229 歩み寄る
まさに十兵衛が首を斬ろうと振りかぶった時、魔族側から声がかかった!
「お、お待ちください!確かにこの人からは嫌な事をされましたが、首を斬るなどお止めください!」しかし、十兵衛は赦す気がない!
「ならぬ!集団生活で身勝手な者がいれば全体に迷惑が掛かる!さらにこのような者を赦せば、かえって報復をする輩だ!」
問題冒険者は必死に命乞いをする!
「絶対もうやりません!本当です!赦してください!」
十兵衛はそれでも赦す気がない!
「お主の口からまだ魔族の者たちに謝罪の言葉がない!自分が助かりたい事だけではないか!」
問題冒険者が必死に謝罪する!
「ま、魔族の皆さん!その!ご、ご、ご気分をわ、悪くさせてしまって、す、すみませんでした!」
十兵衛ははじめてそこで三池典太を鞘に戻して「魔族の皆、この者はこう言っておるが何か言う事はあるか」と言った。
魔族側は困ったようにお互いの顔を見合わせている。そんな中、斧を投げつけられた鬼族が言った。
「オレたちはこんな見てくれだが、争うのが嫌いな魔族がいるのも分かって欲しい。でも、すぐに信用出来ない気持ちも分かってる。オレたちも半信半疑だったが、こちらからは絶対手を出さないと誓って現場に来た」
さらに鬼族は笑って「実は人間皆からもっと嫌な事されると思っていたんだが、意外とあんただけだったから、関係を良くしようと思ってくれてる人は結構いるんだと思ったんだ」と言った。
鬼族が問題冒険者に近づいて手を取る。
「あんたさえ良かったら、オレたちと仲良くしてくれねえか」鬼族が微笑む。
問題冒険者が涙ぐむ。「あ、あんな酷いことしたのに……本当に済まなかった!よろしく、お願いします!」
十兵衛が他の皆に声掛ける。
「此度は魔族側の深い理解により、この者の罰は容赦いたす!よいか!今後また問題が起きたら今度こそ容赦せぬ!」
この場の全員が姿勢を正して「はい!」と答える!
「では冒険者たちは解散して休んでよし!魔族の皆は拙者についてきてもらいたい」
魔族は何だろうと訝りながら十兵衛の後ろを歩く。
そこには雷狐と雪鳥が食事を用意して待っていた。実は、今回の件を報告した上でこちらで解決する事を条件に報酬はそのままにしている。その足で魔族用の食事を用意させていた。
「今日は勇気を出してこの現場に来ていただき感謝いたす。現場では贅沢な食事が出来ないのだが、今、人間が食べている夕飯よりは良いものだ。昼食を取れなかった分、沢山食べて欲しい」
と、大きめのおにぎりと焼いたばかりの魚を提供した。
魔族は基本そのまま生で食べる事が多いらしく、焼くとか米を固めるような食べ方は知らないらしい。
魔族は、食べ方をレクチャーされると早速食べてみた。
一口食べると目を開いて驚く者、お互いに顔を見合って「だよな?!」という反応をするもの。
夢中で食べる者など、概ね好評なようだ。
満足して魔族たちが言った。
「十兵衛様、我々はフルフ-ル伯爵と同じ志を持って人間と共存したいと願っております。しかし、簡単ではないことも分かっておりましたが、十兵衛様たちが公平に見て下さり安心しました。明日から自分たちも問題を起こさないように頑張りますので、よろしくお願いします」




