017 サエの戦い
サエは十兵衛に抱き抱えられながらも、叩いたり、押し返したり、足をばたばたと抵抗したりした。
十兵衛は無表情でカルロスの後を歩く。
ロビンは完全にあやし係となっている。
彼らは、広大な庭を歩く時も、聳える階段を上がる時も、長い長い城の廊下を歩くときも彼らは同じ状態だった。
周りの王族達は遠巻きに、あるものは珍しく平民が来た、あるものは幼子が激しく泣いてかわいそう、と。しかし、他人事の目でみている。
王の部屋へたどり着いた。さすがに衛兵は十兵衛からサエを預かろうとしたが、十兵衛は、触るな!とばかりに殺気を放った!
衛兵は固まり、元居た場所に後退りした。
カルロスは十兵衛に、よいのだな?と目で確認した。十兵衛はニタリとした。サエは相変わらず泣いている。
「騎士団、カルロス、ロビン、十兵衛、入られよ!」
王の部屋がサエの泣き声で響き渡る!
側近が先ほどの衛兵と同じく近づこうとしたが、十兵衛の殺気を感じとり、やはり固まってしまった。
だが、王の御前なので膝をつくようにうながしたが、十兵衛はサエを抱いたまま、あぐらをかいた。
「膝をつくより座りがよいのでござる。了承いただきたい!」と、またも殺気を放つ。ザロスも、逆らわぬ方がよいと判断した。
「王よ!十兵衛様の抱いているサエ殿は一人になるのが怖いのです!どうかお許しください!」と、カルロスも弁護した。
ザロス王は十兵衛とサエにただならぬ気配を読み取り、まずは泣かせたままで、交渉に入ることにした。
「カルロス、要件を十兵衛に伝えよ!」
「はっ!」泣いているサエを挟んで、カルロスは大声で伝えた。
「十兵衛様に、ザロス家第二王子指南役をお願いしたい!」
十兵衛は、「それは通いでもよいのでござるか?」と、聞くとカルロスは原則城に住み込みになると伝えた。
「ならばお断りいたす!」
ザロス王始め、周りの側近たちが青ざめた!
「ザロス王!」と、カルロスは救いを求める!
十兵衛はザロス王に届くような大声で「サエは、目の前で両親を殺され申した!一人で生きるには幼すぎるゆえ、拙者たちと暮らしております!サエが泣いているのは拙者と離れるのが嫌で嫌でたまらないからでござる!」十兵衛は立ち上がった!「サエは、カルロス殿が我が工房に着いた時から泣き続けているのでござる!城で泣けば無礼に当たる!だが、泣くことで拙者と離れるのを命がけで抵抗しているのでござる!」
ザロス王は驚愕した!王である自分を前にして、臆面もなく出鱈目な主張をするものだ、と。同時に、サエの幼いなりの覚悟もみえた。
ザロス王は「わかった!だが、指南役は引き受けて欲しい!」
十兵衛はさらに「承知したでござる! 十日に一度の通いでよろしいか?!」
ザロス王は「えっ、十日に一度?」と思ったが、未だに泣き続けているサエに負けたのか、「それで頼む!」と折れてしまった。
十兵衛はサエに「もう泣かなくてよいぞ。そなたの勝ちじゃ!」とサエを高く持ち上げたのだった。




