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第一号 インド洋における海賊達の惨劇




舞台は何故かインド洋。

―17世紀・インド洋・一艘の海賊船―


「若きあの〜日の夢〜が〜♪

俺を海へ〜誘い込む〜♪

思〜うまま〜気の向く〜ままに〜♪

描け〜あの空に〜理想郷〜♪」

そんな感じに歌いながら梶を取る操舵手の男。

それに答えるのは、帆の先端にしがみついて望遠鏡で周囲を見張る猿のような男。

「お前その歌好きだよな〜。

何処で誰が作ったとも知らないのによ〜」

「あぁ。誰が作った訳でも無く、生まれた頃から俺の頭にこびりついて離れねーんだよ」

「そーなのかー。そりゃご苦ろぅおあああああああああ!!」

見張りの猿男は、望遠鏡で何か恐ろしいものを見付けたのか驚きのあまりバランスを崩し、甲板へと転落しそうになる。

「エイン!大丈夫か!?」

操舵手は堕ちていく見張り・エインに叫ぶ。

しかしエインは素早く体勢を立て直し、華麗に着地。ちゃんと望遠鏡もキャッチした。

「いやはや、流石は『船猿』エインだな」


「おうよ!俺こそ『裸の海豹(ネイキッド・シール)号の船猿』ことエイン・グラント―ってぇかそれどころじゃねーんだよ!」

慌てて操舵手の元へと駆け寄ってくるエイン。

「どうしたんだ?」

操舵手の問いに、望遠鏡を覗き込んでいるエインは慌てながら答えた。

「良いから俺の指し示す方向を見てみろ…ったあああ動いてやがるぅ!」

「じゃあ、舵取り」

「任せろぉ!」

操舵手は舵取りをエインに任せると、手渡された望遠鏡で示された方向を見て、唖然とした。




「何だ…アレは…?」




操舵手が目にした視線の先にあったのは、白い島のようなものだった。




しかし、島は呼吸をするように動いている。

それもよく見れば、前進しているではないか。





そして島の両脇から、何やら白く細長い柱か()のようなものが伸びる。




「白く細長い柱か腕のようなもの」が水面に突き刺さり、暫くして。




ザバァ……





盛大な水飛沫の元に、それは起き上がった。







「(……これが………現実……?)」






操舵手がそう思うのも無理はない。




その、恐らく生物(・・)であろう巨大な何かは、既存の生物とは似ても似つかぬ異様な姿をしていたからだ。


全身が、汚れやくすみの無い綺麗な白い長毛で覆われている。

これだけならまだいい。


口元からは竜のような長い髭が2本生え、全体的な頭の形状も竜か、歯鯨のようである。


もっと奇怪なのは首から後ろで、まず腕と胴体が異様に細い。

まるで日本妖怪の「足長手長」の片割れ・手長に似ていたが、イギリス人の操舵手やエインがそんなものを知っているはずがない。


頭の側には、何やら紅いヒラヒラした毛か葉のような突起物が生えていて、更に羊のような灰色の角まである。

それは、主に有尾類(イモリとかそのへん)の幼生が持つ外鰓(がいさい)と呼ばれる呼吸器官に似ていた。



その容姿に驚かされた操舵手は、しばらく硬直していたが、暫くして漸く口を開いた。





「……エイン…」


「な…何だ…マックス?」


「……奴が……奴が……」


「…奴が…どうした?」


「立ち上がった…」


「立ち上がったァ!?」


「しかも歩いてる…」


「歩いてー!?」


「適度に早いぞ…」


「適度に!?」





暫く黙り込む二人。



と、此処で重要な事に気付く。





「「……そういえば………この事まだ船長に話してねー!!」」



「急ぐぞエイン!」

「おうよ!」


急いで船長室に無かう二人。



―船長室―

ネイキッド・シール号船長、エリゴス・ウェールズは、度重なる激務故に披露し船長室で仮眠を取っていた。


彼の眠りは無駄に深く、部下が幾ら騒いでいようとも中々起きない。

というか、耳元で爆発が起こっても起きなかった事さえ有る。

現に今も、マックスとエインが必死に呼びかけたりしているというのに、全く起きる気配が無い。

それでも、船の人間全員の指揮を執れるのは緊急時以外エリゴス以外居ないというのがネイキッド・シール号の鉄則であった為、二人は必死になっていた。


「船長!起きて下さい!」

「船長!早く起きて下さい!」

「お願いしますから起きて下さい」

「疲れているのは判ってますから、船の一大事なんです!」

「船長ー!」

「船長〜!」





そうしてなんと二時間半以上。

深海より眠りの深いエリゴスは一向に起きる気配を見せない。

全く起きる気配のないエリゴスに、二人は気疲れしてしまい、遂にエリゴスのベッドを二人がかりでひっくり返すという荒技に打って出ようとした。




と、その時。




ズドォォォン!



船に何かが激突したのだろう、大きな揺れが走る。

すると、突如エリゴスの両目が開き、彼は叫び声と共に飛び上がるようにして起き上がった。



「ぬおおおおおおおおお!!嵐か!?津波か!?敵襲か!?


っとぉお、尾鰭のマックスに船猿のエイン!

どうしたんじゃ、儂の寝室にまで上がり込みおって?

まさか敵襲か!?隕石でも降ってきたのか!?」

混乱するエリゴスに、マックスが冷静に答えた。

「はい…そのような事態ではありませんが…非常事態です!」

エインも続く。

「早く甲板に!」


「よし判った!直ぐに向かおう、案内してくれ!」

「「はい!」」


三人はすぐさま甲板へと直行した。



―甲板―

「………」


眼前に広がる光景を目の当たりにした三人は、言葉を失った。

何故なら、自分たちが寝泊まりしている船のすぐ側に、生きているとは思えない白く巨大な「何か」が立っていたのだから。


そう。

「何か」は二時間半、ネイキッド・シール号を目指して歩き続けていたのだ。

上風もなく、帆は畳まれているし操舵手も居ない。

当然漕ぎ手や他の乗組員達は昨晩の激務に疲れ果てて眠ってしまっている。

起きているのは精々マックスとエインだけだ。

つまり、「何か」の存在に気付けるのは、必然的にこの二人に限られていた。

全長40m…シロナガスクジラの全長に等しいその巨大な船を見下ろす―途轍もなく巨大な「何か」。





沈黙の中、最初に口を開いたのはエリゴスだった。


「一体……何なんじゃ……コイツは…?」

「それが判れば…」

「…何も苦労は……」


「そうか…判った。至急乗組員全員を叩き起こすとしよう」

そう言ってエリゴスが船室内へと戻ろうとした時である。


「何か」の右腕が空高く上がった。


「…やばい」

「…これは」



二人は咄嗟に逃げようとする。

しかし、緩慢だと思っていた「何か」の拳が船目掛けて振り下ろされる速度は、恐ろしいものであり―――







ドガァアアアアアアアア!!





「うおああああああああああ!!」



神と謳われた船大工に頼んで特注で作らせた『鯨に突撃されようとも沈まない船』こと『ネイキッド・シール号』はたった今、見事真っ二つに叩き割られてしまった。

如何なる大嵐にも耐えてきた(マスト)は、乾麺のように易々と折れていき、強靱さで右に出る者無しとされたロープが、まるで煮麺のように簡単に切れていく。



崩れ行く船の中、慌てふためく船員達は、まさに無力。

どうしようもない程、何もかもを否定され、ただ船の破片が身体に突き刺さったり頭に当たったりして死んでいくか、海に落ちていくしか無かった。



「っはあ!っぶはあ!どうにか…死なずには済んだが…


エーイン!


船長ー!



ブラーッド!

ジェーニー!


ザーック!


アルフレッドー!


みんな何処だー!?」


マックスは叫び続けた。

幾ら呼べども返事はない。

生き残っている船員達も要るには居るが、誰も彼も自分自身のことで手一杯で、パニック状態に陥っている者が殆どだった。

と、ここで「何か」は生き残っている船員達に更なる追い打ちをかける。



「何か」はその細長い両腕を伸ばし身を屈めると、その巨大な口を精一杯に開き、両腕を使って海上の乗組員達だけを器用に口へと掻き込んでは喰らっていく。



マックスは必死に泳ぎ、出来る限り「何か」から逃げようとするが、すでに背後には大口を開けた「何か」が待ちかまえていた。




マックスは、か弱い声で涙を流しながら呟いた。

「…ああ…海よ――バゴゥフッ!!


「何か」は、マックスを一瞬で海水ごと丸飲みにすると、胸に空いている八つの鰓穴(エイに似る)から大量の海水を吐き出す。





周辺の食べられそうなものを一通り喰い尽くした「何か」は、ゆっくり歩きながらその場を後にした。




「何か」はその後、数ヶ月に渡り北極と南極を除く全ての大陸で破壊行為を繰り返した後、太平洋にて天から降り注いだ「光」によってミイラ化し、深い海の底へと沈むことになる。

そして、当時秘密裏に存在した「国際異形連盟」の元となった集団「異形会」によって「白い巨像」と名付けられた「何か」は、その巨大な心臓部を切り抜かれ、合金製の拘束具によって再び太平洋の奥深く―水深4000mの深海底へと封印される事となり、その巨大な心臓もまた沖縄本島の糸数壕(アブチラガマ)の奥深くへと厳重に封じられる事となった。


しかし、太平洋戦争当初の地上戦にて思わぬ出来事が起こった。

沖縄へ上陸した一人の米兵が、糸数壕(アブチラガマ)に隠れた一般人を暇潰し目的で手榴弾により爆破。

しかもその数は一個や二個などと生温い数に留まらず、実に十三個も投げ込まれた。

そしてその内の幾つかが、偶然にも心臓を封印していた拘束具を破壊、心臓が洞窟内に転げ落ちてしまったのである。


それから長い間をかけて心臓は洞窟内に溜まる僅かな水分と栄養分を吸収し、何と太平洋戦争終結と共に全盛期の頃の命を取り戻すまでに至ったのである。

そう、心臓を含む「白い巨像」は、体内でトレハロースを精製する能力を持ち、それを利用して仮死状態にあったのである。


ネムリユスリカという羽虫の幼虫は、一見普通の紅いボウフラだが、このトレハロースを精製・保有する事によってクマムシクラスの耐久性・生命力を発揮する。

それによって生息地であるアフリカの灼熱と乾燥に長期間耐え続け、超高温・超低温・マイクロ波、更には真空にすら耐え続け、湿気一つで完全に復活するという。

白い巨像もまた、恐らく誕生当初からこうして乾燥に耐え続けていたのだろう。

そして恐らく、巨像本体と心臓はそれぞれ別々の生命を保有しており、心臓だけで生き続けることが可能なのだろうと推測された。


一個体として生きる生物が部分毎に別々の生命を保有する。


このように聞けば一見、SFやファンタジーに有るような絵空自を思い浮かべるかもしれないが、これは既にカツオノエボシやクダクラゲ等の刺胞動物において確認された実在する生体システムの一種で「群体」と呼ばれている。

これらの生物は、脳・口・生殖器・消化器官・触手・動力部(ヒレ)・武装(毒針)を、それぞれ別々の個体がその器官専用に特化した形態へと変形し、複数の個体が結合して一つの生物として振る舞っているのである。

この天から推測すると、「白い巨像」及びその「心臓」は、細胞一つが生命体として機能しているため、細切れになっても死なないという事になる。


そして、紆余曲折を経て命を取り戻した心臓は異形会によって迅速に回収された。

焼けばすぐ死ぬが、重要な研究対象になるだろうと考えた異形会は、心臓を自分たちの本部で「飼育」する事になった。

しかも驚くべき事に、「心臓」は水で十倍に薄めた液体肥料をかけてやるだけで相当長生きする。


そしてある日のこと、驚くべき事件が起こった。


何がどうなってしまったのか原因・理由は不明だが、ある日突然心臓は驚くべき速度で変態を開始、最終的に人間の乳児の姿へと変化を遂げたのである。

異形会はこの乳児を保護し、とある家族へ養子として引き取らせる事にした。

両親と小学生の一人娘が居る家で、

余談だが、この乳児から抽出された遺伝子を活用して、あの「ライアー」が産み出されたのは言うまでもない。



そして物語における「現代」から二年程前、「心臓」が変態した乳児から得られた遺伝子と、人類の2世紀先を行くシンバラ社の技術によって産み出された生命体「ライアー」は怪盗「アルセーヌ・コガラシ」によって盗み出されそうになり、監禁されていた研究施設を逃亡。

後に北海道のルスツリゾートへと侵入。宿泊客を虐殺中、シンバラ社緊急特務科副長にして格闘の異形・安藤陽一と交戦、彼に重傷を与え逃亡。

自身を焼身自殺の道連れにして殺そうとした神木天津を殺害後、現シンバラ社緊急特務科事務担当にして変化の異形・楠木雅子と交戦、儀式的な戦闘形式の末に彼女の罠に掛かり焼き殺される。

その後己の生きた証を残す為、また敬うべき人間である雅子の為に、粒子と化し雅子の体内へ侵入。

彼女の細胞を侵略し、楠木雅子を変化の異形へと変えたのであった。


そして巨像本体は今も、太平洋は赤道付近の深海数千メートル底へと封印されているのである。

水も染み込まず、魚すら寄りつかないように、厳重な拘束具によって。





そう、恐らく。

次回から現代に移ります。

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