夏休みだからってやっちゃいけないこともあるがそれがそうとわかるかは別だしあまつさえそれをやってしまうような人間には判断などつくはずもない
何はともあれ、それが俺のおおよそ予測しうる範疇を大いに飛び越えて起きたことだけは確かである。何故このようなことをしたのか尋ねたところで原因であろう奴が答えるはずもなく、それは仮に物理的な力を用いた詰問であってもただ微笑をもって返されることになると予想はできた。というか実際そうだった。
日が昇ってから間もない頃のことだ。このボロアパートのチャイムは破滅的な音を轟かせ、それと同時に既に玄関まで上がりこんでいた不埒者はゾロゾロと仲間を引き連れて俺の部屋を占拠した。夏休み初日。七月二十日の室温は人肌によって温め切られる。
我らが大学のラグビー部を使役しふんぞりかえるそいつは紛れもなく後輩その人であった。間違いであって欲しいという願いを心の中で唱え(そして漏れなく否定し尽くされた)、肩口で切り揃えられた黒髪の束をどうにかこの瞬間に目覚める予定の超能力で茶髪やロングに出来たなら別の人物に変わりはしないかと睨み付ける。
「なぜ眼を合わせないんですか」
それはもちろん極微細な可能性にかけてのことだったが、相手はそれを許さないようで、子供の思い描くまんまるお月様を二つほど拝借すれば出来上がるだろう両眼をひたすら俺に向けて煌めかせていた。仕方なく見つめ返す。目鼻立ちの整った愛らしい顔立ちと俺を超える高身長(許せん)を誇り、両手で持ってもこぼれそうなお月様を二つ胸元に抱えたような人物は四人程度しか知らない。つまり、紛れもなく奴だ。後輩だ。蜜月スズカと呼んでもいい。
蜜月という字からは程遠い威圧感を漂わせつつどこか蔑むような目を向ける奴に、普段の部活での不遇なアレコレを思い出してしまう。
そう、俺は望月大学の二回生、ごく普通のめちゃクソモテモテストゥーデント。所属している「超! 心霊現象研究会 〜ポロリもあるよ〜」というサークル(当然女子ばかり)の次期部長という大役を担っている。部員はみな須く俺に惚れているはずだが、なかなか素直になれないのだろうか、その大半が辛辣な扱いをしてくる。例えば更衣室だ。ドアは電子ロック、指紋認証、網膜認証、廊下には防犯カメラの万全な防犯体制をとっている部室内、覗きを行う人物はいないというのに、なぜだか女子更衣室と俺更衣室の二箇所に分けられている。なぜだ。教えてくれ。その前に混ぜろ。見ないから。胸しか見ないから。
現実を見ることにしよう。
元より狭苦しいスペースを今にも消滅せしめんとするかのごとく人体の立体パズルを組み上げた肉壁の向こうで奴が口を開く。
「で、先輩。聡明な先輩のことです。既に用件はお分かりかとは思いますがなにぶん私も臆病なのです。私と先輩の間で万に一つでも何かしらの行き違いを生じさせていたら、などと考えると恐ろしくてたまらないのです。もし先輩に忘れられていたらこれから先どう生きていけば良いものかわからずに心配になってしまうのです。ええ、先輩。優しく、そして何より賢明なあなたならばこの私の気持ちをよくご理解頂けていることと確信を得てはいるのです。例え世界が滅び命と名の付くものの尽くが死に絶え星が動きを止めてしまった後にも先輩であればきっと私との約束を果たしてくださるという信頼さえも抱いているのです。けれども、こうして連日連絡もよこさず確認もされない現状に不安を覚えるのも無理からぬことでありましょう。だからこうして、直接用件を告げに来ました。先輩。そろそろアレを返していただきたいのです」
以上のように捲し立てられたとて、心当たりがあるわけでもなし。臆病と自称する奴の神経の方が気になりはするが、いや、今はまずかような容疑を否認する言葉をぶつけるのが先決である。
「おう、アレね。うん。いやわかってはいたんだよなぁ。そろそろ、そろそろだよね、そろそろ返さないといけないと思ってて、ね。き、今日はちょっと準備できてないからさ。すまん、次会うときに返すわ」
俺は屈した。圧倒的多数の前にマイノリティは駆逐される運命にあったのだ。ここは俺の本拠地ではあるが、現状は不利。逆らえば人の部屋で勝手に組体操をしている敵どもの手によって制裁を喰らわされることは間違いない。立ち向かう勇気より逃げる勇気。無謀な特攻より未来への布石を敷くことの方が有意義なのである。これを臆病と呼ぶなかれ。奴の言うように、俺は正しく懸命であった。
「おや、おやおや、わかりましたよ先輩。そういう話ですか。例え私と先輩の仲であろうとも無償の行為などあり得ないと。いえ、むしろ親しいからこそ互いの行為には好意が付き纏い無償という状態は維持されにくい。お返し、お返しのお返し、などといった不毛な恩の押し付け合いよりも手短に済ませた方が効率的である、ということですよね。問題ありません。手は打ってあります」
そう言って奴は振り返った。
「肉! 例のものを」
悍ましき肉塊どもの手を渡り、広大な筋肉の大海原を切り裂いてやってきたものは、果たして一枚の布切れであった。真っ白で清潔であろうことは伺えたが、同時に隠せないくたびれも見つける。いわば中古、使用済みの逸品は速やかに俺の手の中へ収められた。
「先輩。これが私の誠意です。対価としては十分なものであると認識しています。この交渉はもはや返却の要請ではなく、等価交換の領域に足を踏み入れたのです」
「……すまん、後輩。お前の意思は理解した。誠意というものも十分以上に伝わっている。しかし、これに相当するだけの値打ちのものが手元にはないんだ。なけなしの金銭、冷蔵庫の中のとうに期限が切れた食品などは喜んでお前に渡そう。その程度ならば安いものだ。ただどうしても、俺はお前の誠意に報いることができない」
ここで俺は遂に諦め、真実を伝えた。心当たりのないものはない。それをねじ曲げることは俺の脆い腕ではできそうになかった。
「なにをおっしゃいます、とぼけても無駄ですよ」
「と、言われてもなぁ。後輩、お前はなにを探しているんだ」
「探すまでもありません。この部屋の中心で電気紐がわりにぶら下げられているあれです」
あれ、とは。俺は蛍光灯の方を見やった。リモコンなどという洒落たもののないここでは電気紐は必要不可欠である。布団に入っていても手が届く長さに調節されたそれは、先日千切れたものを新調したばかりであった。輝く白が眩しい。
代わり、というか、まさしく電気紐そのものである。それがどうかしたのか、と問えば、「それが電気紐ではないから問題なんですよ」と語気荒く返された。いや、確かに形状としては電気紐に向いているとは思えない。引っ張るには不要な山、穴、様々ついてはいるが、しかし、この柔らかさが何より俺を捉えて離さないのだ。
「誤魔化そうとしないでください! あれは二日前私の部屋に来た先輩が徹夜でゲームをした折、酔いに任せて私から脱がせて持ち帰った下着じゃないですか!」
下着、確かにその電気紐の特性を極一部抜粋し、またその意義について解釈してみればそう考えることも不可能ではない。だが、あれらはすでに俺の部屋の一部となったのである。ぴーたん(犬をモデルにしていると思しき置物。いつの間にか部屋に置いてあった)もやーちゃん(鳥なのか猫なのか判別がつかないぬいぐるみ。同じく気がつけば部屋にあった。たまに位置が変わっている気もするが気のせいだろう)も電気紐を仲間として受け入れている。多数決に基づき正義は我々の側にある。
「それがおかしいと言っているのです。先輩。口に出すことも憚られる事実ですが、私は今羞恥心を覚えています。こんな気持ちは初めてですよ。いいですか、代わりの下着を差し上げます。ですので、電気紐として使っているそれらを返してください。せめて洗わせてください」
首肯しがたい提案だった。そも、使用済み、未洗濯という点こそが重要なのだ。この後輩はそこをわかっていない。まあ、洗濯済みの下着に価値がないとまでは言わないが。
「そ、そうですか、先輩。わかりました。変態の先輩がそこまで言うのならその下着は諦めます」
「ありがたい」
「ただし」
後輩が続ける。
「今身につけているものは返してください」
それが指すのは、もしや今俺が身につけている下着のことだろうか。これは五日前後輩の部屋で拾った野生の下着である。やたらと高そうで、それに見合った着心地の良さを誇るため、ここ数日愛用している。サイズは合わないのだが些細な問題だ。
「サイズが合わないのは当然じゃないですか」
些細な問題なのだ。大体、落ちていたものを拾って何が悪いというのか。この下着は既に俺が保護したのである。今更警察などに持って行き、保健所送りの末殺処分されるのを黙って見過ごすのは実に忍びない。
「愛着が屈折していますね。というか、干していただけなんですけど。落としてなんかいません。それ以前に、野生の下着ってなんですか! 今日という今日は返してもらいますからね!」
馬鹿な。確かにこの子たちは拾ってきた子だが、いや、この子たちは俺に懐いているのだ。きっと元の飼い主より今の家族を選んでくれるはず……。
「話聞いてます?」
「そうだよな、パンちゃん、ブーちゃん」
返事はなかった。
「名前までつけてるんですか」
「……ごめん。こいつらは返すよ」
「え、あ、返してくれるんですか?」
俺は激しく自省した。俺と一緒の方が幸せだなど、酷い自惚れだ。現にこいつらは俺と話そうとはしない。独りよがりの家族ごっこだったのだ。
「ああ、返すよ」
「ありがとうございます」
「だからさ」
「はい?」
「お前が外してくれないか」
「はい!?」
ずっと引き離されていた家族との再会なのだから、ちゃんと本人の手で引き取られるべきだろう。
「さあ、上も下も、連れて帰ってくれ!」
「し、し、しし下も! 下もですか!?」
「仲間外れなんて可哀想じゃないか」
「それは、それは確かに……。え? いやでも」
「早くやるんだ。長引くほど寂しくなるから、さ」
後輩は躊躇している。権力と財力を鎧にしていても中身は臆病者、こうして強気に出ればカウンターを決められる。ちょろいモンよ。
「ああ、けど、俺にも羞恥心というものがあるんだ。……わかってくれるよな」
「……肉どもは帰りなさい」
「ですが、お嬢様」
「この危険人物と二人きりではマズいですよ!」
「良いのです!」
いや、お嬢様ってなんだ。まだ奴隷として使うのはわかるが、そこまでプレイを進めてしまうともう戻れないところまで行っているのではないだろうか。いやいや、肉と読んでいる時点で既に手遅れなのか。
ラグビー部員達は帰って行った。
「じゃあ、外しますよ、先輩」
「……ふ、あひ、えへへっふへへへへへはぁ!」
「えぇ……笑い方やば」
「引っ掛かったな後輩!」
すかさず布団に潜り込む。俺の策はここに成った。いくら俺より背が高いからといって、こいつは所詮一人の女子。鉄壁の殻に身を包んだ俺をどうにかすることなど不可能なのだ。
勝利の確信を得た俺は後輩に全力のドヤ顔を向けた。しかし奴は、とても冷めた目でこちらを見返すのだった。
なんだ? 何を見落としている。いや、もう奴に勝ち筋はないはず。単純にイラついただけなのか……?
「肉ども、入りなさい」
「は?」
「プランFです」
圧倒的な力によって俺の体は布団ごと持ち上げられ、そのまま縄をかけられた。続いて目隠し、口枷までつけ、俺のあらゆる抵抗を封じていく。
最後にヘッドフォンを被せられるその直前、奴が耳元で囁いた。
「私の勝ちですね」
いつのまにか眠っていたようだ。目を覚ました時、俺はどことも知れぬ場所にいた。
ピンクを基調とし、フリルのカーテン、天蓋付きのベッド、やたらと溢れるぬいぐるみや小物類。その他、おおよそ居住に不自由することはないであろう家具家電が備え付けられている。
一体ここはどこなのか……。人影はなく、俺はこの部屋を探ることを強いられた。そう、強いられたのだ。つまり、これから行うあらゆる行動は状況が俺に求めたものであって、俺には責任がないことを強く主張する。
手始めにタンス。下から二段目に下着類が入っていた。これだ!!
下着を一セット取り出す。くたびれた箇所は見受けられない。軽く匂いを嗅いだら、新品未使用ならではの独特な香りがした。
「……おかしい」
他の下着も同様、使用済みの気配が一切ない。どころか、部屋中、家具や雑貨はあっても生活をしていた跡が見つからない。
この時点でようやく、俺の中の危機感が働き出した。
タンスの上段、やたらと可愛らしい(幼いと言ってもいい)洋服、ワンピース類、スカート、そのどれもが誂えたように俺にぴったりのサイズだ。
かと思えば、一段下がればミニスカートや肩出しなど、露出が過多ではないかと思える服装。どちらにせよ俺が着るには躊躇してしまう。
この部屋を用意した人間のおぞましい魂胆が少しずつ明らかになっていくようだった。
一刻も早く逃げなくては、という考えとともに、どこへ? という反論が脳内に浮かぶ。無言の論争を繰り広げた後、とにかくこの部屋を出ようと結論づけた。
広い部屋を一直線に突っ切り、ドアへ向かう。風呂トイレ別、各種家具家電備え付け、IHキッチンありの夢のような物件だった。しかし、それは確実に甘い罠で、俺は今まさにこの中に囚われているのだ!
ドアスコープの向こうには誰もいない。やるなら今しかない。今しかない。そう、今だ。
「ねえ、先輩」
今まさに開けようとしていたドアが、一足先に誰かの手によって開放されていく。後輩、蜜月スズカその人だった。
おそらく主犯であろうそいつは無遠慮に部屋の中まで押しかけ、押し返す俺を意にも介さず部屋の奥まで追い詰めてきた。
「先輩、本当に自分のことがわかってないですね」
「な、なにがだ」
「だから」
そう言うとやつは両手の親指を俺の口内に突っ込み、頬を引き伸ばした。
「だからこんなことになるんですよ?」
「なふぃがぐぁ!」
投げかけた疑問は滑稽に潰れた音となる。
お返しにこちらも相手の顔を弄ってやろうとしたが、いかんせんリーチの差は残酷なもので、指先すら掠りそうにない。止むを得ず、俺を抑える腕をバシバシと何度も叩く。
「こふぁえろ!」
「フフ……」
こいつ、俺の抵抗を物ともしていない……! そのままこいつは喋り出した。
「先輩は今日から、私の家の、いえ、私の愛玩動物となりました。朝昼晩餌を差し上げます。おやつ、デザートもありますし、散歩にだって連れて行ってあげましょう。お着替えもたくさん用意したんですよ?」
マジだ。今日のこいつはマジでやる日だ。いや、現状を切り開く糸口はあるはず、ここは学生の本分で抵抗だ!
「だ、だだっだ大学! そう! 大学があるから! 一年と二年で受ける授業も違うし、無理があるんじゃないかナー!」
「私が誰か忘れたんですか? 大学の理事長の娘です。その程度のことならどうとでもできますから」
「ぐぅ……」
もはやどんな言い訳も封殺されてしまう。俺が絶望に打ちのめされていると、奴はおもむろに語り始める。
「先輩は無防備すぎるんです。部室では特に顕著ですね。身の回りに獣が溢れていることに全く気づいていない。誰かにとって食われるぐらいなら、私が先輩の全てを管理しておいた方がいいとは思いませんか」
「無防備って、俺たちの通っている大学は女子大だろ!」
たまらず声を上げた。そう、望月大学は創立以来の女子大なのだ。一部スポーツ系(特にラグビー部)の学生は怪物のような筋肉を全身に纏っているが、一皮剥けば花も恥らう乙女である。そのような中で俺が狙われることなどあるだろうか。いや、俺こそがハンターなのだ。貪欲に女子の尻を追いかけ続ける猛獣でありたいと心がけている。身長に劣る俺が舐められないよう周りに喰らいつく唯一の手段でもあった。
「疑問には思わなかったのですか? 同性なのに一人だけ更衣室を分けられていることも。やたらと部員のスキンシップが多いことも。先輩は獲物なんですよ。私なら先輩を守れるんです。私だけが!」
……思い当たる点、ないわけではない。以前から奇妙に思うことはいくつかあった。なぜか廊下だけでなく俺更衣室の中にまで設けられた監視カメラ、自室のぬいぐるみから鳴るなんらかの駆動音、事あるごとに酒を勧めてくる部員達……。おかしいとは思っていた。しかし、それが何を意味するかまで考えたことはなかった。俺が、俺が狙われているのか? なんてことだ……。
待てよ。狙われていてなにが問題なのだろうか。これはむしろハーレムのチャンスなのでは? そもそも俺はとんでもない顔面偏差値を誇るあの部活に俺の国を作り上げるために入ったのだ。この状況はまさにうってつけではないか。
そうとなればやることは決まっている。休日や祝日であっても部室に屯している暇人どもを片っ端から口説きに行こう!
「ねえ、先輩。だから私が飼うんです」
俺の欲望はすぐに阻まれた。こいつが俺の首にチョーカーを嵌めたのだ。
「その首輪にはリードがついています。先輩のために用意したこの犬小屋の中でなら歩き回れる程度の長さは確保してあります。外出時には私がリードを持ちますから、この首輪は絶対に外さないでくださいね」
ああ、このままでは俺の野望、理想は潰えてしまう。そんなことはさせない。させるものか。
所詮後輩も身体能力は一介の女子。たまに筋トレ(腹筋5回)をしている俺に敵うはずがないのだ。全ての苦難は力が解決する。あらゆるハードルは腕力で打倒できる!
「ちょえぇぇぇ!」
俺は飛びかかった。
「くすぐったいですよ先輩……。そんなに甘えたかったんですか?」
しかしあっさりと抱き止められた。
「命が惜しければ大人しくしなさい」
ひえっ。
カーテンを開けば陽光が部屋の中を探りに来る。少女趣味が行き過ぎたようなメルヘンを漂わせる家具に、既に動かない目覚まし時計が置かれていた。ちょっと撫でただけなのにな……。
夏休みの只中ともなれば、時計が動かないぐらいは大した痛手でもない。ただ、今日これからを考えると朝飯を食べ損ねたことは少々辛く思える。
チャイムが鳴った。
外出の十分前を告げる音だ。急ぎ身支度を整える。今日はロングスカートで行くべきだろう。暑い時期とはいえ他に優先されるべき事柄はいくつも存在する。膝の防御力とか。
「出なさい」
ご主人様からの命令が下される。俺に許されるのは四足歩行だけだ。ドアの外まで行き、リードを託すと、ご主人様に加えて俺のライバルは既に外出準備を済ませているようだった。
「わん!」
気軽に挨拶をする。
「バウッ! バウワウ! グゥルルルル……」
「くぅーん……」
威嚇を返された。こやつは新参者である俺のことを格下に見ているのだ。多少俺より体がでかいからと偉ぶっているところが鼻につく。こちらも威厳を見せつけねば。
「やめなさい! ポチ三郎、め、です! ほら先輩も。もう大丈夫ですから、ね?」
ご主人様からの取り成しを鷹揚に受け入れる。俺は器が広いからだ。上の立場の人間としてこういうところで差をつけていく。
あいつ叱られてやんの!
「ガゥゲガガァァ!!」
もはやこの世のものとは思えない吠え方で怒りをぶつけられた。九割方漏らしかけたぞおい。
「先輩! 今のは先輩が悪いですよ!」
「反省してま〜す」
今日のお昼が抜きになってしまった。
別で考えていたお話のワンシーンだけ切り取っています。
気が向いたら続くかもしれませんが、きっと話の方向性は今回とは全く違う、というより、大元の物に近い形になっていると思います。
本文中で出てきた部活が本来の舞台です。ジャンルで言えばオカルト系ですかね。ついでに言うと女子だけのハーレムでもあります。
主人公の描写をあえて減らしていたのでここで説明しておくと、身長は百四十センチ、華奢な体格をコンプレックスに感じています。胸もそれに相応しいスレンダーさ。日本人形のように腰まで伸ばした髪を均一に切り揃えています。前髪は眉毛の上でぱっつん。常に上目遣い気味の目がよく見えます。表情はあまり変わりません。