されて冒険者ギルドを訪れた。
「済まぬ。通行料はいずれお返しいたす」
「十兵衛さんは命の恩人だ。こっちがまだ返しきれんよ」
ギルドは朝に掲示される依頼を見るため、冒険者でごった返している。
空気が変わった。
高ランクの者ほど十兵衛の気配にただならざるものを感じた!
【あの男、やばい!】
【百戦錬磨の達人だろうか】
【Aランク…いや、Sか?!】
そんな視線をよそに飄々と受付へと歩いていく。
「柳生…十兵衛さんですね。冒険者志望の方は別の部屋で指南役と実技を行っていただきます。合格しますと、冒険者になれますので頑張ってください」
受付の女性は二十歳くらいの無精髭を生やした寝間着の男が来たので、テンプレで対応し、こちらです、と立ち会い場まで案内した。アステルはその外で待ってもらうことにした。
「では、ロナウドさん、お願いいたします」
ロナウドと呼ばれた男は、三十路前の熱血タイプ、胸板が筋肉で分厚い。槍使いでBランク。当ギルドの指南役の一人とのこと。
「ロナウドだ。冒険者になれば、初めは非戦闘の依頼が多いのだか、いずれ魔物と戦う時がくる。命を落とすことも少なくない。待て、お前ホントに初心者か?」
「冒険者というのは初めてでござるな」
「わかった。では構えてくれ。早速始めよう」
受付孃が開始の合図をした!
ロナウドは雄叫びをあげながら一歩進んだが、立ち止まってしまった!
【ぬうぅ、隙がない!真っ直ぐ突けば刀でいなされ、小手返しがくる!下段も同じ!突きをフェイントに上段から叩きつけるのは、フェイントの間に胴切りが……】
両者動かないまま五分、六分と経過する!
十兵衛は涼やかに正眼のまま微動にしない。
ロナウドがたまらず動いた!
しかし、その手に槍はなく、いつ取られたのか十兵衛の手にあった。
ロナウドは意味がわからない。疲労困憊のなか十兵衛に合格を告げて、ギルドマスターに会うように促した。
受付孃を受付に返し、ロナウドの案内で十兵衛とアステルはギルドマスターの部屋に入った。
ギルドマスターはエルフ族らしく耳が長い。華奢な身体を美麗なローブで包んでいる。
人間以外の種族を初めて見た十兵衛だが、ロナウドより強そうな空気を読み取りワクワクした目つきでマスターを見ている。
「当ギルドのマスター、クライアンと申します。ロナウド、あなたと一緒に来たということは只事ではなかったようですね。汗だくじゃありませんか」と笑った。
ロナウドは汗を拭きながら実技のことを話し出した。
「……というわけで、全くオレでは歯が立たなかった。そこでマスター、この者をみてくれないか」
クライアンは鑑定というスキルを持っている。このスキルはレベルや各能力を数値化して見ることができる。
「鑑定!」
クライアンが見ようとしたが、数字が曇って読めない。読めないがどれも4桁だということはわかった。スキルに関しては全く読めなかった。
恐らく鑑定遮断持ちではあるのだが、セットしていないため、桁だけ見えたのだろう。
クライアンはガクッと肩を落とし、ため息をついた。
「と、とんでもない能力、だと…いうことは……わかりました」
ロナウドはゴクリと喉を鳴らした。クライアンは続けて、「一つ伺いたい。あなたは魔王の生まれ変わりなのか?」
十兵衛は笑って、「拙者が魔王?これは傑作でござる!」
クライアンは慌てて「笑いごとではないですぞ。正直あなたの扱いに困っております」
最低ランクのGから始めて良いものか。実力は軽くトップクラス、いやダントツでトップだろう。だが、それでは新人冒険者がいきなりトップになり、反感の目で見られることにもなる。それでも降りかかる火の粉は容易く返り討ちにするのだろうが……