第十九話
僕はリート。リート・カフ・ビース。ビース伯爵家の次男だ。
現在十四歳。シュタンとは十歳離れているけれど、シュタンのお母さんがうちの屋敷で働いていたことや、シュタンと長兄が同い年なこともあり、今も仲良しな幼馴染みである。
僕はいつも通り、シュタンの手伝いに図書館に来ていたんだけど…。
[よし、今日中に終わらせるわよ!]
[はい!]
と、ウキウキと言ってオスクと作業を始めているのは、この国の王女、シャルティア様。
姫様は男性服のような白ブラウスと黒のパンツスタイルの装いに、長い金髪を結っている。
動きやすそうではあるけれど、そんな格好、低位貴族の令嬢でもしないよ…!?最近の姫様は本の趣味とかも変わってるし、どうしちゃったんだろう。
[リート、どうしたのぉ?]
[い、いや、なんでもない……]
逆に、シュタンが驚きもしていないのが不思議だ。
でも、今はとにかく働かないと。
だがその前に、のそのそと動く姿が見えた。そいつが抱えている本と、そいつがいる本棚を見て言う。
[えっと…カイザー、だっけ?その本はもう一つ奥の本棚だよ]
[………はい]
それに、姫様と同じくらいこいつのことも気になる。
元王子だとかの噂は聞いたことあるけど、手際が悪すぎる。それに指示してもいちいち不満げ。「どうして俺がこんなことを」みたいな感情が駄々漏れだ。
[……オスク、カイザーの補助をしてあげて]
[え?でも、ティア様……]
[私は大丈夫よ。ほら、お願い]
姫様がオスクにこっそりと言うのが見えた。そういえば、オスクも帝国で高位貴族だったらしいけど、カイザーとは真逆に手際がいい。
オスクは最近、姫様の本を借りに来たりして、シュタンと少し親しくなったようだ。シュタンは人当たりはいいけど本にしか興味がないので、おそらく帝国にしかなかった本の話でもしたんだろう。
(帝国人って、よくわかんないやつばっかりだな……)
[あ、待って、そこ危ない!]
[え──わ、ああ!?]
よそ見しながら歩いていたからか、姫様の焦ったような声と共に、何か──本の山に、躓いた。
しかも、その上に積んであった本が、僕の方に倒れてきて───。
[リート!]
珍しいシュタンの焦ったような声。そして僕は、突き飛ばれるようにして横に転がった。
[ティア様!]
視界の端に映った金髪と、オスクの悲痛な声。
打ち付けて痛む体を起こし、見えたのは───姫様を覆い込むように本が崩れていくところだった。