第六号 獣
郷土料理ってうまそうだよね。
―前回より一時間ほど前・海上・健一とその他大勢―
あらかたフロッグマン部隊を全滅させた健一一行は、ひとまず目標の空母へ向かっていた。
「ふゥ…これで後はあの船に潜り込むだけね…」
「おうよ…頑張ったな、俺達…」
そう言って缶ビールを開ける直美と、カルパスを剥く大志。
かなり疲れ切っている様子だが、当然であろう。
何せ二人は機雷を海に投げ込む作業をかなり長い間続けていたのだ。
調べても機雷に関するデータが出なかったので詳しいことは話せないが、見付けた画像を見る限り機雷という兵器はかなり巨大で、直径は50cmを軽く超えているだろう。
そうなれば、空気中での重さも相当なものとなることくらい、簡単に予想が付く。
「二人とも、よく頑張ってくれましたね。
お疲れ様です」
と、礼を言うのは健一。
「いやいや、礼には及びませんぜ」
「そうですわ。我々は只、緊急特務としての仕事を続けているだけですもの」
「そう言って頂けると有り難いです。
それにしても…もうお昼ですか。
こんな日には海豚鍋が食べたくなりますね」
海豚鍋。
等と聞いて、鍋は鍋でも石狩鍋やきりたんぽ鍋のような郷土料理をイメージ為さる方がどれ程居るとは判らないが、大抵の方は気の狂った作者の考えた無茶苦茶な下手物料理をイメージなさるだろうが、それは違う。
海豚鍋とはその名の通り漁にて捕獲された海豚の肉と数種類の材料を具に作る、身も心も温まると評判の鍋なのである。
主に和歌山県太地町で有名である。
今回は作者がネットで調べていて見付けた、即席海豚鍋のレシピと、それを野外で実際に作って食べた方の感想をご紹介しよう。
クエ冷凍切身×5 価格1000円
海豚切身×1 価格255円
白菜×1/4 価格56円
青ネギ×1/2 価格68円
ちゃんこ鍋の素×1 価格298円
感想:鯨肉より油が少なくあっさりした味わい。
竜田揚げやステーキ風塩焼きでも美味しく味わえるだろう。
異形・黒沢健一は和歌山県太地町の出身であり、母の作ってくれた海豚鍋が大好きで、得意料理の一つもまた海豚鍋である。
「あの時の味は今でも忘れられません…。
しかし嘆かわしいのは海外の動物保護団体から我が愛しき故郷が目の敵にされていると言う事なのですが…」
フィクションではなくリアルな話なので、冷静に読んで頂きたい。
和歌山県太地町では約400年前から、研究・展示・食肉等の実用的かつ生産的な目的の為に海豚漁が行われている。
また、海豚は愛らしいだけでなく暴飲暴食を繰り返す優秀な捕食者の顔も持っており、海豚を狩らぬ漁師達―主に烏賊や回遊魚をターゲットとする勢力―からは害獣のように忌み嫌われている。
そして今年(2009年)、日本の捕鯨問題をテーマにした、反捕鯨団体の訴えを100%採用したらしい、日本の捕鯨文化を野蛮で残忍で非人道で自己中心的で背徳的で人としての道に背く行為であると一方的に批判した「The Cove」という映画が作られ、サンダンス映画祭2009の観客賞を受賞したそうである。
この映画では、捕鯨と海豚狩りを続ける「鯨の街」こと太地町に撮影班が侵入し、海豚狩りの様子を露悪的に撮影したものである。
この映画での撮影班は言うなれば「正義」であり、海豚を狩る太地の漁師達は完全な「悪」とされている。
またこの映画を見たある白人男性は「この日本人共が海豚に対してやっている行為は、例えるならナチスドイツがユダヤ人に行った、悪意有る非人道的な虐殺行為以外の何物でもない」と語っている。
偶然ニュースでこの話を聞いた作者の心の底からは、憎悪の感情が勢いよく溢れ出た。
自分達も牛馬や豚や鳥や魚を食用に虐殺し、森林を滅ぼし、その上気色悪いだの不快だのという意味のない理由の元に多くの無害な虫を殺し続けている癖に、何とハゲた事を抜かすのかと。
そして言いたかった。
「どうせ手前等、海豚が可愛いから狩るな殺すなっつってるだけだろうが、ハゲ」
まぁ、そんな話は本編とは多分そんなに関係ないのでこれ以上長く話しはしないが。
さて、そんな太地町出身の健一が振った話題に対し、二人の異形はというと。
「まぁまぁ健一さん。
どうでもいいじゃありませんの、そんな連中なんて。
奴らは自分たちの行為を棚にあげ目を瞑り、他人種の揚げ足を取ることを生き甲斐としていますし。
要は単に目立ちたいだけですのよ。
マスゴミ共からお金貰えなきゃ生きていけませんもの。
アメリカやロシアが核兵器に並んで化学兵器や生物兵器まで否定する理由だって、非人道的とか被害が大きすぎるとか自然破壊になるとか言ってますでしょう?
でも前に生物化学部の逆夜君とお昼ご飯食べてて聞いたら、核爆弾は材料や機材の段階で規制が厳しかったり核兵器作ろうとしている事が直ぐにバレてしまう上にお金も掛かるから大きな国じゃないと出来ないけれど、化学兵器や生物兵器なんていうのは別に材料の規制も厳しくないし、お金も掛からないから小さな国どころか民間人にだって用意出来るんですってよ?
要するに、そういうのが嫌だから否定してるんですのよ。
生物兵器も、化学兵器も、捕鯨も」
「大体反捕鯨なんざ、結局は人種差別の隠れ蓑なんじゃあないスかね。
どう考えたって有色人種が気に食わねー。
だが人主差別なんぞしたら評判が落ちる。
つっても有色人種どもは気に喰わねー。
なら何か言い訳見付けりゃ良いじゃねぇか―つって見付けたのが、捕鯨反発なんでしょうがよ。
鯨は高度な知能を持つ哺乳動物だとかって、それならカニバリズムも同じじゃねぇかっつって主張してますけど、それじゃあ牛豚植物は生物じゃねぇってのか?手前等はこのご時世に人間様が地球支配してるとでも思ってんのかつう話でしょうが。
第一それで小さい頃からイルカ喰って育ってきた健一さんが罪悪感持つ事なんざ無いでしょう。
国際異形連盟の最高法規にも『国籍・文化・種族による差別を禁ずる。また、他の国籍を持つ者や他の文化圏出身の者及び異種族の者に、自らの国風・文化・種族的法則等を強制する事を禁ずる』ってデカデカと書いてるじゃあないスか。
それより俺も、久々に食べたくなりましたねェ…黒沢さんの海豚鍋」
「えぇ…そうね」
そんなまったりとした会話をしていた3人だったが、後方を見張っていた千歳が、何かを見付けたようである。
「…ん?
何、アレ?」
「どうしました?」
健一の問に、千歳は答える。
「いや、大したことじゃ無いんです。
ただ、このボートをずっと追って来る背ビレが…」
そう報告する千歳に対し、大志は。
「スクリューの波と気泡に寄って来た海豚かゴンドウクジラだろ。
じきに居なくなるからほっとけよ。
それより千晴に千歳、お前等もそろそろこっち来て飯にしろ。
腹減ってたら仕事に差し支えるからよ」
「「有り難う御座います!」」
そう言って休憩に入る二人。
皆は安心しきっていた。
しかし、当然この背ビレは敵対者出現の旗であった。
そう、水中を泳いでいた背ビレの主は、只の海豚やゴンドウクジラではないのだ。
水中を泳ぐ背ビレの主は、密かに思った。
「(やはり読みは当たっていたか…。
待っていろ…今すぐ殺してやるぞ…悪魔の街の男め…)」
―同時刻・海中―
海上チームが昼食を取ろうという時、海中チームもまた、それぞれ持参した昼食を楽しんでいた。
雅子は自作であろう玉子焼きに、レタス鶉のゆで卵串鳥の照り焼きを少々持参している。
恋歌は机の上にファーストフードやコンビニ飯等を山盛りにしており、どうやらこれを全て自分で食べるらしい。
エヴァのは数々の野菜類を取り入れた健康的な色合いのサラダ。
薫はそんな面々の中で一番酷く、何とカロリーメイトが数箱置いてあるだけであった。
「薫ちゃん…昼食何時もそれ?」
「はい。某はこれがデフォルトです」
そう、料理経験など殆ど無いに等しい薫にとっては、これが何時もの事なのである。
さて、そんなこんなでお互い世間話を楽しみながら昼食を堪能して、30分程経った頃の事である。
ズドォォン!
潜水艦に外部から何か強烈な衝撃が加わり、船全体が大きく揺れた。
「ッ何!?」
「一体何事だ!?」
女四人に電流走る。
雅子は急いで潜水艦に取り付けられた外部カメラの映像をモニタリングして確認する。
そして4人は、襲い掛かってきたデカブツの姿に驚愕した。
「何なの…コイツ…?」
デカブツの容姿は余りにも異様であり、奇抜そのものであった。
前半身はクルマエビなのだが、その腕は明らかに蝦蛄のものであって、蝦蛄のような鋭い腕が潜水艦を掴んでいる。
腹部は透き通った桃色で縦に平たく、まるで魚の尾に見えた。
何より驚かされたのは頭の構造で、目玉はアサヒガニのように長く飛び出したものが多少折れ曲がり、その顎はオオエンマハンミョウのようであった。
要するに、デカブツの容姿はまさしく、訳が判らなかったのである。
デカブツは両腕で潜水艦を掴み、その胴体に大顎で噛み付いていた。
しかし、流石はシンバラ社の機械工学部と、日本最高峰とされる造船会社5社、天才設計技師10名、技術五輪歴代金メダリストの旋盤・溶接・鋳造・鍛造・手仕上げ等各分野のスペシャリスト等総勢1000名以上の協力を得て製造された量産型中型潜水艦「コノドント」の装甲を打ち破るのは、幾ら全長6mを超える「デカブツ」でさえも不可能なようだった。
「流石は機械工学部の皆様ですね。
傷所か凹みすら出ていないようですよ?」
と、相も変わらず落ち着いた口調で話すエヴァ。
「とはいえ…こんなの貼り付いてたら進路狂いますよエヴァさん…。
つまり絶対空母まで行けない…。
仕方ない、何か適当な戦闘形態にでも化けて追っ払うか…」
とは雅子の発言だが、この状況下に於いて実に正論である。
すると此処で、じっと考え込んでいた薫が言い放った。
「では、某があの海老擬きめを刺身にして参りましょう」
「おぉ、頼もしいね薫ちゃん」
「この程度、楠木殿の手を煩わせるまでもありません。
それに恋歌殿やエヴァ殿にとって、不慣れな水中戦は辛いことでしょう。
何より、某の能力は未だ読者の皆様に知らされておりません。
読者の方々に某の能力を知って頂く良い機会です」
すると恋歌も、
「作者も、それそーてーしてた」
「まぁ、作者がどうこうとかはどうでも良いですが、お願いしますね、薫さん」
「は。
お任せ下さい」
薫はバットケースから野太刀を取り出し背負うと、私服の上からゴーグルやアクアラング等のダイビング装備を装着し、特殊に設計されたハッチから海中へと繰り出した。
―海中―
まっこと運の良いことに、薫が飛び出した場所は丁度「デカブツ」こと「海老擬き」の死角となっている場所で、節足動物の目から異形は見えていないようだった。
「(どうやら敵は此方に気付いていないようだ…。
これは好都合だぞ…)」
そう思った薫は懐から小刀を取り出し、それを無防備な海老擬きの尻尾に突き刺す。
ザクッ!
「!!??」
すぐさま痛みに気付き、何事かと驚く海老擬き。
潜望鏡の様な二つの目が、背後を見渡す。
薫はこの隙に海老擬きの尻尾へと二度目の刺突を繰り出し、素早く逃げて海老擬きの注意を潜水艦から自らへと移した。
「(これで潜水艦は無事目的地まで進むだろう…。
此奴を片づけたら某も後を追うとするか。
さて…問題は酸素だが…)」
薫が水中でそう考えていると、早くも海老擬きがそのファンタジー作品に登場する無駄に豪華でデザインの細かい鎌のような片腕を振り翳してきた。
「(く!これしきの事ッ!)」
ガギッ
薫は背負った野太刀を鞘ごと抜くと、その鞘で海老擬きの片腕を防いだ。
さらに薫はそれに力を込め、海老擬きの片腕を押し返す。
大きくのけぞる海老擬きは、一瞬引き下がり様子を伺っている。
薫はすぐさま次の一手を考えた。
「(さて…どうする?
奴は某より遥かに巨大…それに遺伝子学科や生物学科の功績を知っているだけに、虫や海老の類は動物界でもかなり優秀な部類である事は、緊急特務においても周知の事実…。
しかし完全な生物など存在せぬ…。
某は不完全だが、それは奴とて同じ事!
そうだ…確か昔見て、楠木殿や手塚殿と共にファミレスで熱く語り合ったアニメに、似たような敵が…)」
そう考えながら野太刀を構える薫は、遂に妙案を思い付く。
「(…そうか、それだ!)」
思い立った薫は瞬時に野太刀を納めると、小刀を抜いて海中を素早く泳ぎだした。
「(先ずは奴の気を引く事が先決だ…。
何、心配なかろう。
過信するわけではないが、某の能力が有れば…)」
―同時刻辺り・海上―
此方も昼食の真っ最中の事である。
と、その時。
ガン!
突如大きな音と共に、船が大きく揺れた。
「「!!??」」
姉妹はすぐさま銃を構える。
「な、何だ!?」
大志は全身の皮膚を硬化させ、思わず最高級品の虎目ウクレレを鈍器のように構える。
「あら…また敵襲かしら…」
直美は至って冷静で、当然獣化する気もさらさら無い様子だった。
「…何か、また厄介なモノが来たようですね…」
健一に至っては顔色一つ変えていない。
そして彼は船の揺れが起こった方向に向かって、鋭く言い放つ。
「何者かは知りませんが、其処へ居る事は判っています。
もし私の言葉が理解出来ると言うのなら、姿を現しなさい。
仮に表さない場合、部下に集中砲火命令を下さざる終えません」
すると、海中から甲板へ、異様な姿の生物が這い上がってきた。
「…やはり、人間とは暴力が過ぎる…」
それは人型をしていたが、姿形は人とかけ離れたものであった。
まず最も目に付くのは表皮。
青黒く表面はスベスベしていて光沢を放っており、何より硬そうだった。
よく見れば烏賊の吸盤と思しきものの跡や細かい傷跡が目立つ。
頭もまた人間とかけ離れた設計になっており、耳の位置には黒い穴が空き、口は耳まで裂けていて大きく、歯は全て細く白く鋭いものであった。
鼻と呼べるものが見当たらないが、その代わりとしてだろうか、頭上に一つ穴の様なものが有る。
目は不気味に透き通っており、若干横側にずれていた。
両手の指の間には水掻きがあり、腕もまた薄く幅広いものとなっていた。
両足は人というより肉食獣に近く、強靱で腕とは違う設計らしかった。
さらに良く見れば、尾のようなものまで見える。
これは長く若干細いが爬虫類のような柔軟性は無く、またその先端にはV字ブーメランを横倒しにしたようなヒレがついていた。
しかも驚くべき事に、こいつが這い上がる最中一瞬だけ、五人の目にはその背中に三日月を突き刺したような背びれを見た気がした。
「「…コイツ…」」
姉妹は心当たりがあるのか、震えていた。
「まさかな…疑似霊長かよ…」
大志は読者にとって読み慣れぬ単語を口にした。
「それも、オキゴンドウなんて珍しいわね…」
直美は、水族館で飼える鯨の名を挙げた。
しかし健一は、そんな直美の言葉を否定した。
「いえ、香取さん。
これの原型はオキゴンドウなどではありません」
「と、言われますと?」
健一の口から発せられたのは、衝撃の言葉であった。
「…ハンドウイルカです」
健一の言葉を聴いた一同は、驚きのあまり言葉を失った。
―解説―
ファフルトップとは、人間以外の動植物を原型とした異形の一種である。
まず、異形には先天性と後天性があり、松葉のように産まれながらに異形である先天性と、雅子のように何らかの切っ掛けから異形と化した後天性が居ることを話しておく。
そしてこの内後天性で異形になるのは人間に限らず、動物や植物が異形になる事もそう珍しいことではない(無論、先天性の異形として産まれる動植物も存在する)。
そしてそれらの内、異形としての能力だけでなく、高度な知能や全ての生物に通じる言語能力を獲得したり、形態そのものが人間や別種の生物に類似した形態へと変化する者も現れる。
これらを日異連は「疑似霊長」と名付け、「霊長類に類似した動植物」という意味の英文(Flora and fauna like to primates)の頭文字を取ってそれらを少し捩り、「ファフルトップ(Fafltop)」と呼ぶことにしたのである(例えチンパンジーが同じ事になってもこう呼ばれるが、気にしては負けである)。
続いてハンドウイルカについての解説をさせて頂く。
ハンドウイルカとは、鯨偶蹄目ハクジラ亜目マイルカ科ハンドウイルカ属に属するイルカである。
一般的にはバンドウイルカと呼ばれることも多い。また最もスタンダードなイルカの一つであり、北極圏および南極を除く世界中の海(日本近海を含む)に生息する。
恐らく読者諸君が「イルカ」と聞いた時にまず思い浮かべるのは大抵、このハンドウイルカであろう。
成体の全長は2〜4m、体重は150〜650kg程で、丁度一般人を背に乗せられるだけの大きさである。
体色は一見ほぼ全身灰色であるが、背びれの先端の辺りは灰色が濃く、腹面にかけては灰色が明るい。また、対する腹部はほぼ白である。
この配色のため、水中を泳いでいる時には上方向からも下方向からも見つけ難いようになっている。
体格は平均的に雄の方が大型で、冷たい遠洋で暮らす固体ほど大型になる傾向があるが、寿命では雌の方が勝り、雌が平均寿命40年なのに対し雄は30年生きることさえ稀である。
泳ぐ速度こそシャチに劣るが、ジャンプ力は海生動物中トップクラスである。
また固体によっては戦闘力が無駄に馬鹿高い個体も居り、普通はイルカを食う立場にあるホオジロザメを惨殺したという記録もある。
また超音波を用いての反響定位も得意であり、これによって相手の肉体的基本情報を知り尽くす事も出来る。
―
擬似霊長は言った。
「そうだ…私はイルカであり、ゴンドウなどというものではない…。
よくぞ見抜いたな…我が一族を虐殺せし悪魔の街の生き残りよ…」
「貴方は…もしやあの時の…」
「そうだとも。
この俺だ。
『悪意ある魚雷』だ!」
そう。
甲板に上ってきたハンドウイルカの擬似霊長は、その昔3年間に渡り太地の漁師17名を虐殺し町民から恐れられ、その後忽然と姿を消したという、通称「悪意ある魚雷」であった。
「…随分と饒舌に喋るようですね。
人禍に荷担しているのですか?」
その問に「悪意ある魚雷」はこう答えた。
「『人禍』…?
俺が使えているのは古藤様只一人だ!
そんな連中など知らん!」
「…つまり、貴方は古藤玄白によって異形にされた…と」
「その通りだ。
古藤様は俺に異形としての力と人間の文明を授け、更には『アトゥイ』という誇り高き名前まで下さった!」
アトゥイとはアイヌ語で、「海」を意味する単語である。
健一はアトゥイに言った。
「では、貴方は今でも人間が憎いですか?」
「あぁ!憎いとも!
俺達を虐殺したり監禁した人間共も、俺達を下らない理由で守ろうと、悪魔の街を攻めた連中もな!」
「海豚を下らない理由で守ろうと太地町を攻めた連中」とは恐らく―というか確実に、海豚狩りに反対していた右翼同然の動物保護団体の事であろう。
ここで健一は、一つの疑問を投げかけた。
「ではアトゥイ、貴方に問いましょう。
貴方が家族や眷属を殺し続けた太地町民を憎むのは理解できます。
しかし、理由はどうあれ貴方方海豚を守ろうとした者達を、何故貴方は憎むのですか?」
するとこの後、アトゥイは衝撃的な持論を口にする。
まぁ、郷土の祭りとかは参加したくないの多いけど