ユリとミュスカ
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「私、ユリ・フルミントと申します。 ミュスカ様の【鑑定】として転生時よりお仕えしておりました…」
「え? 【鑑定】? えと、ごめんね、どういう事かな?」
「順にご説明致します。 ミュスカ様が前世でお亡くなりになられ、最高位神ヴィオニエ様によりこの世界へと転生されたあの日、私も自我に目覚めました…。」
……………
………
…
そう、ミュスカ様に前世の記憶が戻ったのは三歳と少しの頃でした、聡明であったのでしょうね、記憶が戻ってからもセミヨン王や、王妃のリースリング様の娘としてきちんと振る舞われていました。
しかしあの頃のミュスカ様は夜になり皆が寝静まった後で一人枕を濡らしておられましたね…
その頃の私にはミュスカ様とお話しする権限が与えられておらず、お声を掛ける事すら出来ずやきもきしたことを今でも鮮明に記憶しております。
それでもミュスカ様は皆の前では毅然とした態度を取られ徐々に貴族や民にも慕われ立派な王女となられました。
しかし、その頃には既に私、つまり【鑑定】の存在に気が付きご自身のステータスを見てはため息をつく毎日でございました、危険が伴う霧の森への狩りや訓練にも殆ど参加させて貰えず剣術や弓の指南を受けてはステータスとにらめっこ、そしてため息、これの繰り返しでした。
どうにか理由をつけて遺跡の調査に名乗り出たのは記憶に新しいです。
遺跡にたどり着き、徐々にレベルを上げながら中層へと足を踏み入れ、どうにか一体一体ガーゴイルやゴーレムを倒していた時に遂に恐れていた事にが起きてしまいました。
武器の破損です。
その後必死に逃げて逃げて後少しで外というところで悲劇は起きました、蔦に足が取られ転げてしまったのです。
私は心で叫びました。
逃げてっ! やめてっ! 誰か助けてっ…と。
私のなんと無力な事でしょう、ずっと傍に仕えておりながら肝心な時にいつも何も出来ず見ているだけで身代りの盾にすらなれない実体のない存在、それが私でした。
そんな自分を呪う事しか出来なかった時に出会ったのです。
ミュスカ様と私の運命を大きく変える存在に。
そら様…
彼の存在が如何にミュスカ様を癒し、勇気づけ、鼓舞した事か、折れかけた心を支えたことか、本当に感謝致しました。
遺跡を踏破し遺産を手に入れ、ミュスカ様の未来を切り開き、エルフの国まで連れ帰ってくれた。
しかしそこでまた悲劇が起きました、今回の魔族の襲来です。
ルケ様が必死の思いで食い止めて下さり、直接的な王樹への襲撃が起こる前に騎士団長とミュスカ様はその場に駆けつける事が出来ました。
しかしながら、魔族の強さは尋常ではなく直ぐにルケ様も騎士団長も無力化されてしまいました。
私はあの時の恐怖、そして奴の姿を忘れられません。
上半身を覆う布は前が開き胸部と腹部が露出され、適当に巻き付けたようなズボン、鋭い眼光にギザギザとなんでも食い千切りそうな歯を見せながらニヤニヤと笑い、魔族の人型種特有のうっすらと紫がかったような肌、濡れたように張り付いたウェーブのきいた髪をかきあげる仕草。
今でもあの光景が頭を離れません。
その魔族がミュスカ様の頭を鷲掴みにし電流を流したのです。
怒りに震えました。
恐怖に震えました。
余りの自らの無力さに震えました。
その時も助けて下さったのはそら様でした。
いつもそう。
私は見ているだけ。
何も出来ない。
もう、そんな自分は嫌なんです。
変わらないといけないっ!
もう見てるだけの自分は嫌です!
私は願った、身体を… 涙を拭う指を… 言葉をかける声を… せめて盾になる体をお与え下さいと。
叶えてくれたのもやはりそら様でした。
そして決めたのです。
ミュスカ様とそら様に私の全てを捧げると。
……………
………
…
「つまりそら様に身体をお造り頂いてそこにミュスカ様の【鑑定】を付与した形になります。」
「そっか… ユリちゃん、ずっと見ててくれたんだね… ありがとう。 あの頃から一人じゃなかったんだね私。 心配かけてごめんね、私、強くなるよ。 だからユリちゃん、これからも一緒に居てくれる?」
「例えミュスカ様が邪神を討伐すると言われても隣に控えさせて頂きます!!」
「大げさだなぁユリちゃんは、ははは。 所でそらは本当になんでも出来るね?」
そら様の秘密が露呈しないようにしっかりと私が補佐しなくては。
ユメがうっかり何かを言わないように見てないといけないわね。
そら様にもしっかりとお仕えしなくは……
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「ユメ、通訳お願いしていいかな?」
「おっけー♪」
「俺には倒した相手の力の一部を自分の物に出来る能力があるんだ。」
「あのねー、ミュスカ!マスターは、あっ、マスターはマスターの事だからね! マスターは倒した敵の力を食べれるんだよ!」
いやぁ、それじゃさすがに伝わらないんじゃ…
「やっぱりそうなんだ。 そうかなぁとは思ってたんだ。」
伝わったー!! というか知ってらっしゃった!?
「戦う度に強くなったり新しい事が出来たりしてたからそういう能力なのかなぁって。」
「そうそう、さすがっす。 でね、進化も控えてるから先にしちゃっていいかな? なんかむずむずし始めてね、 ユメもお願いね。」
「マスターがさすがーっていってるよ! あっ、後ねミュスカ!ユメはおねーちゃんの妹だよ! よろしくね! 後ねマスターが変な魔族ぶっ殺したときにレベル上がって進化出来たんだけど皆の前のがいいからって保留してたんだけど今進化しちゃっていいかなって言ってるの!」
『ほう、進化か… 他種族のは始めて見るのじゃ。』
「えっ? そら進化するの!? どうしよう。 ドキドキする。 可愛いのがいいなぁ…」
「じゃあマスター! ちゃちゃっとやっちゃおー♪」
「あっ、ユメちょっと待って! 最近忙しくてちゃんと休めてないから通常のゆっくり進化でやってみようかと思うんだよね休息を兼ねて。 だからその間に皆と仲良くなっててくれるといいかな。 仲間の結束を深めといてくれると助かるかなー、後はあの魔族のステータスとかを四人で見て情報共有しといて欲しいかな、めぼしい事があったら後で教えて!」
「ユメにおまかせあれ♪」
よし、俺は進化に集中するか。
深く、深く。
水に潜るように……。
あっ、眠い。
寝ていいのかな? まぁ、いいか。
おやすみー
次話でようやっと進化となりそうです。




