第69話 両親の凄さ
ゆっくり休んだ翌日、レインとミスティは朝の鍛錬を終え、朝食が済むと冒険者の格好に着替えて自宅の庭に出た。グレイとリズも冒険者の恰好だ。
「「よろしくお願いします」」
「うん。挨拶は大事だ」
頭を下げて挨拶をした2人の頭をガシガシと撫でるグレイ。
「じゃあここから飛ぶぞ。飛ぶ先はAランクが徘徊している森の奥だ」
「「わかりました」」
全員が固まってグレイが転送の魔法を唱えると一瞬目の前の景色がブラックアウトし、次に見えた光景は森の中だった。高い木々に囲まれている森の奥に飛んだ4人。
グレイとリズはその場に立っていてじっと2人を見ている。数秒後に
「ダメだな」
とグレイが言い、リズは悲しそうな顔をして
「ダメね」
と言った。
リズの悲しそうな顔を見て何がダメなのかわからない2人はお互いに顔を見合わせる。するとリズが強化魔法を4人にかけた。
それであっ!!と気が付いた2人。ダメ出しを食らって2人とも下を向く。
「お父さんは飛ぶ前に言ったぞ。今からAランクが徘徊している森の奥に飛ぶってな。飛んだ先はAランクのテリトリーだ飛んだすぐ近くにAランクがいる事だってある。いつも言っているだろう、町の外に出たらそこは魔獣が生息するエリアだ。気を抜いているとやられてしまう」
「先を読む力がまだまだね。こうしたら次はどうなるのか。目の前の事と少し先の事を同時に考えないと生きていけないわよ」
両親が言う通りだ。2人は無意識で森に飛んでそれから魔獣を探してと考えていたが飛んだ先の近くに魔獣がいないという保証は何もない。飛ぶ前からしっかりと準備をしていなかった自分達は最悪いきなり攻撃を受けていたかもしれない。両親がいるからと安心し切っていた自分たちのミスだ。
「失敗はいいんだ。2度しなければな」
「「わかりました」」
「じゃあ、やりましょうか」
リズの強化魔法を受けた4人は森の中を歩きだす。木々が密集していて見通しが悪い中を歩いているとすぐにグレイとリズが戦闘態勢になった。双子も慌ててそれに続く。
「左前方にランクAが1体いる」
それを聞いたレインがグレイ、リズ、ミスティの順に強化魔法をかける。
グレイがレインの頭をガシガシと撫でた。
「いいぞ、レイン。お母さんが強化魔法をかけていてもその上から自分の仕事をする。それでいいんだ」
「習慣付けてるのかな?今のは良かったわよ」
褒められてレインもニコニコだ。
「ミスティ、精霊魔法を撃っていいぞ」
ミスティには左前方と言われてもまだ何も見えないし気配も感じない。それでもゆっくり進んでいくと木の向こうにAランクのオークが徘徊しているのが目に入ってきた。
木々の間から出た瞬間にミスティが雷の精霊魔法をオークの顔にぶつける。大きく仰け反ったオークの顔にミスティの2発目の精霊魔法が命中してオークは頭を吹き飛ばされて絶命した。
すぐに周囲を警戒して倒したオークに近づくミスティ。その後ろからはレインも続いていて
「今なら大丈夫だ」
「わかった」
オークの胸を切り裂いて魔石を取り出すとすぐにその場から離れる。レインが浄化の魔法をかけてミスティの身体を綺麗にした。
「今のは良かったぞ、ミスティ。しっかりと顔の中心に当たっている。2発目も同じだ。
魔法を撃つタイミング、そして1発目と2発目をほぼ連続して撃っている。それでいいんだ。それからレインもよかった。ミスティのフォローをして周囲を警戒、浄化の魔法で匂いを消した。今の2人の動きは問題ないぞ」
2人とも褒められて表情が緩む。両親は叱る時は叱る、褒める時は褒めるとメリハリがあるし叱る時も褒める時もどうしてだとちゃんと理由を説明してくれる。
「ミスティ、魔法の威力が結構あるわね。きちんと鍛錬しているから魔力の流れも悪くないわよ。レインの神聖魔法もBランクにしたら悪くないわよ」
その後も2人でランクAを倒していくがこれはグレイとリズが魔獣を先に見つけてくれているからだとレインもミスティも理解している。両親の気配感知の範囲は自分達よりもずっと広くて強力だ。自分達ならもっと近づいてこないと気が付かない。というか気配感知ではなく視覚に入らないと敵が見えない。特に獣人じゃない魔獣になると気配を消す能力があるのだろう。全くと言っていいほどに気が付かない2人。ただグレイとリズはそれでも森の奥の気配を感じては精霊魔法で倒していった。
2人が見る父親の精霊魔法は今までに見たことが無いほどの威力でしかも1発で相手の急所に当てている。母親のリズもホーリーという聖僧侶の攻撃魔法であっさりと倒していた。
レインとミスティは両親の魔法の威力は当然ながらその気配感知の範囲の広さにもびっくりする。
気配感知があるとここまで楽なのか。父親のグレイと母親のリズは次々に魔物の気配を感じ取っては後ろを向いて2人に指示してくれる。当然自分達は全く気が付かない。
今は狩人のニーナの広域サーチのスキルがあるので皆それに頼り切っているが、それではいつまで経っても自身の気配感知能力はアップしない。これからは意識しようと心に決める。
午前中いっぱい森の奥で鍛錬をした4人はグレイの移動魔法でエイラート郊外に戻ってきた。そのまま城門をくぐって市内に入るとギルドの扉を開けて中に入っていく。
時間帯もあり暇そうにしていた受付嬢が2人とも立ち上がって4人を出迎えた。カウンターの上に魔石を取りだしたグレイはその魔石を2つに分けていく。
「こっちが子供達が倒した分、こっちは俺とリズの分だ。これ以外にワイルドベアの死体が3つあるがこれは解体場で出したらいいかな」
「お願いします」
魔石の精算をしている間、4人は解体場に降りていって地面に3体のAランクのワイルドベアの死体を置いた。
「こりゃグレイとリズが倒した奴だな。相変わらず綺麗に倒している。解体も楽だ」
「急いでないから、後で受付に買い取り金額を言っておいてくれるかい」
「お願いね」
魔石の代金を受け取った4人はそのまま市内のレストランで昼食を摂る。
その場でミスティが聞いた。
「お父さんとお母さんの気配感知の能力が凄いんだけどそれって鍛錬で伸びるものなの?」
「気配感知はスキルじゃないって知っているよな。これは経験で身につくものだ。特に同格、格上を探していると自然と感知の範囲が広がっていく。急に伸びる能力じゃないか地道にやるしかないな。でもこの気配感知が広くなると戦闘がぐっと楽になるぞ。地上でもダンジョンでも相手より先に見つけた方が圧倒的に有利だからな」
母親のリズはミスティの質問の意図が分かったのだろう。食事を止めて彼女を見る。
「貴方達のパーティには狩人さんがいるわね。狩人の広域サーチスキルはジョブのスキル。そしてかなり強力なスキルになってる。でもね、あれって狩人さんに掛かる負担が大きいの。長時間は使えないし長時間使うとそれだけで狩人さんは疲れ切ってしまって戦闘にならなくなる。だからお父さんが言った様に自分達も普段から意識して気配感知の能力を高めていた方が良いわよ」
「お母さん、狩人さんの広域サーチはスキル扱いだから僧侶の魔法でも回復できないってこと?」
リズはレインを見てその通りよと言った。
その後は森の奥での鍛錬の時の双子についてグレイとリズが話をする。
「レインはきちんと毎回強化魔法をかけていた。それが大事なんだ。基本を忘れていなかったからよかったぞ」
隣からリズもよかったわよとフォローが入る。
「ミスティはちゃんと狙って魔法を撃っている。これも凄く大事だ。ただ撃てば良いって訳じゃない。相手のどこを狙って撃つのか決めてから撃っている。これもよかった」
「じゃあ合格?」
「そうだな。最初の強化魔法のかけ忘れはあるがそれ以外は平均以上だろう。うん、合格にしてやろう」
「「やったー」」




