第十四話
[そういえば、何を読んでいたのですか?]
[この国の歴史書だよ。こっちは地理の本で、こっちは……]
ベッドの上に座り向かい合う形になった私にオスクが訊くので、私は横に積まれた本をひとつひとつ指差して説明する。
[いつまでも仕事を任せちゃいけないし、シャルティアの記憶も少しずつ戻ってくるはずだから]
[前のティア様の記憶、ですか……?]
[うん。でも安心して。私が混ざったからには、もう「冷酷」なんて呼ばれない、立派なお姫様になるから]
これでも前世では、子供達に一番人気の先生だった。仕事もきちんとこなしていたし、同僚達にも頼られていた自信がある。
(だからって、国の運営に関わる仕事なんてできそうにないけど……)
シャルティアは我が儘なだけだと思っていたけど、それも大量の仕事をこなしたうえでの行いだったんだな……。いや、それでも意地悪はよくないけど。
[……僕にも、頼ってくださいね。これでもちゃんとした教育は受けていますから、できることはありますよ]
オスクが、自分の胸を叩いて言う。
″頼もしい″というより″可愛い″のだが、私──シャルティアの愛する「ペット」に変わりはないので、彼の仕事は私を癒すこと。
それならば、十分役目を果たしていると言っていいだろう。
[オスク、もう一回……おいで]
[はい!]
私が彼を求めれば、彼は笑顔で抱き着いてくる。
年上の男性を可愛がるなんて、前世じゃ考えられないことだ。そういうところには、『シャルティア』の影響があるのだろう。
[……ティア様は、可愛がられることは望まないのですか?]
[え?]
[前のティア様は、カイ様を可愛がることしかされませんでしたし、国王様はあまり好いておられませんでした]
……シャルティアは、「S」っ気のある思春期女子だったのかしら。
十五歳なら、父親を嫌い、自らの性癖に気付いてもおかしくない年齢だけど。
……それで、年上の男性を可愛がっていた?
[……最近の若い子って、すごいわぁ]
[え?]
[なんでもないわ]
まあ確かにオスクは可愛いし、シャルティアも、カイザーに対してこういう感情を抱いていたんだろう。
[でも、うん……オスクも、いつまでもこの部屋にいてもらうわけにもいかないしなぁ……]
私のペットや愛人としてこのまま置いておくのもできなくはないが、色々なところに反感を買いそうな気がする。やはり王城に住むからには、それなりの仕事をしてもらわないと。
[じゃあ……私専属の、執事なんてどう?]
[い、いいんですか?]
働かなくても食べていける環境にいるのに、オスクは私の提案に喜ぶような表情をした。
[お、オスクがいいなら……それで、決めちゃうわよ?]
[はい!頑張ります!]
……うん。元気でよろしい。