020 十兵衛 対 元指南役
あれからまた十日が経ち、十兵衛は二度目の指南のために王城に向かっていた。
それまではサエの子守り、蒲焼き屋、ひたすら釣りなど、穏やかな日々が続いていた。
王城に入ると、殺気を感じた。
心当たりはある。恐らく前任の指南役であろう。
降格処分を受けたか解雇を言い渡されたか。
掛かってくるなら望むところである。
早速、恨みの主が現れた!
「お待ちなさい!十兵衛ちゃん!」
四十代だろうか、強面で眉が太い。筋肉が自慢なのか露出度の高い服装をしているオカマだった。
「あなたのせいでアタシ、プーちゃんになっちゃったじゃないの!」
無職という意味らしいことを後でクレイアから聞いた。
「アタシは元第二王子指南役、ロドリゲスっていうの。周りはアタシのことをナンシーって呼んでる。」
ナンシー感は一欠片もない。
「アタシと勝負なさい!十兵衛ちゃん!許さないんだから!」
「拙者は構わぬ。いつでも来られよ」
十兵衛は木刀、ナンシーは両手斧を構えた!
さすがは元指南役、筋肉を活かした斧とまともに打ち合えば簡単に折られることは予想できた。
二人の間合いがジリジリ詰まる!
ナンシーの方がリーチが長い。
十兵衛の足が領域に入る!
真一文字に斧を振り抜く!「からの~!」上段振り下ろしがきた!
十兵衛の右目がギラっと閃く!一気に懐に入り、木刀の柄で水月を打ち込む!
ナンシーは悶絶しそうになったが、堪えて斧で突きを出して距離を取った!
「やるじゃない、十兵衛ちゃん……。でも、アタシも本気でやっちゃうから!」
ナンシーは斧を大きく✖️の字に振り回し始めた!「いくわよ~~!アックステンペスト~!」
斧が繰り出す無数の風圧の刃が十兵衛を襲う!
十兵衛は木刀を刃に合わせないように捌いていく!
「いつまで木刀が持つかしら~?今にもポッキリしちゃうんじゃなあい~?」
十兵衛は✖️の字の隙間の一つ、眉間に石つぶてを放った!
刃が止み、一足飛びに踏み込む!小手、袈裟斬り、胴と瞬時に見舞った!
ナンシーはガクッと膝をついて、深く息を整えた。
「十兵衛ちゃん、負けたわ。完敗。」
ナンシーは、遠くを見つめながら「あなた、強いのね。アタシより強い人ってなかなかいないのに」
と悲しげな表情で涙をこぼした。




