第68話 クロスビーの報告書
「魔獣の分布が以前の状況に戻っていることを確認した。これで一安心だな。ご苦労さんだった」
「森の奥でランクA、時々ランクSを相手に鍛錬が出来たので良かったですよ」
クエストを終了しギルドカードにポイントを加算し報酬を受け取った彼らが会議室から出ていくとギルマスのクロスビーはその場にいたステファニーに顔を向けた。
「レインとミスティはもうすぐエマーソンらのポイントに並びそうです。他の3人もしっかりと貯まっていますね。
「今のペースでポイントが貯まるとしたらいつ頃になる?」
「レインとミスティで半年以内。他の3名も1年以内には昇格の有資格者となりそうです」
ランクAまではポイントが最優先されるがそれから上、AAとなるとポイントだけではなくその活動の内容や人柄までが審査の対象となる。
ポイントの貯まりやすい護衛クエストばかりしているAランクのパーティにはAAランクへの昇格の目は無い。また戦闘においても格上との戦闘の回数等も審査の対象だ。そしてそれ以外にもちろん人格的に問題がない等冒険者の頂点に立つ資格があるかないかを総合的に判断をして決定される。その点ではレインとミスティの2人を初めとする彼らのパーティは護衛クエストなどではなく魔獣を相手にした戦闘、それも数多くの格上との戦闘をこなしてポイントを貯めて来ているし人間性についてはメンバー全員が全く問題のないレベルだった。
ギルド総本部のオズボーンの依頼でクロスビーはエマーソンらのパーティの動向については定期的に報告書を総本部に上げている。その報告書は多くの場合総本部から再度各ギルドに送付されていたのでアル・アイン王国内のギルドのギルドマスターは彼らの動向、成長については把握していた。レインとミスティが冒険者になった時からクロスビーの定期報告は続いている。
最北の村でのNM戦についてもクロスビーから既に報告書が出ており、それを見た本部はもちろん各地のギルドマスターもミスティが立てた作戦に驚愕し、感心していた。
その彼らに関する最新のレポートがエイラートから総本部に送られた。今回の彼のレポートではパーティの現状の報告と同時に問題提起がなされていた。
報告ではエマーソンらのパーティが順調にポイントを稼いでいること、特にレインとミスティについてはもうすぐエイラートで最もポイントを稼いでいる冒険者になると書かれておりこの調子でポイントが貯まっていけば2人は半年以内、残り3名も1年以内には過去のAAランクの到達点に達する予定だと書かれている。
今回のクエスト終了時にクロスビーが作成したレポートでは上述の通り彼らがAAランクに昇格する為のポイントが順調に貯まってきていると報告をしているが同時にもう1点報告というか問題提起をしていた。
それはランクAAからランクSに昇格する際の基準が今は無いということでここをどうするのか今から検討して決めておいた方が良いというものだ。
ランクSは勇者パーティ、つまり勇者とその仲間達が自動的にランクSとなるのは知っているがランクを上げていってAAランクからSランクまで昇格した者は今までいない。
クロスビーのレポートでは彼らはまだ若くAAの更に上のランクになる可能性も十分にある。と同時にクロスビーは報告書の中でランクAAからSへの昇格条件として、
過去の大賢者、聖僧侶、そして超精霊士らがそう言われる様になった新しい魔法やスキルを取得した時点でランクを上げてはどうか?
と私見を述べている。そして同時にその場合まだ未発見の戦士と狩人の扱いをどうするのかは検討する必要があると書いていた。元戦士のエニスは勇者だったので例外扱いとした場合に、純粋な戦士のエマーソンやや狩人のニーナが果たして更に上のスキルを得られるのかどうかは不明だが仮に新しいスキルが得られなかったとしてもナイトのスコッチが新しいスキルを覚えた時点で戦士と狩人も同等に扱うのが良いだろうと書いている。
このレポートがエイラートからギルド総本部に送られるとそれを読んだ総本部長のオズボーンからギルド総本部として彼らがランクAAに昇格した後にこの件について王都でギルドマスター会議を開きその席上でルールを決めたいというコメントを付けて国内の全ギルドのギルドマスターにこのレポートを送付した。
この様に5人の周辺は慌ただしくなっていったが当人達は依然としてマイペースだ。最北の村でのクエストを無事に成し遂げたあとは再びエイラートから2日ほどの距離にあるダンジョンに挑戦をする。
休養明けのこの日は19層から攻略を開始した。19層はランクAとSが混在しているがランクSはまだ単体でしか出てこない。このフロアは洞窟、広場、洞窟、広場となっているが広場の奥には複数の洞窟が伸びていてその内正解は1つだけだ。あとは全て奥で行き止まりになっている。
ただ行き止まりには宝箱があるかも知れないとレインが言った言葉にニーナが食いついてそれなら全部の洞窟を探検しようということになった。洞窟にも魔獣がいるので鍛錬にもなるし宝箱があるかもしれない。
「そう簡単にはないよね」
広場から伸びている洞窟を調べながら奥に進んでいく5人。ランクAの複数体を倒して行き止まりの奥まで行ってみるも何もない。奥まで進んで何もなかったのを確認してからニーナが言った。
「下層にあるかもしれないな。宝箱を探しながらで時間はかかるが皆しっかりと鍛錬出来ているからいいんじゃないか?」
「そうそう。あれば儲け物。なくても鍛錬はできる。これで十分じゃん」
レインとミスティが行き止まりの洞窟を戻りながら話している。
「2人の言う通りだ。でも1つ位は有ってもいいよな」
前を歩くエマーソンがそう言った。
「まだ19層だ。下層に期待しようぜ」




