第六話
[ティア様。私を頼ってはいただけませんか?これでも元公爵家の息子、それなりの教養はあります。ティア様のお役に立てることでしょう]
[ほ、本当……?]
実は私、とても不安だった。
こんな、夢か現実かもわからない世界で、王女で。あんなに優しく、私を心配してくれた人達まで信用できないなんて言われたら、もう何を信じていいのかわからない。
[……あなたを、信じてもいいの……?]
[はい。僕が、あなたを幸せにしてみせます]
跪いて、プロポーズのような言葉と共に手の甲にキスをして。
[……でも、ごめんなさい。私……]
[大丈夫です。ティア様がどう思おうとも、僕はずっと傍にいますから]
オスクは私の手に自分の頬を擦り寄せる。それは赤ちゃんが母親に甘えるような、盲目的な愛情だ。
それが、とても魅力的で。
[……ティア様?]
優しく握られていた手を引き抜くと、オスクは戸惑ったように瞳を揺らす。
私は膝を落とし、オスクに抱き着く。オスクが息を飲んだのがわかった。
───彼になら、話してもいいかと思って。
[オスク。……私の秘密…聞いてくれる?]
ティア様はそのまま、僕にすがるように抱き着いたままでいた。
落ち着くと、僕に謝ってゆっくり離れる。といっても、僕の服を握ったままなのが幼子のようで愛らしい。
手を繋いで、奥の部屋に案内する。小さい風呂などがある場所で、狭い場所だが、二人になれる唯一の場所。
…今のカイ様なら、聞かれても問題はないのかもしれないが。これは僕の独占欲の問題かもしれない。
いつもティア様がカイ様を可愛がるときに、カイ様を座らせていた椅子。おそらくこれがこの部屋で一番綺麗なので、ティア様をそこに座らせた。
[お、オスク……?]
戸惑うティア様の前に跪く。失礼かとも思ったが、その膝の上に顔を乗せた。
[ティア様の話、聞かせてください]
狼狽えるティア様の手を自分の頭に置くと、おずおずと撫でてくれた。優しい手付きは、憧れていたものと同じだ。
[どうして……そこまで、私のことを……?]
[……わかりません。でも、僕はカイ様に憧れていました。ティア様に可愛がってもらえるから。……僕はカイ様の世話係として置いてもらっていたにすぎません。カイ様のおまけの僕が、こうしてティア様に可愛がってもらえることが、今は何より幸せです]
帝国人特有の薄黒い肌を気味悪く思わず、優しく触れてくださった人はティア様だけだった。
公爵の唯一の子供、私生児だった僕はずっと虐げられてきた。愛されることに憧れ、満たされているカイ様を羨んでいた。
だから、カイ様がティア様に溺愛されるのを見て腸が煮えくり返る思いだった。どうして、カイ様ばかりティア様の無償の愛を手に入れられるのかと。
でも、どれだけ尻尾を振り媚び売っても無駄だった。ティア様はカイ様にしか興味がなかった。