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一日一善。
東の果てにある国の古い言葉らしい。
面倒だと思いながら、自分は律儀にそれを守っていた。
何故守ろうと思ったのかはわからない。
もしかしたら、明日の自分に生きる理由を与える為かもしれないし、クズな自分の免罪符としているのかもしれない。
子供ができたらしい店主にちょっと多めにチップを渡してみたり、道端に落ちているゴミを拾ったり、道に迷った人に話しかけたり。
最近は人並みより少しできる魔法を使って自分が関わっていないように見せかけて善行を積むこともあった。
さて、建前を並べてみたものの、どうやら自分は困っている人を放っておけないらしい。
最近は面倒がる自分の重い腰をあげるために、この言葉を使っていた。
心のどこかにはどうしても承認欲求がつきまとうが、やらない善よりやる偽善だと、これまた東の国の言葉で自分を励ました。
どこまで行っても自分は寂しがり屋でクズでどうしようもない人間のようだ。
一抹の寂しさを感じ、ローブを纏い、雨の降る夜の街へと歩き出した。
感傷に浸りすぎたか、良くない傾向だ。
はは、と声にならない笑を浮かべ、ひと気のない路地を選んで歩く。
よく立ち寄る小さな森へと歩みを進めた。
ここは国管理の森で昼間は子供たちがよく遊んでいる。
元々手入れされておらず鬱蒼としていたが、近くを通るたびに風魔法の練習で落ち葉を掃いたり雑草を切って遊んだりしているうちに、子供が遊べるようなスペースができていた。
とはいえそれは晴れた昼間の話。
今は夜で雨が降っている。
丸太を切り倒して作った椅子にドサリと腰掛け、雨に打たれるままひと息ついた。
もういっそローブを脱いで直接雨に打たれようか、そう考えていた時だった。
「…にかならないのか?」
話し声が聞こえてきた。
この時間、この天気でだ。
恐らく遊びに出ていたどこか裕福な家の男達の帰り道だろう。
慌てて身を潜めるが、どうも話している内容が奇妙だった。