箱と箱
そろそろ行くか。
休憩とステータスの確認を終え、 充分にミュスカのなでなでを堪能した後次の層への階段を探す。
ミュスカの肩に揺られ、へたくそな絵を横目にフロアを歩き回るが中々上への階段が見つからない。
「ないね階段。 上層に入ったばっかりのはずだし… まだ上があるはずなんだけどな。」
たしかにおかしい、 これだけ歩き回って下手くそな絵しかないなんて… これは何かしらの仕掛けがあると考えるべきなのか?
俺が気になってる事がもし真実なら恐らくこのフロアの見えるところに階段はない。
だとするならば上に続く道は恐らく壁の何処かに隠されてるはずだ。
自分の考えを確かめるためにミュスカの肩から飛び降りる。
「あっ! そら、どうしたの?」
「キュイキュイキュ!」
「ん? ついてけばいいの?」
壁伝いに一枚一枚壁の絵に【武具創造】で作った鉄球を【念動力】で軽く飛ばして当たったときの感触や音を確めていく。
殆どの絵に試したが中々手がかりが見つからず、ミュスカにも諦めの色が見え初めた頃、一際大きな絵画に鉄球を飛ばした時に明らかに今までと違う音が響いた。
コーンっ!
明らかに今音が響いた!!
ミュスカも気づいたらしく一緒になってその絵画とその周辺を調べていく。
「あっ!! そら見て!! ほらここ、ここの壁の出っ張り! 形に沿って少しだけ隙間が掘られてるよ! なんだか押し込めそうな感じなんだけど押してみていい?」
「キュ」
短く肯定の意思を伝えるとミュスカは深呼吸してその突起を押し込んだ。
「あれ? 何もおこらない?」
チーンっ!!
お馴染みの音と共に静かに絵画が真ん中から両サイドにスライドして開いた。
これは完全に…
「え… エレベーター…?」
そう、それはエレベーターに他ならない。
そしてこの時俺が気になり疑問を抱いていたことが確信に変わった。
「そら… 乗るしかないよね?」
「キュ」
再び俺はミュスカの肩に飛び乗り、一緒にエレベーターへと入っていく。
中には行き先階のボタンが二つあり、一つは今点灯しているここのフロア、そしてもうひとつが上の階になっているのだろう。
扉が締まりミュスカが上の方のボタンを押した。
するとエレベーター特有の何とも言えない感覚と共に動き出したのがわかる。
その感覚を感じながらも先ほどまでの情報を頭のなかで整理していく。
まず疑問に思ったのは紙のクオリティ、明かにこの世界の技術推移を超えているはずだ。
あの白い空間でヴィオニエが言っていたが、この世界に前世程の機械的技術は存在しないはずなのだ。
そしてあのオカマ野郎の格好、明かに忍を意識してるとしか思えない。
更に奴が使っていた短刀、そう刀なのだ。
まだこの世界の事を全くといっていいほど知らないのだが、エルフの国の技術がこの世界の標準を下回っていたとしても刀を打てる技術とその存在自体がこの世界にあるとは中々思えない。
極めつけはこのエレベーター。
明らかなオーバーテクノロジーだ、それらから導きだされるのは…
チーンっ!!
「ついたみたい… そら、念のため警戒しておこう。」
「キュ!」
明かに上昇している時間が長かった、恐らく上層の殆どを飛ばしているだろう。
ならばこのフロアは最上階か?
ゆっくりと扉が開き白い光が差し込みその光景が広がっていく。
そこは…
「オフィス… だよね?」
オフィスだな。
《おやおや! お客さんでありますか?》
オフィスの真ん中付近に鎮座するメタリックでメカニカルな箱から声がする。
良くみるとモニターに小太りのザ・オタクが美少女のティーシャツを見事に着こなしこちらを見ていた。
「……………。」
開いたドアが閉まり始める。
《ちょ!! ま、待つでありますっ!! ちょ!!ちょ!!ちょ待てよっ。》
閉じた。
「………開ける? そら。」
「………キュ。」
仕方なくもう一度上のボタンをミュスカが押しドアを開く。
《デュフフ。 この恥ずかしがりやさんめであります! ほら降りてこちらへ来るでありますよ!!》
なんか降りたくないなぁ。
扉が閉まりはじめる。
《待つでござる! 待つでござる! 後生でござるぅ……》
閉じた。
「どうしよっか、そら? 仕方ないよね、行こうかそら」
しかたなしにエレベーターから降りてオフィスのデスクの間を通りゆっくりと近づいていく、ミュスカの右手は紫陽花にかけられ、俺もいつでも攻撃出来るように心の準備だけしておく。
《むむむ、そんなに警戒するなであります! こちらに敵意はないであります。 》
「いや、警戒するだろどう考えても。 下のフロアで散々襲われて来てるのに。 それに俺達以外の転生者は初めてだしな。」
「ふむふむ、 一理あるでござるな。」
やっぱり通じたか。 何となく感じていたけど…
「あなたそらの言葉がわかるの?」
「当たり前でござるよムフフ、 拙者も元々魔物の類いでござるし、それにそちら、同郷であるようでござるしね。 デュフっ転生者乙!」
おうふ。
モニターの彼が中二感丸出しの決めポーズを披露している。
「同郷ってことはあなたも日本人なの?」
「見てわからないでござるか? 拙者の嫁に見覚えがござらんか?」
そういって自らのティーシャツを指差す。
「ごめんなさい。 私はあんまりその… 詳しくなくて。」
「俺は一応見たことはあると思うけど名前とかはちょっと…」
《なんとっ!! あの時代の日本を彩った名作のヒロインですぞっ!? 同じ日本人として恥ずかしい限りでござるなぁ。》
「で、何でお前はこんなところにそんな姿で一人でいるんだ? それにこのオフィスみたいなのはなんなんだ?」
《よっくぞ聞いてくれましたなっ!! ぬふっ それを語るには拙者の転生までと異世界ライフを一から説明せねばならぬでござるな! あれは…そう、蜩のもの悲しい声をバックに繰り広げられた夏の夕刻から始まるでござる…》
「勝手に回想初めようとしてるとこ悪いけど手短にね、なんか無駄に長そうだし。」
《我が儘でござるなぁ、まぁ御意でござる。》
次はオタクの回想回・・・笑




