第70話 ギルドマスターの報告書
雪が解けたエイラートに戻った彼らは2日の休養日の後地元で活動を再開した。
森の奥に出向いてランクAの魔獣や獣人を相手にして金策とクエストをこなし、1日はダンジョンに潜ってスキルを上げる。
最初に挑戦したダンジョンはクリアして今はランクBとして別のダンジョンに挑戦中だった。
「やっと鍛錬が始まったな」
下に降りる階段の途中に各自が思い思いに座って水や携帯食料を食べている中、水をグイッと飲んだスコッチが言った。ようやく低層を超えて10層をクリアしたところだ。このダンジョンは10層からランクAが出てくる。
もちろん過去にクリアされているダンジョンで全部で20層からなるダンジョンだとはギルドで見た資料に書いてある。それによると10層から15層までがランクAが単体そして複数体出てくるらしい。フロアも洞窟から草原、そしてだだっぴろい空間とさまざまになっておりランクBの上位クラスには適当な鍛錬場所という位置付けだ。
参考までに16層からはAの中にSがチラホラと混じり出してそれが17層まで続き18層はランクSが単体、19層で複数体出てくることが確認されている。最終層の20層のボスはランクSよりは強くSSよりは弱いという評価だ。
レインが見つけてきたこのダンジョンでランクAを相手に鍛錬しようとメンバーが同意し、エイラートから徒歩で約3時間程の距離にあるこのダンジョンに通っている。
この日は11層の階段を降りたところでランクAを数体倒して地上に戻ってくると歩いてエイラートに戻ってきた。
彼らは冬の間にティベリアに武者修行に出かけていたが、春になると普段は外に住んでいる冒険者達の多くがここエイラートに武者修行にやってくる。
夕刻の混雑しているギルドの扉を開けて中に入った5人にこの街所属の冒険者達が声をかけ、それに答える5人。エマーソンがカウンターに行っている間に酒場のテーブルに座った4人にも声がかかってくる。
「何層までいった?」
「11層の攻略を始めたところだよ」
「ランクAか。やっと鍛錬ができるフロアに着いたってとこか」
「そうそう。今度から本格的に鍛錬開始だよ」
酒場に座っていた他の街からやってきている冒険者がレインらが座っているテーブルに顔を向けたままでこの街で知り合ったこの街所属の冒険者に声をかけた。声をかけてきたのは王都所属のランクAの冒険者だ。
「彼らBランクか?まだ若く見えるけど」
「ああ。全員がまだ20歳前だな」
「それでBランクかよ」
年齢を聞いてびっくりしている彼ら。
「去年の4月にDランクだったが半年ちょっとでBまで駆け上がってきている。エイラートで最も勢いのある連中さ」
「凄いじゃないかよ」
別のメンバーが声を出した。
「まぁ当然っちゃあ当然なんだよ。今テーブルに着いた戦士の男。あいつはここの領主の勇者の息子だ。そしてエルフの狩人、それだけでも凄いがあのローブを着ている双子の男女がいるだろう?彼らが大賢者と聖僧侶の双子の子供達だよ。ここの魔法学院卒なんだがな、学院時代からその能力が突き出ていて有名だったのさ。そうそう誤解のない様に言っておくがギルマスは彼らに全く忖度してないからな。完全に実力で上がってきている」
グレイとリズの子供がとてつもなく優秀だという話しはエイラートのみならずアル・アインの冒険者には伝わっている。魔法学院で3年間実技、座学の試験を全て満点で終え、エイラート魔法学院以来の秀才と言われていることを。
当の2人、いや5人全員が知らないが若手の有望所は所属している街に関わらずあっという間に広まっていくものだ。冒険者同士の情報交換は頻繁に行われており、強い奴らや有望な奴らの話しは広がるのが早い。
「王都に生きのいいのがいる」「ティベリアで面白そうな奴らがいる」
そういう話しが全国に伝わっていく中、エイラートの彼らについては
「エイラートにとんでもないパーティがいる。既に今から将来Sランクに行くんじゃないかと言われている」
という話しだ。
そしてその話しは冒険者達の間だけではなく王国内の各地にいるギルドマスターにも伝わっていた。ただこれは人伝の話しではなく。エイラートのギルドマスターのクロスビーが詳細なレポートを本部に上げていた。
曰く、ランクDでパーティを組んで3ヶ月でランクCに昇格、さらにそこから4ヶ月ちょっとでランクBに昇格していること。
ランクBの昇格決定後、ギルド恒例になっているランクAとの模擬戦にて現在エイラートでNo.1のパーティを相手に堂々と渡り合ったこと。さらに弓術と魔法についてはランクAクラスの連中が驚いていたことなど。
その後は5人のそれぞれについてのクロスビーのコメントが書かれている。
盾ジョブのスコッチは他の4人に比べて目立っていないが現時点でもランクAの下位クラスの実力がある。盾の使い方、片手剣の使い方はランクBのそれではない。
戦士のエマーソンは父親で元勇者の息子ではあるが剣は元騎士団に所属していた母親の影響を受けており、それを元に冒険者の剣筋を身につけている。現時点でランクAの中位クラスの実力は十分にある。
狩人のニーナ。エルフの村では村1、2の実力者であったという評価は妥当だ。20メートルでの的への命中率100%、30メートルで80%の命中率はランクAでもいない程のレベルである。
僧侶のレイン。グレイとリズの息子で聖僧侶のリズが鍛え込んだと言っていたがその通り。賢者のミスティもそうだが魔力量が非常に多く、また強化、回復魔法の効果及び詠唱時間も早い。現時点でランクAの上位に位置する。
賢者のミスティ。グレイが徹底的に鍛えたと言っているが今の時点で精霊魔法、回復魔法、強化魔法の全てがランクAの中位クラスにある。賢者というジョブの特性から現時点ではレインよりも回復、強化魔法の威力がやや落ちるがバランス的に見ると総合点でランクAの上位にいるのは間違いない。精霊魔法に関してはそれを見ていたランクAパーティの精霊士よりは自分より間違いなく上だというコメントが出ている。
彼らの装備、特にレインとミスティの装備はランクD時代に購入した魔力の流れが少し良くなる付帯効果のみが付与されているローブを着ており、杖も同様である。装備で威力や効果を上乗せしていない。これは私が自分の目で確認している。
最後に彼らの相手をしたエイラートNo.1パーティのリーダーのニコルソンよりは模擬戦終了後に彼らのランクをBではなく今すぐAに上げるべきだという発言が有ったことをここに記載しておく。個人的にはニコルソンの発言と同じ感想を持っている。
エイラート冒険者ギルド ギルドマスター クロスビー




