第四話
[失礼しま……ん?]
部屋に入って呆ける。
ノアは、私以外はこの部屋に近付かないと、確かに言っていた。
なのに。
部屋の中にいたのは、二人の男性だった。
[ティア様!]
一人の男性──薄暗い肌に黒髪黒目、黒い服と、全身黒いような男性は、私に駆け寄ってくると思い切り抱き付いてきた。
それはまるで、飼い主を待ち焦がれた甘えん坊の犬のように。
[四日も会いに来てくれないなんて初めてだったから、捨てられたんだと思いましたよ]
[え、ええっと……?]
状況が読めない。ペットっていうのは、まさかこの人達のこと?
[…ティア様?]
[……ごめんなさい。私、記憶喪失なの。だから、私達の関係とか諸々、一から説明してくれる?]
ぽかーん。まさしくそう表せる彼の表情が、不思議ととても愛らしく感じられた。
[───と、いうことで。奴隷だった僕達を、姫様が引き取ってくださったんです]
と、満足げに語り終えた男性──オスク。
もう一人の赤髪赤目の男性の名前はカイザーというらしい。
……カイザーって、攻略対象の一人じゃない。
だがまあ、それはひとまず置いておき。
オスクが教えてくれた過去──私達の出会いは、なかなかに壮絶なものだった。
二年前、シャルティアの婚約者の父親でもあるクラネル公爵が、大規模な奴隷売買組織を検挙したそう。
その際、奴隷のほとんどは解放されたのだが、オスクとカイザーだけは事情が違った。
五年前。我がアルーファ王国とネオカルニア帝国で大きな戦争があった。
原因は帝国で数年の間作物不良が続き、治安が悪化し、国が立ち行かなくなったこと。
長年隣国との争い事が絶えなかった帝国と、アルーファ王族のお人好しかつ人に好かれる気質によって友好国を増やし続けている我が国とでは多勢に無勢。
敗戦国となったネオカルニア帝国はアルーファ王国の領地となり、王は斬首刑、王族や貴族は捕虜としたまま王国に滞在したままとなった。
だが、帝国の元侯爵が逃亡事件を起こし捕らえられた。
侯爵は斬首刑、責任を取って他の貴族達は野に放り出された。
そして、不運にも王子と公爵令息が、奴隷組織に捕まったのだ。
話は最初に戻り、検挙の際。
元王子のカイザーと元公爵令息のオスク。この二人の扱いをどうしようかと、問題になったのだ。
そこで、私。当時十三歳だったシャルティア王女が、二人に一目惚れしたことにより、二人は王女の「ペット」となった。