第十七話
[セドリック?ここにいたのか、探したぞ]
[あ、で、殿下……]
[お兄様?ノアも、どうしたんですか?]
オスクが淹れてくれたコーヒーをセドリックが飲んで舌を火傷したとき、エドワードとエレノアが顔を出した。
[何やってるの?]
[ひゅ、ひゅいまひぇん……]
不思議そうなエレノアに訊かれ、(火傷を冷やすため)氷を口に含んだセドリックが赤面しながら横にはけた。
[セドリックはたぶんお見舞いに来てくれたんですけど、お二人はどうしたんですか?]
[カイザーの処遇が決まった。それを伝えに来たんだ]
[それと、お姉ちゃんの顔も見にね]
私の左側にはオスクがいるので、右側にエレノアが駆け寄ってくる。膝を付いて座り、にこにこ笑顔で「撫でて」とねだる。
オスクとはまた違う愛らしさに、私は母性を表情に溢れさせながらエレノアの頭を撫でた。
そしてそれに対抗するように、オスクが私の手をより強く握る。
(私の両隣の子達は、どうしてこんなに可愛いの……!)
[……セドリック、ノアはあんなに子供っぽかったか?]
[さあ……?]
眉間に浅く皺を寄せたエドワードが、復活したセドリックにそう尋ねた。
[あ、そうよ、カイザーのこと聞かないと。どうなったんですか?]
[ああ、王城の使用人にすることになった。そこの男は……]
[オスクには、私のところで働いてもらうことにしました]
[…そうか。うむ、ならいい。困ったことがあれば相談しなさい]
エドワードはそう言うと、セドリックを連れて戻ってしまった。
[じゃあ、僕も戻るね、お姉ちゃん]
[うん。じゃあね、ノア]
三人が部屋から出たのを見ると、オスクが私の前に来て、足元に座る。
[ティア様、僕はカイ様の様子を見て来ます]
[そう。じゃあ私は……図書館にでも、行こうかしら]
部屋にあった本もほとんど読み終わってしまっていたし。
[では、失礼します]
[うん、ありがとう。ゆっくりしてきていいからね]
図書館まで本を運んでくれたオスクと別れ、私は図書館の中を歩き出す。
王立図書館。王城の一角にあるその図書館には世界各国の本が取り揃えられ、その数なんと数百万冊といわれている。
貴族や王城で働く役人でも一部の者しか入ることの許されないこの図書館でも、攻略対象者との出会いがある。
[本をお探しですか?]
[え、あ、うん]
突然話し掛けてきた男性。焦げ茶色の髪と瞳、特徴的な丸メガネ。
シュタン・ル・リリオ。リリオ男爵家三男で、この図書館の司書。
そう、攻略対象者である。