騎士団長の本気
「私と手合わせ頂けませんか?」
ん? 手合わせ? んー、エルフの国の強者には興味有るけどなんでいきなり手合わせなんだろう。
ミュスカもいないし意思を適切に伝える術が無いな、取り敢えず首かしげて出方を見てみよっかな。
「失礼致しました。 特に害意や敵意が有るわけではないのです。 我々の国、ロンケドーネはあまり外交や多種族との交流が盛んでは無く霧の森に闖入する魔物や盗賊の類いとの戦闘位でしか実践経験が有りません、戦争も百年単位で起こっておりませんし自らの力がどの程度強者に通用するのかが知りたいのです。 先程のミュスカ様のお話を私も隅で控え、聞いておりました。 是非にお手合わせをお願いしたい。 如何でしょうか?」
なるほどね、この人は真面目な人なんだな。
自分の力がこの国を護るに足る物なのか、騎士団長という立場になっても尚その地位に胡座をかくこと無く常に上を見続ける姿勢、ある意味渦の頂点を目指す俺と近い物が有るかもしれないな。
よし、やるか!
「キュ!」
頷いてやると嬉しそうに顔を綻ばせ勢いよく頭を下げる。
「よろしいのですか! ありがとうございます!! では、少し先に訓練場が有りますのでそちらにご案内致します!!」
騎士団長に続きルケと共に歩いてついていくと、時より此方に好意的な視線を向けてくる人達が居ることに気がついた。
『よほどあの王とミュスカは民に慕われているとみえるのぉ、いくら王自らのお触れとは言えここまで素直に受け入れるのは難しいのじゃ、この国は暫くは安泰じゃの。』
国が安定するのは良いことだし今後ミュスカが持って帰った技術で更なる発展を遂げるだろう。
ミュスカも着実に頂点に進んでるな、俺も頑張らないとな。
「着きました、こちらがエルフ近衛騎士団第一訓練場です、どうぞ中へ。」
なんだろう、質素? 広い空地を木の柵で囲っただけの簡単な造りの場所だなー、まぁ、軽い訓練ならこれで十分だけどね。
訓練場の中には二十人程の騎士たちが木刀や木槍を用いた訓練に精を出していたが、騎士団長と俺達を見つけるや胸に手を当て一礼して場所を開けてくれた。
「皆、よく聞いてくれ! 今からミュスカ様を救って下さったそら殿に私が手合わせして頂く! 確りと見て自らの研鑽の糧にするといい。 以上だ。」
さーて、どうやって、戦おっかな。
ミュスカとの模擬戦は鎧だしてやったけど… 今回はこのままやってみるか、俺と戦いたいっていってくれてるしね。
「ルケ! 真ん中で開始の合図だしてあげてくれる? 多分行動で理解してくれると思うから!」
『分かったのじゃ。』
ルケが俺と騎士団長の間を敢えて通り少し進んだ所で振り返り、【炎纏い】による蒼炎を鬣に纏う、そして空を仰ぎ見て大きく息を吸い込む。
次の瞬間ルケの口から小さめの炎の玉が吐き出され空へと登り数秒後にパンっ!! という音と共に爆発した。
騎士団長はしっかりとその意図を汲み取り、それと同時に此方へと攻撃を仕掛けてくる。
騎士団長は先に布が巻かれた槍を構え低い体勢でぐっと踏み込む。
速いっ! ミュスカよりも速いなこの人はっ、と!
【念動力】で空と逃れ一度ストップをかける。
「キュキュイ!!」
「どうかされましたか?」
滞空しながらゆっくりと騎士団長へと近付き、槍の先の布を軽く噛みくいくいと引っ張ってやる。
「この布を取れということでしょうか?」
「キュ!」
「いや、しかし万が一があったら私は王に申し訳が立ちません…」
この真面目さんめー、よし。
【万総鋼】!【堅固】!んでもいっかい【念動力】!
騎士団長の槍から無理やり布を取り去り、【念動力】で奪い取り、自分に向けて強く振り抜く!!
ギンっ!!
「なんとっ!! 我が国の少ない金属武器なのですが… そら様には大した脅威では無さそうですね。 わかりました! このままやりましょう! 胸をお借りします!!」
「キュ!」
胸が何処だかわかんないけどね。
ここまでして怪我したら格好悪いから防御系は使いっぱなしにしとこう。
よし、仕切り直しだ!
「ルケ! 悪い、もう一回お願いできる?」
『構わぬよ。』
パンっ!!
騎士団長が勢い良く踏み込みながら真っ直ぐに突き込んでくるが身体を【念動力】で横に滑らせるようにして避ける、そのまま連続で突きを放って来るが攻撃が真っ直ぐすぎるな。
知能の高い魔物や素早い敵には容易く避けられるかもしれない。
攻撃が単調な内は全て避けるか、言葉が通じない以上彼が自身で考えて、何故当たらないかを考える必要がある。
暫くラッシュが続くが難なくかわしていく。
段々と騎士団長の息が上がってきたな。
「くっ、当たらないっ!」
んー、しょうがない、ヒント出してあげるか。
【万物創造】―竹刀― 【万物創造】―人体骨格模型―
骨人間に竹刀を持たせて驚いている騎士団長に向け【念動力】で人の動きをイメージしながら差し向ける。
先ずは緩急だ、動きが遅いと見せ掛けて…。
「このくらい容易く…」
はいここで加速!! からの振り下ろし!!
パーンっ!!
「つっ!? いきなり速く!?」
はいはい、休んでる暇はないよー。
次はっと、竹刀なげちゃお。
えい!
ビュン!
「なにっ!?」
どうにか槍ではたき落とす事に成功した騎士団長に骨人間が肉薄しそのままドロップキックを叩き込む。
肉は無いけどね、はは。
「うぐっ………… なんて不規則な動きだ、対応が一歩遅れ… そうかっ!! なるほど。 私の技は全てが全力、 そこに緩急や予想外の動きを織り混ぜ… ぐふっ!?」
はいはい、気付いたみたいだけど油断はだめだよね。
罰として腹パン一発ね。
「いぎが…」
あれ、やりすぎたかも。
ちょっとまってあげよう。
「はぁはぁ… まだまだっ!!」
その意気やよし。
来るが良い。
突きや薙ぎを【念動力】で手元に戻した竹刀でいなしながら様子を見る。
徐々にではあるがフェイントや、緩急が生まれ初め対応が難しくなってきた。
元々騎士団長はスペックはかなり高いのだ。
ミュスカよりもパワーもスピードも有る、少しの工夫で化けるのは当たり前だ。
「そら様、はぁはぁ。 本当に本気でいかせてもらいますね!!」
おっ!!奥の手みたいなのくる? 楽しみだな。
「キュ!!」
「【身体強化】!! 【精霊纏い】!!」
お? おおっ!!
凄い! なんか分からないけど緑色のオーラみたいなのを纏ってる! 油断したらヤバいかもな!
骨人間にも【万全鋼】と【堅固】つけとくか。
「行きます!!」
次の瞬間騎士団長が消えた。
そして気がつくと骨人間は粉微塵にされていた。
と、とんでもないの隠してたなこの人。
よし! それならこっちも全力でぶつかってやる!!
「キュキュイキュッキュー!!」
「そら様もようやくやる気になって下さいましたね!! 光栄です!! 良い戦いをしましょう!!」
「キュ!」
よし、やるぞっ!!
次は全力バトル回です♪




