第十一話
やはり怖いのか。安心させたくて、彼の頬を撫でる。
[大丈夫ですよ。ひどいことなんてしません。──もっと自分を誇って、魅せてください。せっかく、そんな綺麗な瞳を持ってるんだから]
やんわり手に力を込めて、両手で彼の手を目から離す。
───彼の瞳は、少し潤んだ赤い瞳。知っていた通りの、真っ赤な綺麗な瞳だった。
[……姫様は、こんなに綺麗な人だったんですね]
[そうでしょう。この世界には綺麗なものがいっぱいありますから]
たとえば花。たとえば光。たとえば人。
(ああ、私──ヒロインの役目、奪っちゃったかも)
まあ、いっか。ギルバートルートの「断罪」は避けられたってことで。
ギルバートの美しい素顔。それが見られたのが今はとにかく、嬉しいから。
[ではまた、お会いしましょうね]
[…………]
庭園の外で待機していた公爵家の馬車。御者さんは既に入り口を開けているのに、なかなか乗らない主人に首を傾げている。
[……離れがたいです]
[そ、そうですか?……ギル様]
私は「おうち帰りたくない」と駄々を捏ねる子を思い出し、クスッと笑ってギルバートの髪を撫でる。
もちろんそのままでは届かないので、私は背伸びをし、ギルバートは少しかがんでくれた。
[また会えますから。ね、婚約者ですもの]
[……はい]
ギルバートは尻尾を下げて(幻覚)、とぼとぼと馬車に乗り込んだ。
(そうだ、オスクを迎えに行かなきゃ)
ギルバートを送り、私はそう思い出した。いつまでもエレノアに任せるわけにはいかない。
───シャルティアはなんだかんだで王女の仕事はしていたらしく、その仕事は現在エドワードやエレノアが代わってくれている。
シャルティアの記憶が少しずつでも戻ってくれれば、自分でできることも増えるだろう。
それこそ、奴隷であるオスクを傍に置くことも。
婚約者がいるなか、男を侍らすなんて人聞きが悪いのはわかっているのだが、攻略対象者でないうえ、シャルティアに心酔しているオスクは信用できる。
[第二王子殿下はあちらの部屋にいらっしゃいます]
[うん、ありがとう]
廊下にいたメイドさんに案内してもらい、エレノアがいるという部屋に行く。
ノックをすると、「どうぞ」とエレノアの声が返ってきた。
[失礼します]
[あ、お姉ちゃん、もう用事は終わった?]
[うん。ノアも、オスク達は……]
と、尋ねかけて絶句した。
──オスクとカイザーは手枷をされ、檻に入れられていたのだ。
[な……どうして、こんなこと……ノア!二人を出して!]