それは美しく残酷だった
黒飛龍が砂上に舞い降り空気を吸い込むと共に強大な魔力がその開かれた顎門に集約され熱量を伴う。
その威圧感は留まることを知らず、その体躯を仰け反らせながらそれは臨界を迎える。
『ガァァァッ!!』
咆哮と共に打ち出されたそれは赤黒い炎の塊へと姿を変えかなりの速さで迫り来る。
ぐっ! 避けたらカディフラティに直撃する軌道だっ!! 止めるしかないっ!!
「【絶壁】ぃぃ!!」
地面が震えながらせり上がり巨大な壁を形成する。
幅二十メートル、高さ三十メートル、厚さ四メートルにも及ぶ巨大な壁が黒飛龍の炎弾とぶつかり合う。
ドガーーーーーンッ!!
止まっ…… てないっ!?
くそっ!! 間に合え!! 【万物創造】―氷山―!!
突如炎弾の前に現れた巨大な氷山がぶつかり、大量の蒸気が生み出され視界を白く染め、どうにかその威力を相殺する。
『ほぅ、止めたのか…… 小さき者、興味深いな。 名を名乗る事を許そう。』
あぁ、結構ムカついてるはずなのに【精神統一】のお陰かな、冷静でいれてる。
「そら。 それが俺の名前だよ。」
『そら…… 覚えておこう。 お前が死んだ後もな。』
ほうほう、勝ったつもりでらっしゃる。
目には目を歯には歯を!!
「貴方も名乗った方がいい。 死んだら名前も言えないしね。」
『……ガッハハハハハ!! そらよお前、中々見処がある…… どれ、お前の最高の攻撃を余に放ってみよ。 余にかすり傷でも付けられたら名乗ろうか…… なに、心配するな。 この一撃のみそらの攻撃を大人しく受けよう、魔法を使うならば無効化もせぬ。 さぁ、本気でこい!!』
うわぁっ!! 千載一遇のチャンスっ!! この一撃で仕留めてやるっ!!
「それはそれは、どうもありがとうございます。 その言葉違えないようにお願いしますね!! 黒飛龍様♪」
『くどいぞっ! よいから来い!!』
うっし!! 特大のをお見舞いしてやろう!!
「じゃあ、行きます!!」
この世界に転生して何度もこれに助けられて来た……。
だからこれに賭ける!!
「【万物創造】!!」
魔力を思いっきり注ぎ込んでいく。
それに伴い今まで見たことも無いような大きさの魔方陣が展開される。
まだ、まだまだっ!!
「【女神の瞳】!!」
魔方陣を最適化していく。
魔力増大魔方陣追加!! 魔力蓄積魔方陣追加!! バイパス形成!! まだだっ!! 魔方陣複製!!
複雑に絡み合った巨大な魔方陣が天と地に鏡写しのように形成されその輝きを増していく。
「極大夢鎗―恋矢―!!」
長さが十メートルにもなろうかという巨大な夢鎗―恋矢―が上下の魔方陣の中間辺りに形成される。
「終わりじゃないぞっ!! 【万物創造】!! ―極大レール―!!」
今は残りのMPは気にしないっ!! この一撃で仕留められなければ負けは必至、だからやらなきゃ!! 皆を守る!!
「【碧雷渡】!!! 最大出力!!!」
巨大なレールが碧白く発光し大気を焦がすような放電が轟音と共に地面を焦がす。
「【付与術士】で極大恋矢に更に【炎纏い】―紫炎―を付与ぉ!!」
で、きたぁ!!
「終末の龍殺恋矢ぃぃ!! 行けぇぇぇ!!!」
それは空気を焼き焦がし、全てを穿つ。
過ぎ去った後には硝子と化した砂の大地、雲は吹き飛ばされ、その過度な高温と強力な雷、更に先程の氷山から発生した水蒸気により新たな積乱雲が瞬時に湧き出てくる。
着弾と同時に内包された熱量と雷撃が放出され黒飛龍を外と内から正に荒れ狂う龍の如く這いずり回る。
恋矢自体も未だ高速回転を続けており【念動力】でそれを更に押し込む。
上空の積乱雲から恋矢の雷撃に引きずられるかのように断続的に黒飛龍目掛け落雷が発生している。
その光景は正に世界の終末のようだった……。
落雷の轟音と過度な閃光のコントラストにより一時的に視力が奪われ全てを白に染め上げる。
そして徐々に視界が戻った時そこにあったのは……
全身から白煙を上げ腹部に大穴が開いた黒飛龍の姿だった。
「や……ったのか…… ?」
勝った……。
「勝ったっ!!」
些か卑怯な感じでは有るが勝ちは勝ちだ。
『み、見事…… 余の名を己が魂に刻むがいい…… 余は…… 黒飛龍―龍帝―…… ファランギーナである!! ド……』
ド?
『【龍達の生命】!!』
ファランギーナの背後に自らの尾を噛み輪となる金色の龍の幻影を見る。
「綺麗だ……」
そう思った…… 絶望と共に……。
金色の龍が回転しながら穏やかな光を放ちファランギーナを包み込む、その傷を癒しながら。
「嘘だろ……」
『そらよっ!! お前が余の配下となり共にあのちっぽけな国を滅ぼすと言うならばお前の大切な者の命だけは助けてやろう!! 余の慈悲である!!』
……大切な人だけ助ける? ふざけるなよ。
じゃあその大切な人の大切な人はどうなるんだ? 俺に大切な人がいるように人にはそれぞれ大切な人がいるんだ!
「俺は…… 全員助けたい!! だからファランギーナ……お前を倒すっ!!」
『そうか…… 残念だ。』
そう言うと大きな両翼で風を打ち上空へと舞い上がった。
『さらばだ、そらよ。【龍嵐】』
「【エアキューブ】!!……っ!?」
『もう使えぬよ。』
魔法が封じられた為か虚脱感に苛まれながら、俺は巻き上がる風の刃にズタズタに切り裂かれた。




