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001 十兵衛、異世界転生す

ご存知、柳生十兵衛が若い肉体として異世界転生し、魔法や魔獣に対しながら剣の至高を目指します。

 時は慶安3年、弥生のある日。

 隻眼の剣豪、柳生十兵衛は鷹狩り目的で弓淵という土地に訪れていた。

 この時、十兵衛四十四才。柳生一族最強の剣士も、家督を継いでからは寛容となり、所領をよく治めていた。

 しかし、至高の剣には未だ達せずと、片時も脳裏から剣を離すことはなかった。

 

 その晩、十兵衛は夢を見た。

 自分の目の前に一人、剣士が立っている。

 霧がかっているのか、顔がよく見えない…

 二十歳くらいであろうか、かつての十兵衛のような体格にも思える。

 剣士が話しかけてきた。

 「十兵衛、こちらの世界に来るのだ」

 十兵衛は左手で無精髭を撫でながら

 「そちらの世界。鬼やあやかしでもおるのか?」

 「十兵衛、おぬしは今宵死ぬ」

 十兵衛は動揺もせず、むしろ面白そうに

 「それは、拙者とていずれ死ぬだろうが、今宵とはの」

 十兵衛の右目がギラつく。

 「おぬしが拙者に引導をわたすのか?」

 ゆっくり膝を落とし、三池典太に手を伸ばす。

 剣士は霧の中に隠れるように遠ざかる。

 「十兵衛、こちらの世界で剣を磨け。政より剣に生きたいのだろう?転生せよ、十兵衛…転生せよ、十兵衛…」

 



 目を醒ますと、だだっ広い平原に大の字になっていた。

 「どこだここは…」

 夜明け前、目をこすると、これまで住んでいた日本ではない雰囲気を感じた。諸国を渡り歩いた十兵衛、山の多い日本にはない景色だ。

 「とにかく、人に会わねば。む。」

 ここで愛刀、三池典太が無いことに気づいた。

 十兵衛は無精髭を撫でながら、仕方あるまいとあてもなく歩き始めたのだった。


 二刻ほど歩いただろうか。近くの森が騒がしいことに気づく。

 野犬にしては大きい、人が襲われているのか!

 まさに野犬が飛びかかったその脇腹に向かって一直線!真っ直ぐ襲うはずの野犬は真横に飛ばされてしまった!

 掌低を受けた野犬はそのまま動くことなく死んだようだ。

 「おぬし、無事か?」

 聞かれた男は三十路すぎの男だった。十兵衛の一瞬の撃退に呆気にとられながら、

 「あ…ああ、怪我はない。助かったよ」

 そう言うと、男は照れ臭そうに、

 「一応、元冒険者だったんだけど勝てるのか自信はなかったんだ。オレはアステル。あんたは?」

 「十兵衛と申す」

 「十兵衛さんか。この先にオレの工房がある。お礼もしたい。一緒に来てくれ」

 

 工房に入ると、十兵衛は座敷で待っているように言われた。

 中は、剣や防具がたくさん並んでいた。奥には加工するためのテーブルや炉がある。

 「おぬしは鍛冶師なのだな。少し見てもいいかね」

 「ああ、もちろん」

 ロングソード、短剣、両手斧…と、武器は豊富にある中で、一本だけ日本刀があった。

 十兵衛はその刀を鞘から抜き、一目見た。残念ながら業物とは遠いなまくらだった。

 だが、ロングソードや斧などは素晴らしい出来である。

 

 奥には姿見がある。

 十兵衛は鏡に自分の姿を見た。

 「若い……」

 二十歳前後の頃の十兵衛がそこにいた。

 四十四才のはずの自分が二十歳くらいになっている…

 「そういえば、体が軽く感じたような……」


 と、アステルが食事を持って十兵衛を呼んだ。

  


 十兵衛は、この世界が元いた場所とは違う異世界であることを聞いた。さらに、十兵衛は転生者と呼ばれ、稀にこの世界に来ることがあるらしい。

 また、人も人間だけではなく、獣人族、エルフ、ドワーフなどもいて共存していること、魔法を使えるものがいること、魔獣やゴブリン、オークなどの人間を襲う存在がいることも教わった。

 「そういえば、さっき元冒険者とか言ってたかな。冒険者ってなんだ?」

 「町や国、特定の人物から冒険者ギルドに依頼がきたものを、難易度に分けて冒険者が受けて、成功すると報酬がもらえるっていう、いわは何でも屋みたいなもんだ」

 アステルは頭を搔きながら、

 「オレは弱かったよ。Eランクからは上がれなかった。そこからは鍛冶師を目指して修行、独立して今に至るってことなんだ」

 「そうか。いや、馳走になりました。ところで、あそこに日本刀があったのだが、この世界にも侍がいるのかね?」

 「ああ、いるのはいるのだが、数が少ないなあ。まず、武器になる日本刀を作るのが、とてつもなく根気がいる。はじめの頃、オレも試しに作ってはみたのだが、なまくら一振作ってやめちまった」

 「ふむ、だが、他の剣や防具などはいい出来だと思うが」

 「刀に比べたら簡単だからね。というか、あんた、侍になりたいのかい?てっきり体術を活かした格闘家だと思ったよ」

 「ああ、拙者は刀を極めたい。それができるならどんな世界でもいい」

 十兵衛は酒を呑みながら豪快に笑って見せたのだった。



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