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教育的指導

 "我の… いや、我らの主になってはくれぬだろうか" か。


 この言葉を発した方は、いま俺の前で頭を垂れてらっしゃいます。


 つまり群れのボスをやってくれってことなんだろうけど、生憎と俺達はエルフの国に用があるんだよね、ここは丁重にお断りするのがいいよね。


「ごめんね、俺達は今から行かなきゃならない場所があるんだよね。」


『我らのしきたりでは群れで一番強いものが群れを束ねる長として君臨する、そして群れの一番の強者が外で何者かに敗れた場合その群れは例え長年住み慣れた住処を捨てようともその者に付き従う。』


 え? 付いてくるってこと?


「因みに君の群れはどれくらいの規模なの?」


『我の群れは同族がざっと百二十体、さらにしたがえてる下位の魔物と合わせると五百体はくだらぬな』


「ムリムリムリムリっ! そんなに付いてこられても困るよっ!」


『ならば我だけでもかまわぬ。』


「え? いいの?」


『群れの中では強者の意見が何より優先される。 序列三位の者に一時的に群れを預け、率いらせればよい。』


「君くらいならまぁ… でもそれで群れは本当にへいきなの? 森にだって勢力争いみたいなのあるんじゃない?」


『この森の中では我等に殆ど敵は無い、時たま命知らずが挑んでは来るが我の群れは其なりの規模があるからな、複数で囲めばどうとでもなろう。』


 そう言うことならまぁいいか、一人ならともかくミュスカがいるし長距離の移動だと()()()が欲しいなーと思ってた所だし丁度いいか。


「わかった! いいよ!」


『よし、決まりだ。言質は頂いた! ではこれより我の全てを主にお預けする。 早速群れに話を通そう。』


 そう言うや否や森中に響くような遠吠えをあげる。


「えっ? なになに? そら、どうしたの?」


 ミュスカの問いかけに大丈夫だと鳴きながら事の成り行きを見守る。



 それから暫くすると続々と森からリボッラライガーが現れ順に平伏し始める。


 三十分が経過した頃には見渡す限りのリボッラライガーで埋め尽くされた。


 最初こそいきなり増え始めたリボッラライガーにミュスカも身構えていたものの大人しく平伏する様を見て徐々に警戒を薄めていったようだ。



『皆の者よく聞けっ!! 我らは今この時より此方におられる……名を聞くのを忘れておった、お伺いしても?』


「俺がそらで彼女がミュスカだよ。 いずれこの世界の頂点に立つからよろしくね!」


とか言ってみたり。


『聞いたか皆の者っ!!そら殿とミュスカ嬢の配下に加わる事となった!! お二人はいずれ世界の頂点に君臨する方々だっ!! 何か異論の有るものはいるかっ!!』


『ガオガオガーガ、ガオガオガーオ?』


 おう、なにいってるかわかんないや、前倒しちゃった二番の奴も喋れなかったし長だけ喋れる感じなのかな?

 知性の問題かも知れないけど……


『お前の言も分からなくはない。 現に私も初めは疑った! しかしながらそら殿、いや主は我に力をお示しになった! この我すら軽く凌駕するほどの力をな!! それでも疑うと言うのなら、お前、手解きしてもらってはどうだっ? さすれば皆も納得するだろう!』


『ガオガオっ!!』


『うむ、その意気やよし。 主よ、すまぬがこやつと軽く戦ってやってはくれぬか? それで皆も納得するだろう。』


 えー、面倒くさいなぁ。

 やらなきゃダメなの? まぁ、殺し合う訳でもないし軽くやってあげようかな。

 いきなり現れて従えっていうのもなんか違うしね。


「わかったよ、戦闘不能かギブアップで終わりでいいよね?」


『うむ。 それで構いませぬ。 では両者前へ!!』


 今の俺なら棒立ちでも負けない相手だと思うから手加減気をつけないとな。


『初めっ!!』


 合図と同時に突っ込んでくるリボッラライガーを【念動力】で押さえ付ける。


『ガァ!?』


 何されてるかも分かってない感じだな、 可哀想だから放してあげようっと。


 解放されたことで身体の自由を取り戻したリボッラライガーは鬣を激しく燃やし始める、 炎の推進力で突っ込んで来ながら鋭い爪を振るってくるが、避けるまでもないので【万統鋼】と【堅固】を取り敢えず発動し攻撃を受けてやる。


 ギンっ!!


『ガオガっ!?』


 驚いてるとこ悪いけどそろそろ勝負を着けようかな。


 折角だし同じの使ってあげるか。


【炎纏い】!!


 瞬間殻から猛々しい炎があがる、がそれでは終わらせない。

 大分増えたMPをドバドバつぎ込んでいく、炎はより猛々しさを増していきより高温になっていく、そして纏われた炎は蒼炎へと至る。


 まだ行ける気がするな。


 更にMPを込めていく、蒼炎からフレアが飛び交い一帯の気温をぐいぐいと引き上げながら更にその勢いを増していく。


 つぎ込まれたエネルギーによって蒼炎すら焼き尽くされ、その炎は深紫(こきむらさき)に彩られた。



『主!! そのくらいでお許し下さい。 既に其奴は恐怖で気絶しております故… それに皆の者も震えておりますのでどうかお気をお鎮め頂きたい。』


「え? ああ、ごめんね皆! ちょっと何処まで行けるか遊んでたらちょっと楽しくなってきちゃってやり過ぎたかな? はは…」


 あー、皆尻尾が股下に入っちゃってガクガクしちゃってるや… 謝ろ。


「驚かせちゃったよね! 俺に敵意は無いから皆落ち着いてね、大丈夫だよ! 怖くない怖くない!!」


 シーン……


「ほんとにやり過ぎたみたいだな、 こうなったら多分何をいっても恐怖を払拭出来なそうだな、いっそ振り切っちゃた方が事が丸く収まるかな。 よし。」


 すーはー。


「皆の者きけっ!! 俺はやがて世界の頂を戴く者だ!! その身で感じた恐怖を忘れるなっ!! そして崇めよっ!! 歓喜せよっ!! お前たちは俺の比護下に入ることを許されたのだっ!! 何故下を向く!? 何処にその必要があるというのか!! お前たちは遥か高みを行く俺達を見上げて付いてこいっ!! 分かったか?」


 ………


「分かったら返事っ!!」


『『『『『アオーーーーーーーーーーンっ!!!!』』』』』


 森を丸ごと震わせるような遠吠えは遠くの山々に反響し暫く消えることがなかった。





 ビックリするなぁ、これはご近所に迷惑だからちょっと躾した方が良さそうだな。

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