第十二話
[どうしてですか?もういらないのではないのですか]
[い、いらないだなんて……だとしても、こんな扱い酷すぎるわ]
慌てて檻に駆け寄り、呼び掛けてみる。二人は気絶しているのか、お互いにもたれるような形になっていた。
[……元々、こいつらは処刑されても文句言えない立場なんですよ。それを、お姉ちゃん…お姉様が、一時的に引き取っただけ]
[違う!一時的じゃないわ!…シャルティアが、飽きたら捨てるっていう性格をしてるのは知ってる。でも…なら、一生飽きないものは一生私のものでしょう]
[……ずいぶんと、他人事のような言い方をされるんですね。お姉様のものだというなら、お姉様が責任持って守らないと]
エレノアが私に向けて何か放る。キラリと光る小さなそれを慌てて受け止めると、それは鍵だった。
[こ、これって……!]
パアア、とお姉ちゃんの顔が明るくなる。
記憶を失って僕好みになったお姉ちゃんが、礼儀を弁えない奴隷ごときに肩入れするのは見ていて腹が立つが、それで嫌われては本末転倒なので。
[ごめんね、お姉ちゃん。僕、お姉ちゃんがこの人達に利用されるんじゃないかと心配で……]
今のお姉ちゃんはか弱い者──というよりは、子供に弱いように思える。「お姉ちゃん想いの純粋な弟」を演じれば、騙すのは容易い。
[……ううん、いいのよ、ノア。私のためにやってくれたことなのに、怒ってごめんね]
お姉ちゃんは僕の頭を撫で、微笑んで言う。
[えへへ、お姉ちゃん大好き。……もういいよ。その鍵で、その檻も開けられるから]
[そうなの?よかった!]
お姉ちゃんは、僕がさらっと敬語をやめていることにも気付いていないのだろうか。それら全てわかっているうえでこの振る舞いをしているなら、相当──陛下くらい、性格悪いぞ。
まあお姉ちゃんは陛下に可愛がられてるし、それも知らないんだろうが。というか覚えてないよね。
[……そういえば、お姉ちゃんは好みも変わったの?]
[え?]
黒髪の男の方を先に抱き起こす様子を見て、違和感を覚える。お姉ちゃんは、赤髪の男の方を気に入っていたはずだ。見た目が好みだとかで。
[あ……うん。そうみたいね]
[……?]
お姉ちゃんはなんだか、意味ありげに戸惑い、頷いた。
″お姉ちゃんは、好みも変わったの?″
シャルティアの好みはきっとカイザーのような容姿なんだろう。だが私は、口も聞いてくれないカイザーより、笑顔で駆け寄ってきてくれるオスクの方がよっぽどいい。