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第四号 戦争開始



戦争開始ですよ、奥さん。

―前回終盤より三日後・太平洋上・巨大航空母艦―


少年は、清潔な寝室で目覚めた。

「(…!?)」


見れば、なんと自分は何も身に付けていないではないか。

「(…何があったんだ…?

僕は確か…家族と一緒に旅行に来ていた筈では…)」


何があったのか全く覚えていないが、今は自分に出来る事をしようとする。


「兎に角…服を着なければ…」

少年は衣類を探そうと、ベッドから降りる。

と、その時である。


ガチャ


何者かが部屋に入ってきた。

それは黒い白衣(・・・・)に身を包んだ、細身の男。

左手にはアタッシュケースを、右手には注射器を持っている。

少年は驚きのあまり口を閉ざしたが、男は構わず喋り続ける。


「…おや、もう目覚めたのか?

妙なことがあるものだな…。

ちゃんと君の身体的データ全てから緻密な計算を経て弾き出された最適の数値を注射したのに、目覚めが34分も早いだなんて…」

そう言うと男はアタッシュケースを開け、中から注射針と薬品の入った小瓶を取り出す。

少年は、男の言葉に耳を疑った。

「注射した…?

一体全体…僕に、僕達家族に何をしたんですか!?」

すると男は注射針を注射器に取り付け、薬品を取りながら淡々と答える。

「あぁ…家族…?

さぁねぇ。


僕の役目は君を健康な状態で保存(・・)することだから、君の家族がどうなったとかは、残念ながら全く知らないよ。

まぁでも、別段知る必要性も無いだろうけどね」

少年は、男に対して震えながら問う。

「どういう…意味ですか…!?」

爽やかな笑みを浮かべた男の口から発せられたのは、衝撃的な言葉だった。

「どういう意味って…?

簡単だろう。


君はこれから、死ぬ(・・)んだよ。


いや、厳密には眠る(・・)という表現が正しいかもしれない。

或いは封じられる(・・・・・)

君は一個体(・・・)から臓器(・・)へと成り変わるんだ。

だから死ぬわけじゃない。

ずっと生き続けていられる(・・・・・・・・・)

否、生き続けなくてはならない(・・・・)

しかしまぁ、どのみち君個人の意志で人として生きることは出来なくなるから…実質的には死ぬのと同じだ」







「そんな……」


ドタッ…


あまりにも衝撃的な宣告から、少年の全身からは力が抜け去って、死んだように尻餅をついて崩れ去るように倒れた。


男は、死んだように動かない少年の右腕へ薬品を注射した。


「さて…あれだけの量で26分眠ってくれたのだから、その二倍なら単純計算でも52分…免疫が出来たとしても10分以上は絶対に稼げるだろう。


このシンバラ社薬学部(・・・・・・・・)開発の、全てを平等に眠らせる至高の睡眠薬―『4-ヒュプノス31675』の効力は、それが例え神でも魔であっても、そして霊すらも眠らせる事が出来るのだからね…」


男は少年を再びベッドに寝かせると、備え付けの電話で何処かへ連絡を入れるのであった。


「準備完了致しました、コガラシ総統(・・・・・・)

どうぞご指示を」

『ご苦労だったわ、博士(ドク)

あとは運び屋に任せるから、暫くの間は適当に過ごしていて良いわよ。

封印解除が完了し次第、至急蘇生の儀式を開始させるわ』

「畏まりました、総統」

『それと、念のために忠告しておくわね』

「はい、何でしょう?」

『報告で、我々「人禍(ジンカ)」の拠点―つまりこの船の存在がシンバラ社緊急特務科にバレたとの情報が入ったの。

ご飯なりゲームなり研究なり恋人と愛を確かめ合うなり自慰なり、貴方が何をしようと大抵は自由にしていいわ。

但し、船内に緊急事態を知らせるサイレンが鳴り響いたら、貴方が出来る範囲で良いから、外敵に対して応戦して。

お願い出来る?』

「勿論ですとも。

えぇ。

自ら人の道を外れ、シンバラ社という楽園を去った僕なんかを拾って下さったコガラシ総統のお言葉とあらば、死すらも是でありますとも」

『そう。それは頼もしいわね。

それじゃ、幸運を』

「えぇ。総統もどうかご無事で」


そう言って電話を切った博士(ドク)は一人部屋を後にした。


―7/20・太平洋上・異形数名―


ブォォォォォォォォォォォォォン…



軍用中型船舶には、五人の異形が乗っていた。


「南方・西方、共に半径5km異常有りません」

暖色系の少女らしい服装でライフルを背負った少女は報告する。

それを聞いた残る三名は頷く。

「北方・東方、共に半径5km異常有りません」

寒色系のボーイッシュな服装で機関銃を持った少女は報告する。

それを聞いた残る三名は頷く。


双眼鏡も用いずに(・・・・・・・・)そう報告するのは、千歳(チトセ)千晴(チハル)

通称「妹尾(セノオ)姉妹」である。

どちらも外見十代前半の異形であり一卵性の双子。

現役中学生であると同時にシンバラ社実戦部にも勤めており、主に主人として慕う鉄治の従者・側近的役割を勤める。

双子故に外見が殆ど同じであり、また思考パターンや趣味趣味趣向なども殆ど同一と言って過言ではない。

それぞれ片側の首筋から手の甲にかけてナミヘビが巻き付いたような痣があり、痣が左腕にあるのが千歳で、右腕にあるのが千晴である。

また思考パターンや趣味趣向が同じとはいえそれぞれ若干差異もあるようで、主にスカート等の少女的服装と暖色を好むのが千歳であり、対する千晴はボーイッシュな服装と寒色を好む。

二人揃ってアーケードのガンシューティングゲームが大好きで、総額200円(つまりゲーム開始用に投入したコインのみ)で完全クリアしてしまうほどに上手く、その能力を買われて実戦では狙撃を担当する。

また、直感が鋭く高い思考力を持ち手先も器用な為、暗号解読やピッキング等も大の得意であり、潜入捜査等に起用されることもある。

その際は普段狙撃で愛用しているワルサーWA2000、L96A1、バレットM82、M24等の大型狙撃銃ではなく、持ち運びやすいベレッタM92やFMP90等の拳銃や小型機関銃の他、銃身切断散弾銃ソードオフ・ショットガンを携行する。

片鱗を見せたので思い切って能力についてもぶっちゃけてしまうとしよう。

彼女ら二人の能力は共に「五感」で、その名の通り動物に存在する五つの基本的な感覚が鋭敏に発達しており、更にはこの感覚の感度を自由自在に調節できるというものである。

但し、「味覚」だけは人類とそう大差無いので、厳密に書き表すとすれば「四感」であろう。

また千歳は「視覚」と「触覚」に、千晴は「聴覚」と「嗅覚」にそれぞれ特化しており、千歳の場合は全身の皮膚細胞で気流の乱れや温度変化を感じ取り、千晴の場合は目を完全に塞いでいても聴覚だけで周囲の音を探知する。


そしてその他に船に乗り込んでいるのは、美男子異形の黒沢、怪力女の直美、厳つい顔立ちの大志である。


皆表情は真面目そのものなのだが、如何せん若干二名の服装が、これからテロ組織の本拠地へと突入するようなものではなく、当然深緑色の塗装に機関銃やレーダー、小型大砲や大容量の武器庫まで備えた厳つい外観の軍用中型船舶に似合うものでも当然なかった。


「貴方達…私達がこれから何をしに行くか判って居られるのですか…?」

スーツに似た戦闘服をキメた黒沢は淡々と、全然似合わない服装若干二名―直美と大志に言う。


「えぇ。勿論よ」

「黒沢さん、俺達だって馬鹿じゃありませんよ」

そうは言うが、二人の服装はまさに問題山積みといった感じであった。


まず直美だが、どう考えたって戦いに出向く女の服装ではない。

脚はカラフルなスニーカーと艶やかで肉付きの良い太股を強調する為かショートパンツを履いており、上半身は毒蛾のような模様の入ったビキニで優雅に決め込んでいる。

ご丁寧にサンバイザーまで装着済みである。

どの角度から見てもリゾートに来た大物女優か一般人じゃねえかよ。

続く大志もまた、どう考えてもこれからテロ組織に挑む男の服装とは思えなかった。

サングラスをかけ、上半身は色鮮やかなアロハシャツ、それと対照的に下半身は明るいベージュの半ズボン。

その上ハイビスカスの刺さった麦わら帽子と天然の縞模様が入ったウクレレまで担いでリゾートな雰囲気全開である。

どこの民放バラエティの海外ロケだよ。


ちなみにウクレレにはハワイ製とアジア製の二種類が存在し、大志が持っているハワイ製―それも、その中でも特に上質な「虎目」を持ったウクレレは大変な高級品である(欠片も有れば一生遊んで暮らせるとかそんな価格ではないが)。

ハワイ製ウクレレの原材料となるコアと呼ばれるアカシア科に属する樹木の木目は特殊にできており、その中において特に美しい木目を持つものは、その模様から「虎目」と呼ばれ、高値で取引される。

通常のものと音色に差は全くないが、価格は安価なものでも平均600ドルと高額で、しかも虎目の出るコア材は元々紫●珀や天●程に貴重だというのに、未だ年々減少を続けているのだという。

買っていくのは主に富裕層かプロのウクレレ奏者であるが、何故大志がこれを持っているのかは謎とさせて頂きたい。つうかもう説明するのがめんどくさいのだ。


さて、黒沢は半ば苛立ちながらそんな直美と大志(ふたり)に説教をかまそうとしたが、そうとも行かないようである。

監視役を務めていた千歳から、報告が入ったのだ。


「…!?

前方から何か来ます!

あれは…何…?


兵士の群れ?

しかも何かに乗っているけどアレは…海豹(アザラシ)……?

でも顔は………猿!?」

海を埋め尽くす兵士の群れは、ウェットスーツに身を包み、銛を片手にパンツァー・ファウストやAPS水中銃を背負っていた。

顔に防毒面を着けていて全身黒いので、これでもかと言うくらい不気味である。

それだけならば、まだ普通の水中兵(フロッグマン)であったろう。

だが、異常なのは彼らが乗りこなしている乗り物だった。

全長2m程のそれらは皆、海豹(アザラシ)海馬(トド)を思わせる体格で、全身に毛を持たず地味な色合いの弛んだ肌を持っていた。

しかしその前脚は海馬の前脚というより、小さなダイバーの足鰭(アシヒレ)を付けた人間の腕のようであり、また足はバタフライ用の補助器具を付けた水泳選手のそれに見えた。

しかし何より千歳を驚かせたのは、それらの頭部であった。

海豹や海馬は、ああ見えても食肉目に属する、まさに「海猫(ウミネコ)」と言い表せる動物なので、肉食哺乳類的な頭を持っている筈であった。

だが兵士達の騎乗獣となっていたそれらの海獣達の顔は、牙を持ち毛のない狒狒(ヒヒ)のようであった。

こんな動物、世界中何処の文献を探したって居るはずがない。


驚く双子を尻目に冷静な黒沢は、いち早く情報を確認しようとする。

「総数は?」

「はい。ざっと見ただけでも五百体はゆうに超えているかと!」

「500体…ですか。


皆さん、至急戦闘態勢に入って下さい」


「判りましたわ」

「あいよォ」

「「了解!」」



こうして太平洋上、テロ組織「人禍(ジンカ)」拠点周辺の海域にて、異形五名と謎の海獣を乗りこなす水中兵(フロッグマン)500名以上との激戦がスタートした。



―同時刻・「人禍」拠点内部―

一室にて、兵士は報告する。

小沢(・・)総隊長、報告致します。

シンバラ社緊急特務科のものと思われる不振な船舶と、|神の奴隷たる死した蛙人間部隊ゾンビー・フロッグマンズ先遣隊が接触。

船員との交戦を開始しました」

「良いだろう。

そのまま続けさせろ」

王室に似た、扇子を全く感じさせない部屋の奥にある王座のような椅子に座り込む、銀髪で目つきの悪い青年は言い放った。

すると兵士は言った。

「宜しいのですか?

兵士はともかく、海原大猿(オーシャン・エイプ)はストックがありません。

あれほどの軽装では、直ぐに突破されてしまうのでは?」

青年は答える。

「大丈夫だ。

猿が全滅したらジェットスキーでもモーターボートでも何でも良いから突撃させれば良い。

それでも駄目なら、侵入(はい)られてから考えれば済むことだしよ」

何と危機感のない男であろうか。

しかしそれに対し、兵士は抗うでもなく、淡々と言った。



「総隊長のお言葉の侭に」



「おう。下がって良し」


素早くその場を去る兵士。


男―小沢は愛用する拳銃を適当に構えながら笑み、思った。


「(待ってろよ…手塚松葉(・・・・)ァ…。

お前をブチ殺して、絶対に雅子(・・)を俺のモノにしてやるぜ…)」


―同時刻・太平洋海中・異形四名程―


海中を進む潜水艇。

以外と広々したその中に、女が四人ほど屯っていた。


「これが…『同人誌』というものなのですね…」

そう言いながらエヴァが手に取って開いているのは、雅子が発行したう●わ●本「栗栗栗」の総集編である。

「えぇ。

それは総集編って言いまして、今まで出した同人誌の作品を一冊にまとめて作ってあるんです。

同人誌も普通の本のように売り切れになってしまいますし、書店委託のないイベント限定の話とかも有るんで、そういったお話も入っているので値段に見合った価値があるんですよ」

「楠木殿は絵がお上手で、同人作家としても大人気なのですよ」

「雅子お姉ちゃん。絵上手い」

「そうなんですか。

それはさぞお忙しいでしょうね」

「いやぁ、売れっ子っつったって、私なんてまだまだですよ。

あはははははーっと、それはそうと上層(ウエ)の人達は大丈夫なんですかね?

やっぱり私も行った方が良かったかな?」


事実、雅子の心配は的中していたりする。

彼女らの遙か上にある海上では、人禍の拠点から湧き出てきた|神の奴隷たる死した蛙人間部隊ゾンビー・フロッグマンズと黒沢・直美・大志・妹尾姉妹の五名が交戦中なのだ。


―同時刻・海上―


ガガガガガガ!

ドドドドドドドドドドドド!

バシュォウ―…―ドゴォァァァン!

「糞ッ!

コイツ等、幾ら()っても減らねーぞ!」

備え付けのガトリング砲を兵士達に向けて連射する大志は、そんな事を叫んだ。


「くぅっ………減る減らない以前に、弾が当たって死んでる!?」

とは、ライフルで兵士や海原大猿(オーシャン・エイプ)の脳天や心臓を的確に、素早く狙撃している千晴。

「あー…千晴、僕もそれ思ったところ…」

とは、海上へ大体の感覚で機関銃を乱射する千歳。

「…やっぱり?」

「…うん」


そんな会話をしながら、姉妹は銃を撃ち続けたのであった。


と、拳銃で応戦していた黒沢が、此処で動きを見せた。

「仕方ない…。

そろそろ私の能力を使うとしましょうか」


「遅ェっスよ、黒沢さん!」

「そうよ!私や大ちゃんだってバリバリに使ってるわよ!」


そう叫ぶ大志は、何か身体が異様に角張っており、弾丸を軽々弾き返して居る。

しかも、両手の無反動砲を乱射している直美は何か虎っぽい容姿である。


そんなわけで、この二人の能力も早々に公開するとしよう。


まず大志の能力は「硬度」であり、自身含め個体全ての硬度を自由に操作し、物体を硬くしたり柔らかくしたりする事が出来る。

自身や周囲の板などを硬化させれば強度が上がり純粋な盾になるほか、逆にそれらをゴムのように柔軟な物体にする事で転落時の衝撃を緩和したりする事も出来る。

現在は兵士達の放ってくる弾丸を弾いたり、拳を硬質化・二の腕をゴム状に軟質化させ、拳を分銅やモーニングスターのように扱っている。


続く直美の能力は、事実的なところ体質に近く「禽獣の異形」たる手塚松葉と類似したものである。

「猛虎」と称されるそれは、巨大な虎・虎型半獣・耳と尻尾だけ虎という三つの形態へと変身するというものであるが、残念ながら松葉のように身体の一部だけを変身させる器用さや飛行能力は持ち合わせていない。


で、黒沢は何故だか今の今まで能力使用を自重していたのだが、漸くその能力が明らかになる。


「…焼き尽くして差し上げましょう…」


黒沢は甲板にある、船の繋ぎ目へと手をかざし、そこから何かを摘み出す。


ジュォウン…


それは青色を帯びた細い糸状の発光体であり、原始的な深海生物が巣穴へと潜る様に空中を泳ぎ、黒沢の右手へと収まると、青い中枢と白い外殻を持った球体となった。

黒沢は球体を握り込み、右手を兵士達の方向へと振り(かざ)した。


―シューン―ジュオォォォォォォォォ…


青と白の光球は、黒沢の中指から細い光線となって放出され、|神の奴隷たる蛙人間部隊ゾンビー・フロッグマンズと、その騎乗獣たる海原大猿(オーシャン・エイプス)の大多数を見事焼き斬った。


「高出力窒素レーザーです…。

驚く必要性などありません。

作り方くらいそこら辺の理工書に載っていますし、材料もホームセンターや通販を使えば全て揃います…」

淡々とそんなことをしゃべる黒沢。

それを見た他四名は、というと。


「いや、確かに作り方も材料も入手は簡単なんでしょうけど…」

とは、耳を伏せた直美。

「その威力が半端なモンじゃねぇンだよなァ…」

とは、完全に機関銃を撃つ手の止まっている大志。

「「黒沢さん相変わらずだなぁ…」」

とは、こちらもやはり射撃の手が休まっている妹尾姉妹。

しかし黒沢はというと、

「さぁ、急ぎますよ皆さん。

あとの兵士達は放って置いても大した事は出来ないでしょうし、機雷でもばら撒いておけば全滅させるのは容易い事です。

いや、機雷すら要らないかも知れませんね」


そう言って、船は航空母艦へと進み出す。



ここで、とりあえず黒沢の能力について解説しておくとしよう。

彼の能力は「線分」であり、周囲に存在する「線」からワイヤー、ロープ、電線、レーザー光線、挙げ句は植物や毒蛇、変形菌や回虫さえも召還する能力である。

しかし「線分」の神髄とはそれに留まらず、己の肉体含めあらゆる物体を、その状態を完全に保ちつつ強靱な糸にしてしまう(そしてそれを戻す)事で、戦闘どころか物資の輸送をも効率的に行う事の出来るという機能である。

ってかこの能力あるだけで飛行機代が相当浮くよね。まぁその分食費にもってかれるだろうけど。


さて、黒沢の指示に従い船を操縦する大志と、弾幕を張る妹尾姉妹。

機雷を投げ込むのは獣化を解いた直美である。


雅子、恋歌、薫、エヴァを乗せた潜水艦も、順調に海中を進んでいる。


となると、残るは鉄治と松葉なわけだが、彼らはというと…



―同時刻・人禍拠点より遙か上空・鉄治、松葉―



人禍拠点である全長600mの超巨大空母の真上の真上の真上の、遙か上空。



きっと海面から5000mなんて遙かに超えているのであろう、そんな位置にあるのは一機の戦闘機。




SR-71

1950年代後半から1960年代にかけてアメリカのロッキード社・スカンクワークスで開発した超音速・高高度偵察機。愛称は黒い鳥(ブラックバード)

初飛行は1964年12月11日。1

967年5月31日実戦投入。

沖縄・嘉手納飛行場にも配備されたことがあったとかで、その異様な形状と夜間に出撃することから現地では「ハブ」と呼ばれていたらしい。

設計者はクラレンス・ジョンソンとかいう御仁で、運用したのはアメリカ空軍、アメリカ航空宇宙局なんかだそうだ。

初飛行は1964年12月22日。

某いちいち無駄に楽しい無料占いサイトで調べたら妖精で、同じ月日にはシーラカンスが見付かったり力道山が優勝したりしてて、物理学者ウラジミール・フォックの誕生日でもあった。

生産数は32機で1966年運用開始、退役は1999年で、初飛行からカウントすれば35年間活躍したことになる。

何だかんだ言って数々の修羅場を通ってきたらしいが、その中で撃墜された機体は何と無し。

しかしフレームアウト頻発したり、操縦が腐るほど難しいからか事故で多くの機体と搭乗していた兵士達の尊い命が失われている。

ちなみに二人乗りなので、現在前方の座席に鉄治が、後方の座席に松葉が乗り込んでいる。



「鉄治ィ、聞こえるかァ?」


「おう、バッチリ聞こえるぜ、兄貴」


「そりゃ何よりだ。

聞こえて無きゃ一大事だからな」


「まぁしかし、よくもこんな貴重品を日本異形連盟(オレら)に売ってくれるコレクターが居たもんだな」


「欧米異形連盟幹部で末期のミリオタのダンディなおっさんだよ。

人乗れてマッハで飛ばせる模造品を自力で作ったからって、日異連(ウチ)に譲ってくれたんだと。

で、そいつに乗り込んだ俺達は只今、どうしようもねぇ作戦を実行予定な訳だ」


「どうしようも無くはねーよ。

奴らの膨大な戦力を甲板に集中させて注意を引きつけてる間に、黒沢達海上班や雅子達海中班を船の中へ侵入させるって作戦なんだからな」


「はっはっは、違ェ無ェ!


んじゃよ鉄治ィ、そろそろ行くか?」


「応!」



そして松葉は瞬時に変身すると、操縦席から外部へと出て、偵察機にへばり付いて、時を待つ。



数秒後。






鉄治は操縦桿をしっかりと握り締め、偵察機の頭を目標である航空母艦甲板のど真ん中へと向けると、そのまま真っ逆様に偵察機をぶっ飛ばす。









偵察機に積まれたジェットエンジンの轟音が、広く果てしなく広がる清々しく晴れ渡った夏の空に木霊した。

もう何が何やら。

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