第七話
[だから。ティア様に寄り添う役目を、僕にください]
[……うん。お願い、オスク]
ティア様の頬を伝う涙を指先で拭うと、ティア様は可愛らしい笑顔を見せてくれる。
[そ、その、私の話……]
[はい。聞かせてください]
[……うん]
ティア様が語った話は、正直夢のような話だった。前世の「乙女ゲーム」の世界に転生したなんて。
でも、ティア様はそんなくだらない嘘をつくような人じゃない。それに、演技だったとしたら、僕なんか見向きもしないはずだ。
[……信じられないよね、こんな話]
[いえ、そんなことはありませんよ。ただ…難しい話では、ありますね]
要は、その「断罪」とやらからティア様を守ればいい。
そのためには、ティア様が「ヒロイン」に関わらなければいいわけで。
でもそれは、ほぼ不可能だろう。聞く限り、兄弟や婚約者、カイ様までがその「攻略対象」らしいし。
[……いっそ、誰かに協力を仰いでみるのはどうでしょう]
[だ、誰かって……?]
[口が固くて、頭が回って、力のある者がいいです。……できることなら、僕がお供できればいいのですけれど]
この首輪があるかぎり、部屋から出ることもできない。
[あ、それ……この鍵で、取れたりしないかな?]
[え……]
ティア様が右手首を差し出す。青いブレスレットに、金色の小さな鍵が付いていた。
[し、失礼しますね]
そっとブレスレットを拝借し、首輪の横にある鍵穴に差し込む。
カチャリ、と音がして、首輪が外れる。
[こ、こんな簡単に……]
[よかった……。これで、カイザーも解放してあげられるかしら]
ティア様は、そう微笑んだ。
[僕達を連れ歩いてもよろしいのですか?]
[うん。カイザーは一旦預かって、お兄様に相談してみる。オスクは、私にずっと着いてきてくれるでしょう?]
ティア様は僕と手を繋いだまま、ご機嫌良く歩いていく。
カイ様も、足取りは重たいがちゃんと着いてきていた。
[あれ、お姉ちゃん?]
少し歩くと。通りかかった部屋から、ひょこっとエレノア様が顔を出した。
久々に見たが、エレノア様もティア様に似ている。腹違いだということを証明するように、瞳の色だけは違うが。
[あ、ノア!ちょうどよかった!]
[っ、ティア様……]
するりと手が抜けたと思うと、ティア様はエレノア様のもとに駆け寄って行ってしまう。
[あの、カイザー…この人達のことを相談したいんだけど、どうしたらいいかな]
ティア様は、エレノア様には少し心を許しているようだ。年下が好きなんだろうか。
[この人達…?……ああ、なるほど。今のお姉ちゃんには不要なんだね]
[……今の、ってどういう意味?]
[なんでもないよ。……そうだ、お姉ちゃんのことを陛下が探してたからさ、その人達は僕に預けて行っておいで]
[陛下…って、国王様?私達の、お父様……]
エレノア様は、幼い顔立ちに似つかわしくない不敵な笑みで頷いた。