175 感想戦
優勝した十兵衛もこの後、医務室に入り検査を受けた。
試合中に死亡してしまった者以外はここに運ばれ治療を受ける。
ほとんどの者は回復魔法で即退院となるのだが、典韋のように頭蓋骨に陥没があった者やジュリーのように鎖骨が折れた者は安静のため一日泊まることになる。
検査が終わり十兵衛がジュリー達のいる部屋に顔を出す。
「あら、十兵衛ちゃん。優勝おめでと」
「ふふ。顔色も良さそうでござるな」
「まあねぇ。こう見えて頑丈なの」
「そこは、見た目通り、だろ」
ダンゾウが隣のベッドから入ってきた。
「久しぶりだな。十兵衛、優勝とは流石だな」
さらに典韋が後ろのベッドから言った。
「お主が十兵衛か。典韋と分けなければ、わしが倒してやるのに」
その隣のベッドから華雄が言う。
部屋にはこの五人と雷狐がいる。
「ところで十兵衛ちゃん」
ジュリーがどうしても聞きたい事があるらしい。
「アタシの技、弱くないと思うんだけど、何で無事なわけ?」
確かに十兵衛はジュリーの技を正面から堂々受けていたのだ。
「好敵手を前に種明かしをするのは少々気が引けるが……修得も難しいことも事実。簡単に言えば、相手が攻撃してくる部分に身体の内側から気をぶつけて衝撃を相殺していたのだ」
「そんなことが出来るのか!」
ダンゾウが驚愕する。
「勿論鍛練が必要でござる。ジュリー殿や典韋殿、華雄殿なら胸の筋肉を左右別々に動かせると思うでござるが、その筋肉操作を気でやるのでござる」
それを聞いてジュリーと典韋と華雄が大胸筋を左右別々にピクピクと動かし始めた。
「皆なにをしとるんじゃ。それを気でやれという話しではないのかえ」
雷狐が言うと、いや、思わず、と典韋と華雄が下を向いた。
「いや、難しいぜ。まず気を巡らせるのがよくわからねえ」
と、ダンゾウが言う。
「説明も難しいのだがな。しかし、それを行うとこういう事が出来る。拙者の鎖骨に手を当ててみよ」
と、ダンゾウを促す。
十兵衛の鎖骨に手を置く。
すると、バシンと手が弾かれてしまった!
「なんだ今のは……」
「内側の気をぶつけたのでござる」
「背中の攻撃も衝撃だったんだけど、あれも気なの?」
と、ジュリーが聞いた。
「気は勿論、そこに体重を集め、ぶつける目標をジュリーの後ろに置いていたのだ」
「そう……まるで爆発に巻き込まれたようだったわ」
鎖骨や背中の事を話しても自分が体験しないと信じられない。
典韋と華雄にそれぞれ左右の腕を握らせた。
すると、バシンとやはり手が弾かれてしまった!
二人の豪傑が弾かれた手を、信じられないという思いで目を開く。
「十兵衛は幼少の頃から父君から技は勿論、内面を鍛え抜かれておった。心を鍛えて相手を読み、気を鍛えて身体を常に健康に動かせるように」
雷狐が言う。
心技体という言葉を使われたのは1940年頃、道上伯という柔道家が質問に答えたのが始まりと言われる。
しかしながら、その道を極めん者は心を鍛えて、技を磨き、体を動かす事を意識していた。
多くの者は心を疎かにしがちなのだ。
四人は十兵衛の武道への取り組みかたに感心するのだった。




