029 雷孤 2
十兵衛は、三池典太を眺めながら「ああ、よろしく頼む」と返事した。
雷孤は怒る。「ちょっと!こんな愛らしい娘を前にして、刀ばっかり見るでないわ!」
「これは済まぬ。これと会うのも久しぶりなのでな。なにせ、もう会えぬと思っておったのだ」
「し、仕方ない奴じゃの」
「とはいえ、勝手に持ち出してはマルス殿に悪いでござる。体調がお戻りになった頃、改めて参るとしよう」
と、ザロス王に伝えると、工房に戻ると挨拶をした。
十兵衛の後を雷孤がひょこひょこついていく。
「なんだ、刀に帰っていいでござるぞ」
「ちょっと!さっき、よろしくと言うたじゃろ!よろしくということは面倒見るということじゃろ!」
「まあ、ただの挨拶のつもりでござるが……」
「長年刀に封じられ、やっとの思いで外に出られたのじゃぞ!憐れと思わぬか!」
十兵衛は、また強いおなごが増えてしまった、と頭を掻くのだった。
工房に着く頃には日も暮れようとしていた。
今日はアステルが食事当番。クレイアはサエの遊び相手をしている。
「だいたいお主は我の可愛らしさがなんでわからんのじゃ……む?何やら魅惑的な匂いがする。」
十兵衛は城からここまでひたすら説教を受けていたが、食べ物の匂いに気づくと工房まで走り出した。
「おお、いい匂いはここじゃ!十兵衛、早う早う!」
雷孤はアステルのそばで、いい匂いいい匂いと、クンクンしだした。
「この子どうしたの?」とクレイアが尋ねる。十兵衛は食べながら話す、と言った。
サエは同い年くらいの女の子に興味津々。雷孤に近づいたが、耳と尻尾に気づくと「ネコちゃん?キツネちゃん?でも、可愛い」とニコニコ見つめはじめた。
アステルは出来上がった食事を並べて「十兵衛さんのお客さんかい?にしては若すぎるかな。まあ、一緒に食べるかい?沢山作ったからな」
全員席に着くと、サエが「わたしが分けてあげるね」と、雷孤の食事を取ってあげた。
「あら、お姉さんみたいね、サエちゃん」とクレイアが微笑む。
しかし、雷孤はクンクン匂いを嗅ぐだけで満足している。
「ネコちゃん、食べないの?」と、サエが言うと、十兵衛が「もしや、食べること自体したことがないのやも」
実は、と雷孤について語りだした。
「……つまり、この姿で外に出られたのは先ほどなのだ。それまでは刀にいたので食べることをしたことがないのでござる」
サエは、ならばと、「これをこう。お口の中に入れてみて」と、雷孤に教えてみた。
雷孤は言われた通りにやってみる。
「それを歯でモグモグしてみて」と、続けると、雷孤は目を丸くして驚いた!「な、な、な、なんじゃこれは!?幸せなのか?これのことなのか!?」
サエが笑って「美味しい、って言うのよ。うふふ」と言った。
雷孤は出されたものを、美味しい美味しいと満足そうに平らげた。




