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のそのそと起き出すと、お湯を沸かし、パンを食む。
食事はもはや義務的なものになっていて、味を感じない。
今日は一食でいいだろうか。
沸かしたお湯に野菜クズと塩を放り込み、簡易的なスープにして飲む。
生命活動が面倒だ。
冬眠というものを人間ができるのであれば自分はきっと全ての季節眠り込むだろう。
だが、どうしたら生命活動に影響なく人間が冬眠できるかは、どうしてもわからなかった。
そんなことを考えながらさっと体を清め、鏡を見る。冴えない顔がそこには映っていた。
家に籠もりたいところだが、残念ながら以前買い込んだ食料品が尽きてしまったので買いに出かける必要がある。
ちらりと窓から外を見ると今にも雨が降り出しそうだった。
これはいけないとローブに水を通しにくくするよう魔力を纏わせて被り、外へ飛び出す。
市場のある通りへ早足で向かうと、ぽつりぽつりと雨が降り始めたところだった。
ああ、面倒だ。
しかし、市場は店仕舞のために商品を安くするだろう。少し多めに買い込むことを心に決め、足を早めた。
市場に着くと、売れ残りで安くなっているものをどんどん買い込んでいく。
手持ちの大きな袋はあっという間にパンパンになった。こうなると両腕で袋を抱えた方がいいくらいだろう。
「お、久しぶりに見たなアンタ。ちょうど店仕舞いのところなんだ。安くしとくから魚買っていかないか?」
ふと声をかけられて店先を見る。小さな魚が袋でひとつと、立派な魚が一尾、売れ残っていた。
「…いただこう。」
久しぶりに人と会話したことで掠れた声しか出せなかったが、かまわないだろう。
「小さいのは焼いても干してもいけるし大きいのは煮てもうまいぞ。」
「ありがとう、そうしよう。」
「まいどあり!」
雨が本格的に降り出してきたので、目深にローブを被り、荷物をお腹に抱えるように歩きだした。
何故か長雨になる予感がしていた。
教会前の広場に差し掛かった時、教会の入り口で誰かが話しているのをみつけた。
雨宿りの人かと思いローブを貸そうと近づくと教会で働く人達だった。
「この雨では買い出しに行けませんね」
「野菜はたくさんありますから、子供たちにせめて肉か魚を」
そんな会話が聞こえてくる。
少し考えた後、よし、と気合を入れてその人達へ近付く。
「こんばんは、よろしかったら魚を貰っていただけませんでしょうか。一人暮らしにもかかわらずなまものを買いすぎてしまいまして。」
キョトンとする2人に追い討ちをかけた。
「お二人の話が聞こえてしまって。はしたないことをしてしまい申し訳ありません。」
そっと魚入りの袋を差し出すと、おずおずと受け取ってくれた。
「市場の魚屋が言うには、焼いても干しても美味しいとのことですので、皆さんの良いようにつかってください。」
「え、ええ。ありがとうございます。本当に、よろしいので?」
「もちろん。魚屋の店主が商売上手でいつも買いすぎてしまうのです。食材を悪くしてしまうのは神も店主も望んでいないでしょうから。」
このまま会話を続けても長引くだけだと思い「では、良い夜を。」とだけ残し、さっと雨の中に飛び出した。
「ありがとうございます!」
後ろから聞こえてくる声に少しだけ安堵した。