第十八話
シュタンは現在二十四歳。そして勤務歴十年。彼は特別厳しい王立図書館の司書試験を弱冠十四歳で満点合格した。
司書試験には主に本に関することが出題される。それは伝説の歴史書の内容だったり、マニアックかつ記憶力が必要な問題ばかりなのだが、いわゆる″本の虫″であるシュタンはその本好きさと天才的な記憶力で難無くクリアした。
(そして、シュタンとセットで現れるのが……)
[シュタン、これ二人じゃ終わんないよ……って、姫様?]
本棚の端から顔を出した、青髪の少年。
分厚い本を持ち上げてみせた彼は私に気付き、慌ててぺこりと頭を下げた。
[あぁ、本当だぁ。姫様ですねぇ]
[「姫様ですね」じゃなくて!シュタンも頭下げて!]
ほわわんと微笑んだシュタンに飛び掛かるように、少年が頭を下げさせる。
[すみません、この人鈍臭くて……]
[だ、大丈夫よ。楽にして]
頭を下向きに押さえられているシュタンの背骨が危なそうなので慌てて言う。すると、シュタンは変わらず穏やかな口調で言う。
[姫様が直接いらっしゃるのは初めてじゃないですかぁ?]
[あ……そう、ね。たまには自分で選びたくて]
[ご、ご案内します!]
少年──リートが、緊張した面持ちでそう言った。
[ううん、大丈夫よ。なにかしていたんでしょう?]
[あ、はい。本の整理と処分をしてたんですけど……]
リートがちらっと視線をやった方を見れば、そこには本が山のように積まれていた。何百冊あるのか、という量だ。
[大変そうね。二人しかいないの?]
[これから来てくれる予定なんですけど……それでも、今日中に終わるかどうか]
はあ、とリートは溜め息を吐いた。逆に、シュタンは本を抱き締めニコニコ笑っている。
[そうなの……。私でよければ、少し手伝いましょうか?]
[えっ!?そそそそんなっおおお恐れ多いですっ]
[わあ。助かりますねぇ。ありがとうございますぅ]
ブンブンと首を横に振るあまり壊れたスピーカーのようになるリートと、変わらず穏やかなシュタン。
[……ティア様?]
[あら、オスク。カイザーも、どうしたの?]
[カイ様の今日の仕事が図書館の手伝いだというので、手伝おうと……]
言いつつ私の傍に来るオスクと、その後ろで突っ立っているカイザー。肌色で少し見えずらいが、目元のクマが薄くなっている。不眠症も良くなったのかもしれない。
[オスクがやるなら私も、いいわよね]
[そ、そんな…姫様に…でも、姫様の意思を……]
リートは相変わらず悩んでいる。代わりに、シュタンに目配せすると、彼は頷いて言う。
[姫様が善意、ありがたく受け取りますねぇ]
[うん。あ、そうとなれば着替えてこなくっちゃね]
[僕達は先にやってますねぇ]
シュタンは流石、年長者なだけある。言うと、リートとカイザーに指示を出し始めた。