第十三話
目を覚ますと、そこはティア様のベッドの上だった。
[あら、起きたの。オスク]
[ティア様……?]
僕の隣で横になり、本を読んでいたティア様が、目を覚ました僕に気付いて微笑む。
[ごめんね。ノアに酷いことされたかもしれないけど、もう大丈夫よ。カイザーは私を嫌がってたから、ノアに預かってもらってるけど]
カイ様の選択によっては、一生投獄されるか、王城や貴族邸で働くことになるだろう、ということだ。
[……オスクも、私のことが嫌だったら出て行ってもいいのよ]
[そんなはずありません!]
今のティア様は自信がない。前のティア様なら「私の決定が絶対」だったのに。いや、それも可愛いけれども。
それに、勝手に触れても怒らない。
[……どうしたの?]
その手に触れると、不思議そうに首を傾げた。
辛抱堪らず、その体を抱き締める。五つ年下の少女の体はとても小さく感じる。
[……ティア様は、ドレスよりもこういう服の方が似合いますよ]
抱き締めて気付いたが、ティア様は着替えていたようだ。豪奢なドレスから、部屋着のような空色のワンピースに替わっている。
ティア様はスタイルが良いので、無駄に締めたドレスを着なくても細く見える。
それに、赤よりも、ティア様の瞳と同じ空色の服の方が似合っている。
[もう、オスクはスキンシップが多いわね。子犬みたい]
[……迷惑、でしたか?]
[そんなことないわよ。とっても可愛い]
そう言ってティア様は僕の頭を撫でる。
ティア様は、甘い。甘い、甘い、砂糖みたいだ。それを分けられて、僕も甘い甘い、砂糖になってしまう気分。
───それを溶かして、混ざり合って、一緒になってしまえたらいいのに。
ぎゅう、ぎゅう、と。オスクは私を逃がさんとばかりに強く抱き締めてくる。痛いくらいだ。
でも、その痛みが心地良い。安心する体温と、愛情を感じる。
[ティア様。ずっと、一緒にいてくれますか?]
[……うん。オスクこそ、離れないでね?]
[僕がティア様から離れることなんてありません。───愛していますから]
オスクはそう、私に囁いた。
オスクは薬だ。摂取すると心が楽になる薬。中毒になってしまえば、離れられなくなってしまう。
───それでもいいと、思ってしまうのは、もう手遅れかもしれないけれど。