018 第二王子テレス
サエは泣かなくなったが、長時間泣いていたのでのどを潰してしまった。ザロス王は、この小さな英雄に手厚い手当てを、と回復上位魔法を唱えた!
サエは、出なくなった声を取り戻すことができた。
ザロス王は十兵衛とサエに近づき、「大した女の子じゃな」と微笑み、隣室に食事を用意してあるので一緒に行こうと促した。
「改めて、十兵衛を指南役に向かえ宴を始める!」
演奏が流れる。
食事の邪魔にならないような上品な旋律が流れていく。
ザロス王が、十兵衛とサエに食事と飲み物を持って来るように世話役に指示すると、色々質問を始めた。「十兵衛、サエ殿は工房から泣いていたそうじゃな。そんなに一人にされるのが怖いのかね」
「左様。サエはお話ししたように、目の前で両親を殺され申した。さらにオークに囚われ、いつ殺されるかも知れない耐え難い精神状況。絶望しかサエにはなかったのでござる」
「ふむぅ……」
「その後、一緒に暮らしているアステル殿とクレイア殿とともにサエを救いだしましたが、親を殺された恐怖は簡単には拭えませぬ。時が進み、サエの恐怖は拙者たちといることで和らいできましたが、まだ幼子、一人きりになるのは耐え難いのでござる」
「特にそなたに懐いておるのじゃな。じゃが、あれほど長時間泣かれるとは思いもしなかった」
「仮に、王の部屋に入ってから泣いたとすれば、それは策でござる。しかし、サエはカルロス殿が来たことで拙者と離れることを悟り泣いたのでござる。あとはサエが安心する結果にならぬ限り泣き止むことはありますまい。これこそがサエの本気でござる」
ザロス王はサエに戦慄を覚えた!
「十兵衛、そなたがこの件を断った時、余がそなたを殺せと命を下していたらどうしていた?」と聞いた。いや、聞いてみた。答えはわかっているからだ。
「勿論、抵抗して御命をいただいておりました」
王の部屋には50名の衛兵がいた。王の背後には王国でも信用され最強クラスの親衛隊もいたのに、サエを抱きながらも勝つつもりでいたのか!
恐ろしい戦力だと、改めてザロス王はあの対応で良かったと安堵するのだった。
「父上、遅くなりました!テレスです!」
と、第二王子テレスが入ってきた。
テレスは16歳でシルバーの髪を肩まで伸ばし、真面目に育ってきた空気を出している。先ほどまで指南役に鍛えてもらっていたという。
「お初にお目にかかる。拙者、柳生十兵衛三厳と申す。以後お見知りおきくだされ」
テレスは十兵衛に膝をついて、師に対する礼をした。「お話しは伺っております。よろしくおねがいします!」
十兵衛はザロス王に向き直り、「ところで、なぜ拙者に第二王子の指南を依頼することにしたのでござるか」
テレスではなく、第二王子と聞いたのには第一王子のことも言わねばならないのだろう。
「テレスは見たとおり、真面目に育っておりますが将来の頼れる王国の剣になって欲しいと考えております」ザロスは続けて、「しかしまだ、力、技ともにまだまだであります。そして、第一王子のマルスですが、これは荒削りではありますが、強く育ってくれました。三年前に修行の旅に出ておりまして、現在どうなのかは計り知れませぬが、とてつもない根性の持ち主なので成長して戻ってくると思います」




