縦横無尽の急転直下
「へ……? うそん。」
見るからに敵意を剥き出しにしてこちらを睨みつけるその目には怒りと憎しみが満ち溢れている。
先程倒したこだぬきの親ないし同族なのだとは思うが、明らかにその様は似て非なる存在に思える。
先程のこだぬきが一般的なサイズ感の子犬程度の大きさだとするならば、
こいつは明らかにでかい。
小型の熊と言われても頷けるような体躯に固く針金のような体毛、鋭い爪に牙も発達し人間の腕ですら容易く食いちぎる事ができそうだ。
「なんて冷静に観察してる場合じゃないっ!! 」
検証すら出来て居ないが【転がる】に賭けるしかない。
もたついている間に化けダヌキが大腕を振りかざし襲いかかってくる
「っ!! 【転がる】!!」
スキルを発動した瞬間に意識せずとも頭や身体が殻に収納され勝手に高速回転を始める。
急激な回転速度によりその場で僅な空転を引き起こした後殻が接地面を噛む。
グンっ!!
「うぉっ!? は、はえぇーー!!」
紙一重で化けダヌキの鋭い爪が先程までいた場所を地面もろともに抉り飛ばす
高速で回転しているにも関わらず、驚く事に目が回るというような事も無く、視界は360度、上下、全てを認識できるようだ。
「車にのってるようなかんじだな! ……車ってなんだ? ……あぁ! 車! 車! 思い出したわ!」
ー記憶レべ…
ズガーンっ!!
「うぉっとっ!? うぉ、 ついてきてるっ!!」
場違いな事を考えてる内に化けダヌキは近くまで追って来ていたようだ、こちらも当初の予想に反してかなりの速度で逃げているにも関わらず、離れるどころが肉薄し攻撃までしてきているという事は化けダヌキの方が僅な差ではあるが速いと言うことだろう。
「このままじゃ長くは持たないっ!どこか逃げ込めるような場所があれば…」
化けダヌキが再び巨椀を振り上げる。
ズゴーンっ!!
「っ! ヤバいヤバいヤバいっ! クソっ! こうなれば一か八か戦うしかないか! アイツのステータスはっ!!」
「【鑑定】!」
《熊ダヌキ》Lv.19
大ダヌキが突然変異により魔物化したもの、好物はカタツムリ
HP 1560/1570
MP 520/540
ースキルの鑑定はレジストされましたー
「はい。好物おれー。 ってかムリムリムリムリっ! やっぱ逃げるしかねー!!」
「ん?あれは…… っ!!」
山だ…… カタツムリから見たらという注釈がつくのだが。
見つけたのは岩と岩が積み重なるようにして出来た隙間だった。
あの隙間なら化けダヌキは入れないし岩もそうそう破壊されるようなサイズ感ではない。
「取り敢えず逃げ込むしかねぇっ!! 間に合えっ!!……え? あぁぁぁーーー!?」
ズゴーンっ!!
恐らく化けダヌキが岩に激突した音が響き渡るなか、
俺は浮遊感を味わっていた。
隙間の先は急な坂になっており地下へ地下へと転がって行く。
「もうっ! いいかんげんにしてぇ!! 盛りだくさん過ぎるからぁ!! とまらなーーーい……」
ゴロゴロ
ブチっ
ゴロゴロ
ブチュ
ゴロゴロ
クチャ
ゴロゴロ
グチョ
グチャ。プチプチ。グシャグシャ。
ーレベルが上がりましたー
ーレベルが上がりましたー
ーレベルが上がりましたー
ーレベルが上がりましたー
「なぜレベルが上がりましたぁぁーーー!? さっきから何轢き殺してるの!? やめて! 止めてぇぇ!! なんだかわからないけどごめんなさーいーーー!!」
穴の中は薄暗くかなりいりくんでおり、うっすらと影しか見えないものを縦横無尽に轢き殺し、殺戮を繰り返す事十数分。
広い空間に出ると共にようやく勢いが止まった。
その空中だけここまでの道より僅かに明るく、どうやら遥か上空に小さな穴が有るようでそこから幾ばくかの光が漏れ入っているようだ。
「やっととまったぁーー。」
奥からいくつかの気配を感じる、ゆっくりと間合いを詰めて来たのは……
蟻だった。
自分と同じくらいの……蟻だった。
そして悟った……。
「あっ、そちら様の仲間の方々……あの。その。……お悔やみ申し上げます……。」
ギシャァァ!!!!
「ギャーーっ スミマセンっ!!」