第三話
[まあいい…落ち着くまで休んでいろ]
[ですね。…あ、そうですお姉様、「ペット」のところに行ってみたらどうですか?何か思い出すかも]
[ペット?]
エレノアの提案に首を傾げると、エドワードが苦々しい表情で言う。
[ノア、今のティアは純粋そうな様子だし、「あれ」はいらないんじゃないか]
[でも、お姉様、とっても可愛がってたじゃないですか]
ペット…猫とか犬とかかな?それともうさぎとか?
[僕が案内しますよ、お姉様!]
[あ、ああ、うん。お願いね]
元教え子のような少年の可愛い笑顔に、私はあっさり頷いた。
隣では、エドワードが呆れたように嘆息していた。
[お姉様、こっちです]
[うん、ありがとう。……えっと、エレノア君]
手を引いて案内してくれるエレノアに癒されながら、「ペット」のいる部屋へ向かう。
[ノアでいいですよ、お姉様。…僕のこと、忘れちゃったのは残念ですけど、もう一度仲良くなればいいんですもんね]
えへへ、と少し寂しそうに笑うエレノアに、私は庇護欲が掻き立てられて言う。
[そうね。記憶がなくても、ノアのお姉ちゃんってことに変わりはないんだから]
[……お姉ちゃん]
[ん、なあに?]
足を止めたエレノアが、ぽかんと私を見つめる。
[お姉ちゃん、って。呼んでも、いいんですか…?]
[…?うん、もちろん。お姉ちゃんだもの]
もしかして、王族は家族でも「様」付けするのが普通なんだろうか。
でも、こんなに可愛いエレノアに「お姉ちゃん」と笑顔を向けてもらえるほどの喜びは、たぶんない。
そして、腹黒設定のあるエレノアでも、幼少の頃からそんなはずはない、と思いたい。でも、あの笑顔を見る限りそうだろうと思う。
[…えへへ、お姉ちゃん、大好きです。あ、ここです。着きましたよ]
聞き逃せない言葉があったが、私は意識をエレノアが指差した部屋に向ける。
[僕が案内できるのはここまでなんです。お姉さ…お姉ちゃんが、あの部屋に自分以外近付いちゃだめって言ってたので]
[そうなの…。ありがとう、ノア]
[えへへ。またね、お姉ちゃん]
[うん、またね、ノア]
最後のやり取り、普通の姉弟っぽかったんじゃないだろうか。