第十話
ルビーのようにキラキラした赤い瞳。
ただ、身体に『赤』を持って生まれるのは不吉だと古来から云われている。だから、ギルバートの両親はそれを隠したのだ。
ギルバートは次男だったこともあり、あまり可愛がられずに育った。ギルバートが瞳を隠さずいた時には、お仕置きとして三日間食事も与えず部屋に閉じ込めたとか。
だが、そんな事情知ったこっちゃない王女様は、その目元の布を無理矢理取り、そのうえで「不気味」だと罵った。
この過去はギルバートのトラウマとなり、それを受け止めて癒すヒロインが攻略する鍵となる。
[えっと、なんというか……す、少し記憶が戻ってきてるのかなー。お兄様の名前とか、覚えていることもあって]
[そ……そう、なんですか。それは……]
ギルバートは戸惑うように手で髪を弄くる。女の子のような仕草に微笑ましくなる。
[もう一度見たいです、あの真っ赤な瞳……本当に、感動して]
本当に、『愛の行方』のスチルを描いた人は神絵師さんだった。あんな素敵な絵を描けるなんて、羨ましい。
[────]
[なんなら、二人っきりの時はその布も外していいですよ。こんな綺麗な世界、見なきゃもったいないでしょう?]
といっても、産まれてからずっと見えていない状態だったのだから、逆に眩しすぎてだめになる可能性もあるが、そのうち慣れる。
[……本当に、よろしいのですか?私は……]
[いいんです!むしろ見たいんです!]
強情だ、この人……いや、それだけトラウマが大きく根付いてしまっている証拠か。
[あ、じゃあ……]
私が案内したのは、庭園の生け垣の中にある小さなスペース。
エレノアルートで、エレノアとヒロインが逢い引きに利用していた場所だ。
[……ち、近くないですか?]
[……ですね]
エレノアとヒロインは小柄なうえべったりとくっついていたため気付かなかったが、このスペース、なかなか狭い。
保育所の庭にあった、子供達の遊び道具の土管くらいの広さだ。
しかもギルバートの背は百七十センチを越えている。シャルティアの身体は小さいので、背を丸めたギルバートの腹の間に私が入るような形。
まあでも好都合だ。私はギルバートの顔が見やすいように位置を調整する。
[いいですか?取っても]
[……はい]
頭の後ろで結ばれた布の結び目に手をのばすと、ギルバートの口元が強張る。固く縛られた結び目に少し苦戦する。
[あ……あの、姫様……]
[うひぇっ、しゃ、喋らないでください……]
首にギルバートの息がかかって、くすぐったい。
[……あ、取れた]
[───!]
体勢を戻すと、ギルバートは目を手で覆ってしまっていた。
[ここは日陰ですし、そんなに眩しくないですよ?]
[そ、そういうことではなく……]
やっぱり強情だ。