133 親としての覚悟
昼時、まだ平原を歩いていく。
リアカーのシ-トを道具で屋根のように改造して日差しを凌ぐ。風通しもよく、子供たちの顔色もいい。
いや、マルセルの様子がおかしい。見慣れない景色に不安を感じているようだ。
そして、マイの方を見て「おうち、帰らないの?」と聞いた。
1歳のタオはともかく、マルセルは訳も分からないうちに別の世界に連れて行かれているのだ。
「おうち、かえるぅ……」とグズリだした。
マイもそれを見て不安が募る。以蔵に言われるまま、逃げたいと言ったものの、今まで殴られながらも父親と暮らしてきたのだ。
帰る場所は家しか考えられないはずである。叩かれても蹴られても生きていくには父親に頼るしかない。本当は自分たちを愛しているはずだ、と信じるしかない。
たった5年の人生、どんな形であれ家族が全てなのだ。
ライカがマイとマルセルを両手に抱きながら子守唄を歌い出した。
背中を優しくポンポンしながら子供たちを睡眠に誘う。
日差しが照らす中、シ-トを屋根替わりにしたのが良かったのか、子供たちはスースーと寝つきだした。
少しして木陰を見つけ、ジュリーたちも休憩することにした。
以蔵が自己嫌悪におちる。
「無理矢理家族を引き剥がしたんじゃ……やっぱり帰りたいんじゃのお」
「以蔵、あのまま家族でいても、一番小さいタオから死んでいくわ。覚悟を決めて、以蔵」ライカが励ます。
「せめて、母親が残ってたらねえ……」ジュリーが言うと、ライカが言う。「たぶん、母親が子供たちを守って殴られていたと思う。でも、ある時、死を感じて限界がくる。子供たちも大事だけど、耐えられなくなったのよ。マイは5歳、5年も殴られるのをじっと耐えてきたんだと思うわ」
「以蔵、あの家族は父親が未熟なのだ。自分が子供のまま大人になり、親となってしまった。子供だから親としての愛しかたを知らない。恐らく父親自身も愛されずに育ってしまったのだろう」ダンゾウが言う。
「愛してやればええんじゃな……。わしの家族も厳しい親じゃったが、今思えば愛情はもっとったぜよ」以蔵が言った。
「大丈夫。皆でこの子たちを愛してあげましょう。一人で背負わなくていいの。世の中の親たちも相談して手を借りて親になるんだから」ライカが言う。
子供のいない4人が親としての感情を学ぶ。
あの父親から引き離すことになったが、それ以上の愛情でこの子たちを守らなくてはならない。
以蔵もライカの言う覚悟を胸に刻み、子供たちを愛そうと誓うのだった。




